八月某日、磯山あき

秋永真琴

 磯山いそやまあき@小説家 isoyamaki

 今朝も「仕事に行きたくない」「労働は敵」だというツイートがたくさんw みんな大変だね……。でも、どうして好きなことを仕事にしないのかな? やりたくないことから遠ざかる方法はあるはず。自分の好きなことを仕事にするのは、大変だけど楽しいよー。

 08時46分


 磯山あきはツイッターを閉じる。

 テキストエディタを立ち上げて、仕事に取りかかる。女性向けのウェブメディアに載せる原稿だ。知り合いのフリーライターから紹介され、月に一本のペースでやっている。テーマはいろいろ。今回は「女子力を高める恋愛小説」を三冊お薦めするというものだ。

 八百字ほどの文章を書き終えて、担当者に送信する。すぐに受領確認と修正提案のメールが返ってくる。少し書き直す。今度はOKが出る。記事は明日の正午に掲載されるらしい。

 朝に投下したツイートに、いくつか返信リプライが来ている。

 

 コヅカコースケ kozuka_photo

 @isoyamaki さすがあきさん 愚痴ってばかりじゃ何も変わらないよね 自分から環境を変えていかなくちゃ

 09時29分


 千堂せんどうミルナ mirusend

 @isoyamaki わかります。わたしも専業作家になるのは本当に怖かったし、今も将来は不安だけど、一日中小説を書いていられることが幸せです。

 10時02分

 

 おおむね、このような共感や肯定の内容であり、磯山あきはそれらに「いいね」をつけたり、リプライを返したりする。


 普通の日本人(59歳会社役員) NORMALJAPAN

 @isoyamaki みんなが、好き勝手なことをやったら、社会が、機能しない! 男は、我慢して、つらい仕事をしている! 貴女も、小説家なら、もっと社会に、目を向けなさい!

 08時57分


 中にはこんなリプライもある。磯山あきは普通の日本人(59歳会社役員)をブロックする。

 

 磯山あき@小説家 isoyamaki

 原稿が上がった! ウェブの文章は「軽さ」が求められるけど、私は小説家なので、どうしても「重さ」が加わってしまうw これからも精進だなー。

 11時33分


 磯山あきは出かける支度をする。

 ていねいにメイクをして、ボブヘアーを内巻きにする。立ち襟の半袖ブラウスにフレアスカートを合わせ、パンプスを履き、革のトートバッグを肩にかけて、マンションを後にする。マンションは十階建てで、磯山あきが住んでいるのは九階だ。

 最寄りの南郷なんごう18丁目駅まで、徒歩で五分ほどかかる。そこから地下鉄に乗れば、およそ十五分で札幌さっぽろの都心に着く。

 真夏の空の下を歩きながら、磯山あきはスマホを操作する。

 

 磯山あき@小説家 isoyamaki

 暑い……溶ける……w でも打ち合わせに行かなくては……

 12時27分

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