18.俺は、少しだけ嬉しかった。

「念のため、ダズィル王国を出て、北部領地にまで足を伸ばして捜してみたが無駄だった。報告書に上がってきた通り、赤、橙、黄の魔核を持つ魔物が、短期間に次々と姿を消している。どこを捜しても、遺体すら出て来ない」


 「……跡形もなく、だ」と、彼は言った。銀色の艶々とした髪を襟足だけ長く伸ばした、切れ長の目を持つ青年。魔物特有の金の目は、僅かに黄緑がかった不思議な色合い。年の頃は、人間にすると二十代前半といったところか。見ようによっては粗野にも見える容貌は整っており、シャツの上にベストを身に着けただけという服装だというのに、どこかの放蕩者の貴族のようにさえ見えた。

 クラキオは「ご苦労様、ケルディス」と、あろうことか自らが執務をしている執務机に腰掛けたその青年、ケルディスに声をかける。扉の近くに控えているレンディオなど、目だけで命を奪えるのではないかという程鋭い視線を彼に向けていた。

 一方、ケルディスは特に気にする様子もなく「おー」と適当な返事を返してくる。手にしているのは、先程彼自身が土産だと言って五つほど持って来た赤い果物。リンゴである。彼がそれを口にすれば、しゃくりと耳障りの良い音が聞こえた。


「向こうを任されてる青の連中とも話してきたんだが、おそらく緑に成り切れてないくらいの魔物の仕業だろうと見てる。黄の魔核になって、緑になる準備をしてるんだろうってな。……消えた奴らはおそらく、食われちまった、か」


 ちっ、とその端正な顔を顰めて、ケルディスは舌打ちをする。クラキオもまた同じことを考えていたため、深く息を吐いた。

 きっかけは、十日ほど前に受け取った報告書。ダズィル王国の北部の統制を任せている、青の魔核を持つ魔族からの連絡であった。

 毎月一日に聖石が配られるため、月半ばになると治めている土地の魔物の数を再確認するよう、クラキオはそれぞれの土地を任せている者たちに指示していた。いくら契約して毎月確実に得られるとはいえ、聖石は貴重であり、無駄にするわけにはいかないから。

 その際に気付いたのだという。そこにいるはずの魔物が、いないと。


「魔物は魔族の段階に進まない限り、人間と同程度の寿命しかないけれど……。王国内で怪我や病気、年老いた魔物は皆、それぞれの地方で面倒を見ているから、急に命を落とすことも消え失せることもあり得ない。第一に、自然に命を落としたならば遺体が残っているはずだからね。王国を出る際も確認されるし、人間たちの間で討伐の動きがあったとも聞いていない。このダズィル王国内から跡形もなく姿を消した時点で、殺され、食われたとしか考えられないな」


 南部の魔物たちの活性化も何か理由があるだろうし。なんとまあ、皆、人の領地で好き勝手やってくれる。


 口に出すことなく思いながら、クラキオはまた一つ息を吐いた。

 その様子を見ながら、ケルディスはまたしゃくりと一つリンゴに歯をたてる。「けど、それも変な話じゃあるよな」と、しゃくしゃくとリンゴを咀嚼する音の合間に呟いた。


「普通、魔核を集めて次の位に上がろうって場合、その肉まで食う必要はないんだよな。食うのは魔核だけで良い。よっぽど身体の大きな魔物じゃない限り、腹が膨らんで数が入らねぇから効率が悪いし。まあ、魔力使っちまって、魔物の身体に残った魔力を少しでも補給しようって考えたんなら話は別だけど」


「……確かにそうだね。けれどもしそうなら、周囲の聖殿が襲われたという話を聞かないのも変だ。王国外の女性たちが襲われたという話も、今の所ないようだし」


 口元に手をやり、僅かに目を細める。何かがおかしい。


 俺の領地、取り分けこのダズィル王国内は、赤から黄の魔核を持つ魔物が多いと他の領地の魔物にも知られている。だから狙われたのだろうというのは分かるんだけど。


 見つかる危険性を減らすために、魔核だけでなくその身体まで口にしたと思っていたのだが、もしそうならば、人目につかない場所に捨てるなり埋めるなりすれば良いのだ隠そうと思えばどこにでも隠せるだろうに。

 隠すにしろ食らうにしろ、そこにいたはずの魔物が姿を消した以上、いずれ感づかれるのは分かっているはず。実際、今回の件が表沙汰になる前に、知り合いが姿を消したから捜していると周囲に話していた魔物がいたという報告も上がってきている。

 感づかれたら追われるということも理解しているからこそ、姿を隠しているのだとするならば、それまでにより多くの魔核を食らい、逃げるのが最善手ではないだろうか。

 考えるクラキオに、「……嫌な仮定があるのですが」と口を開いたのは、今まで黙って二人の話を聞いていたレンディオだった。


「魔核を食らうことはもちろん、魔物を食らうこともまた、目的だったとしたらどうでしょうか?」


「魔物そのものを? …………まさか。ウィンジレットと同じ系統の魔法を使う可能性か……!」


 レンディオの言葉に、はっとクラキオは目を見開く。確かにそれならば納得がいく。羨望の魔公、ウィンジレット。彼が使う魔法は。


『……アお嬢様!』


 考えていた途中に聞こえてきた声に、ぱっとクラキオは顔を上げた。今の声は、確か。

 唐突なクラキオの動きに、ケルディスとレンディオが驚いたような顔になる。「どうかしたのか?」と訊ねてくるケルディスに「いや、分からないけど……。ケルディスはここにいて」と返し、クラキオは席を立った。どうやら彼らには聞こえなかったらしい。

 足早に部屋の扉の方へと向かうクラキオに気付き、レンディオはさっとその扉を開く。かつかつと響く音は二つ。ちらりと背後を確認すれば、レンディオが自分の後ろを追っているのが目の端に移った。視線を戻して先を急ぎ、廊下の最も端へと進んで。

 突き当りにある扉を数度ノックした後、クラキオはその部屋の扉を開けた。


「失礼するよ。声が聞こえたものだから……」


 返事を待たず、言いながら部屋へと入る。昨日と同じく、聖石が山積みされた作業机。そこに座る一人の少女と、その傍らに寄り添う彼女の侍女。

 座っている少女は、机にうつ伏せになっている。傍らの侍女は、彼女を心配してかその肩に触れたまま、顔を上げてこちらを見遣る。表情こそあまり変化はないが、驚いているのは気配で分かった。


「リーリア、どうしたんだい?」


 声をかけながら、うつ伏せになった少女の元へと歩み寄る。クラキオが近づいたことで、ナールはぱっと後ろにさがった。そんな彼女を一瞥し、更にリーリアの傍へと歩み寄って。

 思わず、ほっと息を吐いた。聞こえてきたのは、すー、すーという、規律正しい寝息だったから。


 何だ、眠っているだけか……。驚かせてくれるなぁ……。


 内心で呟きながら、苦笑を浮かべる。「また無茶をしたのかい?」と、今度はナールに訊ねかければ、彼女はしっかりと頭を下げ、「申し訳ございません……」と応えた。止めきれなかったことを悔いているのだろう。今日の朝、彼女には言っていたのだ。リーリアがまた無理をするようならば、止めてくれ、と。昨日はかなり無茶な聖力の使い方をしたらしく、夕食もとらぬまま眠ってしまったようだったから。

 まあ、相手は彼女の主人なので、無理だろうとは薄々思っていたけれど。

 言葉通り申し訳なさそうな表情を浮かべるナールに、「気にしないで」と言って笑いかけた。


「また、聖力の使い過ぎだろう? 今日は最終日だし、加工が終わった聖石は明日配るけれど、聖力がなくなるまで無理する必要はないんだけどね」


 元々、聖石は集まってくる量よりも配布する量の方が幾分少ない。毎月の余剰分はこの屋敷で管理しており、もし加工が間に合わなかった場合はそちらを優先して配布するようにしていた。だから加工が遅れようとも、無理をする必要はないのである。

 そのことを、レンディオは伝えていなかったのだろうかと思いながら、視線を彼の方へと向けようとして。

 ぴたりと、クラキオは動きを止めた。視界に入った、おかしな色合い。作業机の上にあったのは、今まで見たこともない、奇妙な塊。


「これは……聖石、か?」


 皿の上に積まれた、見慣れた白い聖石と、形や大きさは全く同じだから、もしかしたらとそう呟くが。その鮮やかな色が目に入れば、確信を持つことが出来なくなる。鮮やかな色。赤、橙。そして、黄に、緑。

 これは一体何なのかと、壁際に控えたナールへ問いかけるために顔をそちらに向けて。

 「……ん……」という小さな声が、すぐ傍から聞こえた。


「…………? ……ああ、わたくし……。……だめだわ。ごめんなさいね、ナール……。無理をするなって言われたのに、また……」


 ゆっくりと身を起こすと、眠そうにごしごしと目元を擦りながら、リーリアは彼女らしからぬ寝とぼけた声でぽつぽつと呟く。ぱしぱしと何度か瞬きをして、軽く頭を振り、その手を作業台の上へと伸ばそうとして。

 ふと、何かに気付いたように、動きを止めると、ぱっとこちらを振り返った。真っ直ぐに視線が交わり、三拍分の間を空けて、彼女はぎょっと目を瞠った。「く、クラキオ、様……」と、慌てた様子で呟くと、すくりと立ち上がって礼の形を取り、「ご機嫌麗しく……」と、えらく他人行儀な挨拶を口にした。

 そういえば昨日の夜から会っていなかったな、なんてどうでも良いことを思いながら、苦笑交じりに「落ち着いて、リーリア」と呟いた。


「俺は別に怒っていないから。まあ、もう少し自分の身体を大事にした方が良いとは思うけれどね」


 「ほら、座って」と言えば、彼女はその視線を彷徨わせた後、おずおずと椅子に座り直す。その様子にまた一つ苦笑を漏らして、クラキオは今の間にナールが背後に持って来てくれた椅子に腰かけた。「聞いても良いかい?」と、困ったような顔でこちらを見る少女に訊ねながら。


「君の目の前にある、四色の塊。良ければ、それが何なのか教えて欲しいんだけど」


 それは、二百七十年以上生きているクラキオでさえ、一度も見たことのない物体。形だけを見れば、間違いなく聖石なのだが。

 リーリアはクラキオの言葉に驚いたような顔になると、「……? 聞いてらっしゃらなかったのですか?」と、反対に不思議そうに問いかけて来た。何のことか分からずに首を傾げれば、「あ、いえ……」とリーリアは慌てたように続けた。


「昨日、屋敷の敷地内の音は大抵拾えると仰られていたので、すでにご存知かと……」


 「ナールと二人で話しておりましたし……」と言うリーリアに、なるほどと頷く。確かに、昨日そのようなことを言ったし、その通りではあるが。「俺も俺で、仕事の話をしていたからね」と応えれば、今度は彼女の方がなるほど、というように頷いていた。四色の塊と、少し離れた所に置いてあった大きめの聖石を手の上に乗せ、クラキオに見えやすいよう、彼女はそれをこちらに差し出して来る。

 「では、ご説明いたしますね」と、彼女はその綺麗な顔を興奮のためか紅潮させ、嬉しそうに説明を始めた。

 他の聖女の作った聖石に聖力を纏わせた、通常の物よりも少し大きめの聖石に始まり、彼女自身の聖石を溶け合わせて造り出した、色とりどりの聖石。赤い物には十個、橙の物には二十個、そして黄の物には四十、緑の物にはなんと八十個もの聖石が溶け合わさっているらしい。彼女の手から五つの聖石を受け取り、しげしげとそれを眺める。扉近くで控えて話を聞いていたレンディオさえも、興味深げにそろそろとこちらに寄って来ていた。


「わたくしがこの部屋に持って来ていた聖石では足りず、この場で聖石を新たに造り出しながら溶け合わせていたのと、赤い聖石までは問題なかったのですが、色が一つ変わるたびに、段々とわたくし自身の聖力を使わないと、溶け合わせることが出来なくなっていきまして……」


 気付いたら聖力が枯渇し、眠り込んでしまったのだという。申し訳なさそうな顔で、彼女は肩を落とすけれど。

 彼女が造り出したこの聖石の価値を考えれば、彼女のそんな失敗など大した話ではないと思う。もちろん、あまり頻繁に聖力を枯渇させるのは身体に悪いかもしれないので、これからも用心して欲しいというのが本音ではあるが。


 この一つに、聖石が大量に圧縮されているとは……。


 誰がそのようなことを思うだろうか。


「あの、クラキオ様さえよろしければ、一つ食べてみてくださいませ。もちろん、何も入れてはおりませんし、塗ったりもしていませんが、ご心配でしたらわたくしが一度口にします。……洗ってそれを口にしてもらうことにはなりますので、お嫌でしたら何か他の方法を考えますが……」


 「お好きな色を仰っていただければ」と続ける彼女にまた一つ苦笑いを零し、首を横に振る。「君がそんなことをするなんて思っていないし、もし万が一毒が塗ってあったとしても、俺は魔物だから、腹を壊す程度だよ」と言えば、彼女は少し驚いたような表情になった後、納得したように頷いていた。


「でしたら、ぜひこの黄の聖石をお食べ下さいませ。……ちゃんと聖力が四十個分込められていれば良いのですが」


 言って、リーリアはその指先で、つんと黄の聖石をつつく。何故、緑の方ではないのだろうかと思いながらも、彼女の言葉に頷いて黄の聖石を指で摘まんだ。そのまま、それを口へと運び、歯の間に挟んで。リーリアの緑色の目が真っ直ぐにこちらを向いているのを見返しながら、がりっと、聞き慣れた音が耳に響いた。


 ……っ!? これは……。


 ゆっくりと、クラキオはその金色の目を見開いていく。口の中に広がる感触は、いつもの聖石とやはり変わらないけれど。

 舌の上に広がったのは、いつもの聖石とは全くと言って良いほど違う物だった。


「……甘い」


 ぼそりと、クラキオはそう呟いた。生まれて初めて、聖石を甘いと感じた。ほんのりとではあるが、確かに甘いのだ。


 ……砂糖の甘さ……? いや、もっと清涼感のある、すっきりとした甘さだ。


 魔物たちはいつも、こんな物を食べているのかとしみじみと思う。配布の際、嫌がりもしないどころか、嬉しそうに受け取る者もいるはずだ。

 それに、聖力も間違いなく普段の物よりも多い。喉を通ったそれは身体中を巡り、ぽかぽかと温かくさえ感じるのだから。

 リーリアはクラキオの言葉が聞こえたようで、嬉しそうにその綺麗な顔を緩めていた。


「本当ですか? 良かった……。この聖石であれば、五つお召し上がりになれば一日分は終了ですわ」


「そうだね。甘いと感じるだけでも凄いことだというのに、数も減らせるとはね……。これは、本当に凄い」


 言いながら、クラキオは次に緑の聖石を手に取った。先ほどの黄の聖石が甘いのならば、その倍の聖石が溶け合わさったこの聖石はどれほどなのだろう。思い、口に入れようとして。

 ぱっと、その手を掴まれた。驚いて動きを止めれば、その華奢な手の主は、「駄目ですわっ!」と焦ったような声を上げていた。


「その緑の聖石は、もしもの時のために、食べずにお持ちくださいませ。時間が出来た時にまた作るつもりですが、現時点ではそれが最高の出来。クラキオ様の魔力が減り、どうしようもないと感じた時に口にしてくださいませ」


 必死な様子で訴えてくるリーリアに首を傾げる。もしもの時のため。自分の魔力が減り、どうしようもないと感じた時。

 くっくっと、思わず笑った。そんなことは、有り得ないから。


「リーリア、忘れているかもしれないけれど、俺は魔公だよ。もしもの時、なんてまずないと言って良い」


 「だから大丈夫」と、クラキオは続けるけれど。リーリアは真っ直ぐにこちらを見つめたまま、首を横に振る。「駄目、ですわ」と静かに呟く彼女の目は、真剣そのものだった。


「人生、何が起こるか分からないと申します。わたくしも、社交界どころか王国中で有名な魔物の公爵であるクラキオ様のお屋敷を訪れることになるとは夢にも思っておりませんでしたわ。クラキオ様も、いつ何があって魔力が枯渇し、どうしようもない状態になるか分かりません。わたくしはそれが心配なのです。ですから……」


「…………」


 切々と、彼女はそう言葉を続けた。ぎゅうと、クラキオの腕を掴むリーリアの手に力がこもる。不安そうな表情に、打算や意図的な色はなく、自分の身を案ずる彼女の気持ちが伝わって来て。

 少しだけ、驚いてしまった。自分の事を、本気で心配する彼女の様子が、あまりにも珍しかったから。


 当たり前だけど、俺のことを心配するヤツなんていないからなぁ。……いつぶりだろう。こんな風に、誰かが真剣に俺のことを心配するのは。


 僅かに目を細めて、そんなことを思う。

 記憶にあるのは、今よりもずっと昔の事。今は亡き両親だけが、いつもこんな顔で自分を見ていた。父から魔核を受け継ぎ、生まれながらにして紫の魔核を持ち、比べる相手など周りには居もしなかったというのに。不安そうに、心配そうに、いつも自分に声をかけてきて。

 彼女の視線は、あの時の二人のそれとよく似ていた。


 ……別に、誰かに心配されたいとか、そんなこと思ったこともないんだけどね。


 胸の内がくすぐったいような不思議な感覚が、少しだけ心地良くて。知らずその顔に笑みを浮かべていた。「……分かった」と、頷きながら。


「君がそう言うなら、これは俺が持っておくよ。後の赤と橙、そしてこの一回り大きな聖石はどうする?」


「あ、そちらは口にして頂いて構いませんわ。また作りますし、一応、十個分と二十個分の聖石ですので」


 ほっとしたように微笑んで言うリーリアの言葉に頷き、クラキオはその場で立ち上がる。残りの二つは、先程から羨ましそうに自分を見ているレンディオと、執務室で待っているであろうケルディスに譲ろうと思った。二人もまた、魔核の位が高いために、毎日ほとんど味のしない聖石を永延と食べ続けているのだから。


 レンディオの魔核は青だし、ケルディスは藍だからね。


 いつもよりも甘いと感じられるるかもしれないから。


「では、邪魔をしたね、リーリア。俺は仕事に戻るよ。……君は一度、眠った方が良い。今日はちゃんと、一緒に夕食を取ろう」


「は、い……」


 言い聞かせるように言えば、先程の真っ直ぐした視線は逸らされ、しょんぼりと肩を落とされる。別に怒ったつもりはないのだがと思いながら、クラキオはその頭にぽすりと手を置いた。「覚えておいて」と、呟きながら。


「君が俺のことを心配してくれるのは嬉しいよ。とても。……でも、俺も君のことが心配なのを忘れないで。無理をせずに休んで、またいつも通り食事をしよう。分かったね?」


 よしよしと、手触りの良い金の髪を撫でながら言えば、リーリアは上目遣いにこちらを覗った後、「分かりましたわ……」と小さく呟いた。その声は、いつもの凛としたそれではなく、叱られた子供そのもので。ああこの少女は本来、美しいというよりは愛らしいのだな、なんて思ってしまう。

 「良い子だ」と、また一つ笑みを零しながらその頭を撫で、クラキオはレンディオと共に気分良く作業室を後にした。

 その後、赤と橙の聖石を口にしたレンディオとケルディスが、驚きに目を見開いていたのは言うまでもない。

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