トカレフ
父が死んだとき、スーツの男達がやってきて箱を渡された。日焼けて古めかしい匂いのするその中には、拳銃が入っていた。
学校から帰るとまずは机の引き出しを開ける。鎮座する箱を開け、金属の塊を手にもつ。トカレフ。トゥルスキー・トカレヴァ1930/33。銀ダラ。クロムのメッキはそれが中国から密輸された所詮まがいものでしかないということを知らせるがそんなのはどうでもいい。これは人を殺せる。その暴力を内包した美しさに惹かれる。想像する、クラスの気にくわない連中を撃つとき。僕はそのストレスからの解放とトカレフの勇姿に絶頂するだろう。ああ……
ある昼下がり、帰路で路肩に止まる車を見ゆ。テストが終わった僕の足は軽い。車をしばし注視。開け放たれた窓から足が投げ出されている。カーラジオからの音楽も聞こえる。いびきから察するに運転手は眠っているようだ。
そのあまりの無防備さに僕はなぜだかわからないけれど今だ、と思った。
幸い僕の家と学校は近い。走る。すぐに家に着くと玄関を抜け自室に急ぐ。
トカレフ。ああトカレフ。待っていて。
……車の窓をのぞき込む。男だ。少し震える銃口を男のこめかみに当てる。起きない。引き金に人差し指をかける。引。飛び出した7.62mm弾が鮮血を生む。飛び散った脳漿が反対側の窓に飛び散る。
僕はとても満たされた。
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