いつもそこに君がいた

澤田慎梧

1.「彼女」

 真夏の太陽は容赦なくアスファルトを焦がし、ユラユラと陽炎が立ち上っていた。肌にまとわりつくような熱気は、道行く人々に「暑い」以外の思考を許さぬ勢いだ。

 ――けれども、人々が暑さにうだる中、私だけは背筋に冷たいものを感じていた。


 スクランブル交差点の向こう側。歩行者信号が青になるのを待つ人々の群れの中に、「彼女」の姿を見付けてしまったのだ。

 私とそっくりな顔をした「彼女」は、私よりもずっと若くて、左目の下には色っぽい泣きぼくろがあって……最後に見た時と同じ、小春日和のような柔らかな微笑みをたたえている。けれども、その微笑みは私にとって死神のそれだった。


「どうした斎藤? なんか、顔色むっちゃ悪いぞ?」


 一緒に信号待ちをしていた同僚の織田が、私の顔を覗き込み、心配そうな表情を見せている。

 私は口を開く代わりに彼のシャツの裾を掴んで、二歩、三歩と歩道の内側へと後ずさりした。織田は戸惑いながらも、私に引っ張られるように歩道の内側へと移動し――次の瞬間、「グワシャッ!!」という感じの凄まじい破壊音と衝撃が、周囲に轟いた。


「……えっ?」


 目の前で起こったことを理解できず、織田が間抜けな声を上げる。

 ……無理もないと思う。なにせ、さっきまで自分たちがいた所に、のだから……。


 トラックは信号機の柱に激突し、すっかり前がひしゃげてしまっている。けれども運転手は無事なようで、すぐにトラックから降りると、変わり果てた相棒の姿を呆然と眺め始めた。

 幸い、信号待ちをしていた他の人達にも怪我はなかったようで、「びっくりしたねー」等と囁きあいながら、スマホでトラックの写真を撮り始める人までいた。


 いつもこうだ。「彼女」の姿を人ごみの中に見付けると、私の周囲で必ず良くないことが起こるのだ――。

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