嘘ルポルタージュ

坂無さかな

太長い黒春雨

ある夜道路に春雨が落ちていた、人の背丈ほどの春雨が

それもひどく太くて黒い春雨

私はソレに何故だか恐ろしさを感じ、二度見したい気持ちを抑え足早に自宅へ逃げ帰った

白くて細短いのが春雨ではないのかと憤慨する諸兄の姿が目に浮かぶには浮かぶのだが無視しようと思う、現代社会において出る杭は打たれるのである

問題は「何故私が道に落ちていた人ほどの長太く黒い物を春雨だと認識してしまったのか」だ

ここで私は二つの仮説を建て話を進める事とする


【仮説1】シミュラクラ現象

三つの点の集合を脳が目と口だと判断し人の顔として認識してしまう現象で、わかりやすくいうと天井のシミが人の顔に見えるというアレである

つまり春雨を構成する要素を簡略化したものが二つほど揃っていれば私の愚かな脳が春雨ではないものを春雨と認識してしまうのではなかろうか

春雨を構成する要素としては白くてほs……却下だ、黒くて太長い物体を春雨と認識した現象に対する考察なことをすっかり失念していた

仮説2に全てを託そうと思う


【仮説2】ストループ効果

赤いインクで「青」と書かれていると赤いのか青いのか混同するアレである

つまり先ほどの黒くて太短い物に「春雨」と書かれたシールが貼ってあったのではないか、という仮説だ


仮説2は我ながら悪くない、早速先ほどの現場に向かって確認することとした

現場には先ほどの物体の跡形はなく、いつのまにか降り始めた雨音だけが響くのみ

狐につままれた様な気持ちの私をすれ違ったスーツ姿の男が一瞥し、酷く怯えた顔で足早に立ち去った

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