邂逅

『今日のご飯は――――。』『おしっこが爆発した!!』『野菜をしっかり取らないと――――――。』

(よーやくそれなりに聞き分けられるようになったな…。ウサギっつーのは聴覚も凄いけどけど聞き分ける力も凄いんだなぁ…)


 そんなことを考えながら、いつものように「使い魔入門」のページをパラパラとめくる。頭の上の白玉も一緒になって覗き込んでいる。


「……?????????」……あまり理解してはいないようだが、「それでも楽しそうである。


 あの失神劇から大分時間が経過していた。そろそろ夏休みの終わりが見えてきたところである。


「あーあ、結局ほぼコントロールだけで時間が潰れちまったなぁ…ハァ…」としょうもない愚痴を誰に言うまでもなくこぼしていた。


(まったく、転生したらなんかすごい力が使えるようになるとか、すごい才能が目覚めるなんて幻想でしかないんだなぁ…。結局生まれ変わっても凡人は凡人のままなんですねぇ……)


 あまりにも当たり前なことを考えながらもページをめくる手は止まらない。と、ある文章が目に留まった。


『使い魔と心を通わせるようになり、なおかつ鍛錬してある程度強くなると「強化」が使えるようになる。強化の種類にはいろいろあるが、代表的なのは巨大化や縮小化、感覚の鋭敏化などである』


「ぬっ強化とな」そう口に出しながら頭上の白玉に目を向ける。


「……?」(汗)

「なんだお前、そんなことできるようになるのか?」

「……!」(汗)アタフタ


 無茶言うなとばかりに白玉はあたふたと全身を動かして抗議する。


「まぁ、まだ無理か…、出会ったばっかだもんなぁ」

「……!」ウンウン


 そりゃそうだといわんばかりにうなずく白毛玉が一羽・・・。


「よっしゃ、気分転換に外ぶらつきましょ。つか裏山行こ、裏山」「!!!!!!!!!!」


 賛成とばかりに優人の頭の上で白玉がわちゃわちゃ蠢く。


「えーい!わちゃわちゃするな!この毛玉め!」

「!!!!!!!!!!!」


 ウサギは聞く耳を持たない!


(この野郎…)と心の中で毒づきながら外に出た。


家を出てのたのた歩きながら、あらためてウサギの長所についてあげていく。


(ウサギは耳がいいのは周知の事実だけど、鼻が犬の次くらいにいいってのはあんまり知られていない気がするなぁ…、あと味覚も人間よりも優れてるって言うしな)


 ウサギの嗅覚は犬の次に優れているといわれ、一説には人間の10倍ほどはあるといわれている。そのほかにも味覚は味蕾細胞(味を感じる細胞)が人間は約1万ほどのところ、ウサギは1万7000ほどであり、8000種類ほどの味を感じ取れるという。


(あとは…なんかの本に出てきてたな、ウサギは骨が脆い代わりに、筋肉がすごいんだって…)


優人は額に手を当てて、朧げな記憶を掘り起こす。


(良し、取り入れる要素はこのくらいでいいか、。でもそう考えると)


と、頭上の白い毛玉をちらりと見やる。


(ウサギって色々できるんだな…)

「……!」フンス!


 どこか誇らしげなウサギを頭に乗せながら、裏山へ行く道をぶらぶら歩いてると、微かに何かのうめき声が聞こえる。


「うん?なんだこの声は?」

「……?」


お互いに耳をぴくぴくさせながら声の下方向へと足を向け、走り始める。


 声の主との距離はそう遠く離れていないらしく、子供の足でもすぐにたどり着けた。


 そしてそこにいたものは……。






「モ……モグ~」

「モグラだ……」

「……」(汗)


 体長15センチほどの、迷彩模様の死にかけのモグラが這いずっていた。


「………」

「モグ~…」


 何か考えがあるのか?それともただの気まぐれか?優人は両の手に力を込め始める。


 そして勢いよく両の掌を名も知らぬ死にかけたモグラへと突き出して……。




  トリャーーーー! モグーッ!?









―――――――――







「ただいまー」

「はーいおかえりー。またゆうは裏山へ行ってきたの?まったく好きねぇ~、ちゃんと帰ったら手を洗うのよ~」


「あーい」

「モグー!」


 優人の返事から少し間をおいてから返事が返ってきて母は「うん?」となった。何か変な声が聞こえてきた気がしたからだ。変な予感がして台所から顔を出し優人を上から下まで眺めてみる、と腹部あたりに迷彩模様のものがこびりついているではないか。


 よく観察するとはもぞもぞと動いていて……。


「ギャーーーーーーー!優人!おなかのソレ!何!?」


絶叫しながら聞いてくる母と対照的なヌボーっとした表情で返答した。


「使い魔、名はモグドンじゃ」「またですか!もうですか!」


 と父が帰ってくるその時までこの騒ぎは続いた。


「モグー!」

「……」(汗)


二匹の獣はこの騒ぎを主人と似たようなヌボーっとした表情で他人事のように眺めていた。

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