オリジンワールド
HIGEKI
脱獄
第1話始まりの場所
白い世界の中心に一人の少女が座っていた。 無彩色の世界には彼女しか存在しない。
少女は白が好きだ。
彼女をその胸の高鳴りごと優しく包んでくれるから。
少女は白い世界で生まれ育った。親はいない。少なくとも彼女は知らない。この世界には彼女しかいないのだから。
一人ぼっちの彼女がなぜ胸を高鳴らせているのか。理由は簡単。大切な人を待っているからだ。
矛盾はない。彼は外からやってくるのだから。
ーー 白い世界が黒に飲み込まれる。
「あっ! 来た」
少女は満面の笑みを浮かばせながら立ち上がる。
胸の高鳴りは最高値に達していた。
黒い世界の中心に一人の少年が現れる。
「やあ、こんばんは。待たせちゃったかな」
少年は少し申し訳なさそうに笑いながら手を振った。
「待ったよ。とっても」
「えっ、ごめんね。明日遠足でさ。楽しみで来るのが遅れちゃったんだ。本当はもっと早く来たかったんだけど......」
「大丈夫だよ。きみを待つ時間はとても楽しいから。いつも来てくれてありがとね」
少女は満面の笑顔で唯一の友達にお礼をいう。
「そういってくれると嬉しいけど、やっぱりきみは少し変わってるね」
少年は少し複雑そうな顔をする。
彼は知らないのだ。一人ぼっちの世界で生きている少女の心を。
少年には親も、友達も。帰るべき家もあるのだから。
「そうかな。やっぱりこんな私嫌い?」
「そんなわけないよ。嫌いだったらここに来ても、きみに話しかけないよ。きみには僕の持ってないものをたくさん持っているから大好きだよ。人を待つ時間を楽しく思えるところもその一つさ」
少年は少女の悲しい言葉を一蹴する。
見た目にそぐわない言動で。
「私もきみが大好きだよ。きみのためならなんでも出来るくらいに」
「大袈裟だな。ところで今日はなにして遊ぶ?」
「昨日話してくれた遊園地ってやつで遊ぼうかなって思うんだけど、どうかな?」
「遊園地創れるの? やっぱりきみは”魔法使い„だね」
少女は魔法使いだ。想像したものをつくることが出来る。
彼女が唯一胸を張って特技といえることだ。
「じゃあ、いくよ。えい」
少女が大きく開いた両手前に突き出す。その先には......
「うわぁ...... 遊園地だ!」
少年は黒い世界に突如現れた遊園地に年相応に、はしゃいでしまう。
闇の世界で光を放つ遊園地はより一層魅力的に見えた。
「どれから乗る?」
「僕はメリーゴーランドから乗りたいな」
「わかった。じゃあ、いこ? 」
少女は手を差し伸べる。
「うん。行こう」
差し伸べられた手を少年は握る。
少女も強く握り返す。彼を離さないように。
二人は走り出す。”夢の国„へ......
少女は黒が好きだ。
彼と彼女を繋ぎ止めてくれるから。
黒い世界で少女は少年に出会った。彼女は少年のことを全て知っている。少なくとも今の彼は。この世界で毎日彼と過ごしてきたのだから。
観覧車のゴンドラから少女は下を眺める。
最初に乗ったメリーゴーランドから発せられる小さな光が闇の中で輝いていた。
「きれいだね」
「うん。まるで夜空みたいだ」
「夜空みたい?」
「あ、そうか。きみは夜空を見たことがないのか」
少女は白い世界と黒い世界しか知らない。
夜空どころか、星という存在も知らないのだ。
「太陽っていう大きな火の球みたいなものが僕が住んでいる世界を照らしているって話は前したよね」
「うん。太陽のお陰で世界が明るくなって空ってやつが青く見えるんでしょ」
「そうそう。でも太陽はずっと照らしてくれているわけじゃない。一日が終わりに近づくと太陽は沈んでしまうんだ。そしたらこの世界みたいに青かった空が暗くなるだ」
「ふーん。なんか私がいる世界と似てるね」
「たしかにね。それで太陽の輝きで見えなくなっていた星っていうものが見えるようになるんだ。それが物凄くきれいなんだよ」
「メリーゴーランドの光とどっちがきれい?」
「夜空の方がきれいさ。星はメリーゴーランドの光の数よりたくさんあって、一つ一つ形が違うんだ。大きかったり、小さかったり。色も違ったりみんな個性があるんだよ」
「見てみたいな...... 夜空」
少女は寂しそうに呟く。
彼女には夜空を見ることが出来ない。白い世界に捕らわれている彼女には。
「僕が見せてあげるよ」
「えっ」
少年は真っ直ぐに少女を見つめる。
「僕がもっと勉強して、きみに夜空を教えてあげる。そしてきみが夜空を創るんだ」
「でも......」
「きみは”僕のためにならなんでもする„といってくれた。今度は僕がいうよ」
少年は立ち上がる。
「きみのために夜空を見せる。そのためならなんでもする」
少女は震えた。心が。
彼が一層愛おしく思えた。
少女は目をつぶり息を吐く。
立ち上がり、目を開けて想いをぶつける。
「ありがとう。大好きだ......」
彼女から笑顔が消える。
目の前にもう彼はいない。気づけば世界は白く塗りつぶされていた。
少女は黒が嫌いだ。
彼を彼女から容赦なく奪っていくから。
少女は白が嫌いだ。
彼女に”独りぼっち„だと冷酷に告げるから。
少女はゴンドラの中で涙を流しながら眠りについた。
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