『夏眠』

やましん(テンパー)

『夏眠』

 *このお話は、まったくの、フィクションでありまして、現実とは一切、関係ありません。


 * これも、一種の、筋が通らない、『怪談』であると、お考え下さい。


 * 夜間、もだえ苦しむやましんの、夢からこぼれ落ちた、妄想であります。

 


    

         🌞  🌞  🌞  🌞  🌞

   


 人間は、体温が42度を超えると、生存自体が困難になるのだそうであります。


 なので、体温計にも、それ以上の目盛りはないのだとか。


 夏場の気温が、夜間でも摂氏45度を下回らなくなり、昼間は、55度を越えるという日も、普通に、現れるようになったことから、そんななかで通勤したり、屋外で仕事するなどは、人類にとっては、自殺行為以外のなにものでもなくなり、冷房の費用や、外出に使う、まるで宇宙服のようなスーツは、おそろしく高い事もあって、さらにまた、人工知能の性能も、飛躍的に高まったことからも、特に無理して起きていなくても、社会に支障のない人たちについては、『夏眠』をする法律が、ついに、国会で成立したのです。


 もちろん、最初のころは、強制ではなく、自己判断によるものでしたけれど、やがて、強制力を持つように改正されました。



 とはいえ、この、とてつもない暑さを、個人の費用だけで乗り越えるためには、それなりの資産と設備、また服装などを揃えることが必要であり、かなり大変なのでありました。


 お金と地位のある人間でないと、起きて働いては、いられなくなってきたのです。

 

 『夏眠』しないことは、この国では、エリートの証しだったのです。


 そこで、働きざかりで、しかも、どうしても出勤してもらわないと困るという人には、会社や国、自治体が、共同で援助をすることも、決められました。


 例外をのぞく(つまり、秀才とか、天才とか・・・)多くの学生も、『夏休み』と『夏眠』を、いっしょに取ることになりました。


 摂氏60度に近い環境で、野外スポーツなどは、ほぼ不可能になりました。


 伝統的、夏のスポーツ行事や文化行事などは、時期を大幅にずらして、行われるようになったのです。


 『夏眠』は、一部の大金持ちは別として、一般的には、病院のような巨大施設で、まとめて行われるのです。


 もっとも、ずっと、まったく寝てばかりではなく、多少の運動や入浴なども、半分寝たまま、定期的には行うのですが、大方は、睡眠状態を継続させます。


 消費するエネルギー、食事、その関連費用が、大幅に減少します。


 もちろん、いくらかはかかる『個人負担費用』は、『高齢者』は、自分の年金をそれに当てます。


 年金受給年齢ではない人たちは、その個人に『擬制』される、『ロボット』さん、の、稼ぎからねん出します。


 もっとも、『ロボット』さんの、維持費用もかかるので、夏場の3か月ほどの稼ぎは、まあ、パー、でありましたそうな。


 うっかり、自己判断で、『夏眠』しないで遊んでいたり、勉強したりしていたら、まあ、お金があるなら、それも良いのですが、もし、熱中症や、新型の恐ろしい伝染病になったりすると、職場から、非難ごうごうとなります。


 余計な医療費がかかるからです。


 初期時代は、やはり、様々な問題がありましたし、あまり長期化するとも、有力な政治家さまは、考えていなかったらしいのですが、実際のところ、事態は良くならず、夏の期間は、ただ、ひたすらに、長くなるばかりでした・・・・・・・。



  ************   ************


 

 長い時間が経ちました。


 途中の経過がどうだったのかは、もはや、判りません。


 ジュール・ヴェルヌ氏の古典的名作、『タイム・マシン』では、大戦争などの後、地上に残ったイイロイ人と、地下に潜ったモーロック人が、それぞれ別の種族に進化していました。


 この国の人類は『夏眠族』と、それ以外の『人類』に分かれて行きました。


 そうして、やがて、すっかり別の生き物になったのです。


 本来は、『夏眠』しない人たちが、支配者層でした。


 しかし、どこかで、それが、ひっくり返ったのです。

 


 『夏眠族』は、やがて特に『夏眠』の施設などは、必要ではなくなり、時期が来れば、穴に潜ったり、簡単なおうちに潜んで、『夏眠』します。


 しかし、彼らには、強力なロボットが、常にサポートをするようになり、やがて、伝統的『人類』を、その力で支配するようにまでなり、年中通して、無理やりに、働かせ始めていました。


 また、食料としても、活用するようになりました。


 せっせと働く、『支配種人類』は、なぜか、いつのまにか、半年は寝て暮らす『夏眠族』の『奴隷兼食料』、となっていったのです!



 おそろしやあ~~~~~~!



 どこから、いったい、間違ってしまったのか。


 もう少し早く、考えるべきだったのですが、『夏眠族』は、そうしたことは、すでに、苦手になっておりました。


 しかし! 地球は、やがて、氷河期に戻って行き、人類は消滅してゆきました。



 いまは、ぼくたち、『昆虫人間族』の天下です!


 




  ************  🐛 ************



                        おしまい


 







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『夏眠』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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