世奇物語2022夏 2
2 何だかんだ銀座 ★★★☆☆
銀座というブランドのはちみつを木に垂らすと、ニホンオオカネモチを捕まえることができる。見た目は完全に人間ですが、いわゆるカブトムシやクワガタを飼うようにニホンオオカネモチを家で飼うことになる主人公のゆうすけ。もしもカブトムシが金持ちだったら、に当てはめて、ニホンオオカネモチは生活環境も気をつけなければなりません。食べ物も銀座のもの、高級な家具、高級なフィットネスなどへ時々連れて行かないと病気になってしまう。
やがて育てるのにお金がかかりすぎたことと、父親がリストラに遭ってしまったことからゆうすけはニホンオオカネモチを手放すことになる。
時は経ち、ゆうすけも就職することになった。就職した会社で突然会長からお呼びがかかる。そこで出会ったのは何とあの時泣く泣く手放したニホンオオカネモチだったのだ。感動の再会と思いきや……!? 今度は会長に虫取り網でつかまってしまうゆうすけなのでした——。
原作とちょっとラストが異なるようですね、原作は感動で終わるとのことでした。
一つのテーマを異なる世界で描いてみると面白い作品が出来上がります。似たものに、カーズやズートピアなんかも人間がやるだけならただのヒューマンドラマですが、それを車、動物で例えてみると、ところどころユーモアがでて面白いです。その中で、今回のように、ラストで自分が就職するという展開をもってくるとニホンオオカネモチとつなげる事が出来るので、何とも心地いいオチにつながります。
3 メロディに乗せて ★★★☆☆
突如、脳内に流れる音楽に合わせた行動をとらないと脳が異常反応を起こし、最悪の場合は死に至る“脳内メロディ症候群”という奇病にかかってしまった叶海。日本に3人しかいないその奇病に叶海は苦しむことになる。どれだけ悲しくなくても脳内に悲しいメロディが流れたら悲しい行動を取らなければならないし、どれだけ悲しくても、明るい音楽が流れたら明るい行動を取らなければならない。
しかしそんな中、同じ病気を抱える充と出会い、恋に落ちる。お互い励まし合いながら生きていこうと誓っていた最中、実は叶海に恋をしていたストーカー男が充を殺そうとする。この男も何と3人目の脳内メロディ症候群の一人だった。叶海は死を覚悟して、メロディに反し充を助けようとする。その決死の覚悟が実って、充は助かるのだが、なんと充は自分の脳内メロディーに従って、叶海を刺してしまう。自分の命を優先したのだ。
さあどうなるか、というところで、3人の頭に同時にとあるメロディが流れる。それは聞くと全てが終わる、というメロディ。まさに「世にも奇妙な物語のテーマソング」だった。これを聞いて、このお話はおしまい。
ストーリーを考えるときに、使えるテクニックがあります。それは一つの何気ない生活、方向性の中に、一つ大きな足枷を加えるというものです。これだけで簡単でよければストーリーが出来上がります。
例えば、
「英語をしゃべれない症候群」
英語を喋ったら死ぬ。喋らないように生活するのだが、みなはそんなことを知らないので、変人扱いする。
「良いことしたら死ぬ症候群」
良いことをしてないけない体になる。みんなから冷たい目で見られるようになる。みんな離れていくが、とある人だけは自分を信じてくれた。その人が窮地に陥り、助けるために掟を破って良いことをしようとする、さて主人公を待つ結末は?
今回は脳内に流れるメロディ通りに行動しないと死ぬ、という足枷を元にストーリーが展開していきます。持っていきようによっては色々な展開が作れます。世界に3人という稀な病気がこんな近いところに3人集まっている、という点が個人的には気になりますが笑
「3つの◯◯」というタイプも好きですね。
拙作に以前KACで書いた「どんでん返しは3度ある」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894637270
というのもありましたが、3枚のお札というのもありますよね。通常であれば、山へクリを拾って帰る。何も起きなければこれでおしまい。しかし、「山には鬼ババがでるぞ」という伏線(ここでは足枷)とそれを解決するための「何かあったらこの3枚のお札を頼りなさい、きっと助けになってくれるぞ」というフラグ。この3枚がきっと何かしてくれると勝手に読者は想像力を駆り立てられますよね。
結局最後は和尚さんの度胸と知恵の破壊力が凄まじい終わりですが笑。和尚さん、やっぱり最強です。
よし、「メロディに乗せて」の話を元に、自分もお話を作ってみよう!(完成したらupします)
4 電話をしてるふり ★★★☆☆
ナンパ撃退法としてパパと“電話をしてるふり”をしていた望。ある日、ナンパ男にそのふりを見破られてしまいスマホを奪われてしまう。焦っていると、男が誰かと喋っている。相手はパパらしい。でもそんなはずはない、だって、望のパパは望が11歳の時に他界しているんだから。その後もどうやら本人は話せないが、近くの人に代わるとその人はパパと喋れるらしい。
結婚前夜、望は母が父と喋れるように電話を繋ぐ。半信半疑だった母は実際に話せる事に驚きを隠せなかった。でもやっぱり自分は話せないまま。今回もこのまま終わるのか、と思っているとなんと父の声が聞こえてきたのです。最後の最後に父からのメッセージをもらい、涙を流す望。
死んでしまった人と繋がる、系は感動しますよね。
死者とつながる電話といえば、
「死者の声が聞ける電話」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884416006
これ2019年だからだいぶ前ですね。
電話をしているふり、で逃げるという戦法を、実は本当に繋がっていた! という設定は非常に魅力的です。ついうるっとしてしまいました。ただ、どうして望は喋れなくて、他の人はしゃべれたのか、どうして最後の結婚前夜だけしゃべれたのか、このあたりが何か一つあればしっくりきたのですが、尺の影響で入れられなかったんでしょうね😓
やはり、2020年7月の「燃えない親父」のように、何か通常とは違った現象が起きたら、それを解決する、という流れはいいのですが、そこに何か「そういうことか!」と思わせる一手があると、見ている人は痛快な気分になります。
「燃えない親父」は火葬しようとしてもどうしても燃えない、何か心残りがあるんじゃないか、ということで色々家族で掘り起こしてみると、実はそれぞれ気づかれなかった背景や思いがあることがわかって、最後はきれいに燃えて終わる、という見事な作品でした。
パパと、代わった近くの人(友人や母)は話すことができるのに、なぜ自分だけ話すことができないのか。自分ならどうするでしょうか。こんなお話はどうでしょうか。
電話のふりをすると自分は話せないが、近くにいる人だけが話せる。この不可解な現象を望は友人に相談した。
「望のパパは望のことを大切に思ってたんだよね?」
「そりゃそうだよ……反抗期だったけど」
「だったら、きっと話せるはずだよ」
「でも……」
友人は眉に皺を寄せた。
「伝える、ってなにも言葉だけじゃないじゃない。言葉よりも大切なものもあるんじゃないかな」
「言葉よりも大切なもの?」
うん、と友人は頷いた。
「木を見て森を見ず。望は目の前のことに縛られて、何か大切なものを見落としているんじゃないかと思うの」
望は口をへの字にした。
「何よ、それ。わかったようなこと言って」
友人は舌をぺろっとだした。
「ごめん、ドラマの受け売り。でもさ、間違ってないと思うよ」
望は気になることがあった。本当はパパは自分を愛していなかったんじゃないかって。知らない友人、そこらへんにいるおじさんとさえパパは喋れるのに、なんで自分としゃべれないのか。それは自分を愛していないからじゃないかって。
——本当に大切なものはいつも目の前にあるんだよ——
父が望によく言っていた言葉である。
結婚前夜、同じように電話をするふりをする。やっぱりパパはでない。そこでママに変わると、ママはパパと話をできたようだ。ママとパパの話が終わり、自分にスマホを代わってもらう。
「パパ、私ね。明日結婚するの。パパ——」
やはりいつも通り、声は聞こえない。涙があふれてきた。娘としての最後の日でさえ、パパは私に声を聞かせてくれなかった——。やはりパパは自分を愛していなかったのだ。
——大切なものはどこにあるんだっけ? ——
記憶の中のパパの言葉が蘇ってきた。望は目を閉じた。そして大きく息を吸ってから、ゆっくり目をあけると、そこには。
「パパ?」
目の前にパパの姿があった。優しい笑顔でじっとこちらを見つめていた。
「やっと気づいたね。ずっとこうしていたんだよ」
「なんで——早く言ってくれなかったの」
「ごめんな、向こうから気づかないと話しかけちゃいけないルールになってるんだ」
「毎回、いたの?」
パパはこっくりと頷いた。
「ずーっと見てたよ、望のこと」
望はパパの胸に飛び込んだ。
「望、大事な話がある。よーく聞いてくれ」
望は涙でぐしゃぐしゃになりながら頷いた。
「パパが神様にお願いした条件は、娘の電話と繋がること。どうやら結婚したあとはもう話せないらしい、これが最後だ。でも父さんは幸せだよ、望の大きくなった姿を見ることが出来て——」
こうしてパパの奇跡は終わった。でも大丈夫、パパはいつだってそばにいる。
みたいな終わりかたでしょうか。
これで今回のレビューは終わりにします。
3話の「メロディに乗せて」を参考に自分ならこう書く、という話を後日アップしますので、よろしくお願いします。
ここまでお付き合いいただいた方、ありがとうございました!
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