あの日の記憶

尨犬 蓮

 

___最後に君に会いたかった

彼女は、そう言い残し帰っていったそうだ。

だが、そんな言葉も姿も見ることなく僕は卒業した。


「お前、彼女とかいるの」

そう、友人に聞かれた。

「……いないけど」

「何だよ、その間は。怪しいな、本当か」

「ああ、本当だよ」

前はいた、と話そうとしたがチャイムが鳴ったため、この話は中断することになった。

どうせ、授業が終わったらしつこく聞かれるのだろうが。

授業中は、流石に静かだった。

「それで、彼女は」

授業が終わるとアイツはやはり聞いてきた。

「いたよ。今はもう別れて、たぶん学校も別だと思う」

「たぶんって、確かではないのか」

「クラスメイトの顔すら全員は覚えてないんだが」

「まあ確かに、分からんか」

正直に言うと見かけたかもしれない。ただ、別れた相手を探すのは元彼としては、どうかと思うのでそんなことはしていない。

「……俺が見つけてやろうか」

彼女がどの学校にいるのかそれは知りたい、と思い、見つけてもらおうとしたが、今となっては僕には関係のないことだ。

「いや、相手にも迷惑だろうし、別に気にしてないから」

「了解。……ところで、相手はどんな子なのかね」

喋り方がウザく感じるが、隠すこともないので教えようと思った。

が、しかし

「……悪い。写真がない」

「嘘だろ。全部消したのか」

「消したんじゃなくて、撮ってないんだよ」

今思えば一緒に出かけたことも少ない気がする。酷かったかな、と罪悪感を覚えるがそんなこと考えても時間が戻ってくる訳ではないので、もし会うことがあったら謝っておこうとは思う。

「それはどうなんだよ」

「悪いとは思ってる。そのときは緊張してたりなんやりで話しかけるのもやっとだったんだからな。しょうがないだろ」

「次はうまくやるのか」

気味の悪い笑みを浮かべながら尋ねてきた。

「次も何も、付き合うのはアイツが最初で最後だと思うぞ」

「そんなこと言わずによぉ、大学来たんだから彼女作ろうぜ」

なんでそんなことしなくちゃいけないんだ、とも思ったが乗るだけのって彼女を作れなかったときに笑ってやろう、そんなことを考え

「……はぁ、わかったよ」

と、言ったがそこから予想外の答えが返って来た。

「じゃあ、明日、俺の家集合な。」

「……は」

何をするかも説明せず帰りやがった。


「おかえり」

いつものように管理人さんが挨拶をしてくれた。

「ただいま、管理人さん」

挨拶を返し、自室に入った。

 ……どうしたものか。アイツの家で何をするのか、それを確認したいが連絡先なんて交換していない。彼女を作ろうなんてことを言っていたから恐らく女子を呼んで食事でもしよう、みたいなかんじだろう。今までも何度かあったからな。

 考えているといつの間にか時間が過ぎ、寝てしまっていた。


 チャイムが鳴り響き、起こされた。目覚ましではなく、インターホンの音だ。寝ぼけた頭で玄関まで行くと

「おーい、もう10時だぞー。起きろー」

「はいはい、起きましたよ。……何の用」

「え……。今日、俺の家集合って言ったじゃん。忘れてたのか」

「……ワスレテナイ、ワスレテナイヨ」

忘れてましたよ、忘れてましたが何か。

「……まぁ、いいや。早く準備しろよ」

そう言って上がって来た。良い機会だと思いアイツの家で何をするのか聞いた。

「そういや、なにするんだ」

「……言ってなかったか。数人女子呼んで食事でもしようかと」

「あっそ」


 準備を終え、アイツの家に向かった。

「なあ、食事ってどこでするんだ」

「俺ん家だけど」

「そっか、準備頑張れよ」

「お前も手伝うんだよ。何のために朝呼んだと思ってるんだ」

「面倒くさ」

そんな会話をしながら蝉の音が五月蝿い道を歩き、アイツの家に着いた。

「それで、朝叩き起こされた俺は何を手伝えばいいんですかね」

「バーベキューでもしようかとおもってるんだが……、肉も野菜も無くてな」

そんな無計画でよくやろうと思ったな、と呆れていた。

「全く、少しは計画を立てたらどうだ」

「計画は立てていたんだが色々忙しくてなあ」

どうせ女子が誘えず時間が過ぎたんだろう。

「まあ、お疲れ様」

 その後、アイツが

「こんなことしてたら時間になっちまう」

とか言い出したので食材を買いに近所のスーパーに行き、昼頃になった。そして、アイツが呼んだ女子が来たところでちょっとしたハプニングが起きた。

___ポツリ、と雫が落ちてきた。

「雨だ」

誰かがそう呟き、皆が空を見上げるとそれまでポツ、ポツ、としか降っていなかった雨が勢いを増した。雨が降っていてはバーベキューは出来ない、と言う意見が全員から出たため解散となった。

「全く、何でこんなときに雨なんて降るのかね」

「そんなにやりたかったのか」

「いや、買ってきた食材無駄になるかもしれないじゃん。おれ一人じゃこの量は食いきれないからな」

確かにそれは一理ある。そう思い、半分くれないか、と言ってみた。

そしたらアイツは

「いいのか」

と、うれしそうに野菜だけを俺に渡してきた。

「お前、少しは野菜食えよ」

「お断りします」

そう言って、肉を冷蔵庫に入れ始めた。

仕方ないので俺は野菜だけを持って帰ることにした。

「わかったよ。また今度な」

「おう、またなー」


 雨が降るなかアイツからかりた紺色の傘をさし、水飛沫を上げながら走る車を横目に歩いてた。交差点に来たところでふと、赤色の傘が目に留まった。俺はそれを指してる人を懐かしく思い、何故か走り出した。

 その瞬間、目の前が眩く光り、それは赤い水飛沫を上げ、通り過ぎて行った。

周りの声が聞こえなくなり朦朧とした意識のなか、彼女が何かを言っているような気がした。

俺は

「最後に君に会えてよかった」

と呟き、目を閉じた。


 目が覚めると、そこは白い空間__病院だった。体のあちこちが痛むなか辺りを見渡すと、彼女がいた。

俺は彼女に

「ごめん」

と言い、深い眠りについた。

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あの日の記憶 尨犬 蓮 @mukuinu_ren

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