第77話 シュトロハーゲン城の地下2

 近日中に高級菓子折りを渡す事を条件に、見事メイドから和解を引き出したゼノ。

 今は土下座で痺れた足の回復を待っている。

 地下牢の入口と思われた場所は地下への入口で、地下牢へはまだ歩く必要があるらしい。


「ゼノ様は荷物として運搬されてから、シュトロハーゲンを救った英雄ですと紹介されたかったのですか?」


「いえ、その様な事は全く。ご配慮、感謝します」


「それが私の務めですから……高級フルーツの盛合わせで結構です」

「要求追加ぁ!」




 メイドとじゃれ合っている間に足の痺れも回復したので、当初の目的である推定囚人との面会に向かう。

 長い通路を抜け地下牢を見張る兵士の詰所を通り、メイドと別れ複数の兵士に護衛されながら地下牢に到着した。


 兵士の詰所に1番近い、しっかりとした部屋になっている地下牢に目的の人物は居た。


「久しぶりだね、会いたかったよ」


 そこにはゼノが世界樹の協力の下なんとか倒した相手、インサキュバスがベッドに座っていた。


「ほう、いい目をしている。憑き物が落ちたようなつらになったな」


「貴方に与えられた仕事で、かなりの数のエルフに感謝されてね。生まれて初めてなんだよ、嫌悪させないどころか感謝されるなんてね」


 ゼノは捕虜にしたインサキュバスのフェロモンの効果を聞いて、フレデリックにその有効な使い方を提案した。

 女性エルフと惚れられた男性エルフを同じ部屋に案内して、インサキュバスのフェロモンを隣室から送り込む。

 エルフの男性は総じて誠実で紳士なので、女性に対して必ず責任を取る。


 女性は惚れた相手と結ばれて幸せ。

 草食系ばかりで独身が多かった男性も結婚の切っ掛けが出来て幸せ。

 国は子宝の可能性が増えて幸せ。

 インサキュバスは感謝されて幸せ。

 誰もが幸せになれるであろうプランだった。

 そして実際、上手く回り始めている。

 なお本来狩人のはずの男性エルフは、恋愛になると獲物にチェンジするのはお国柄だ。


「問題なく稼働しているなら、なぜ俺を呼んだ?しかも部屋ではなく、ここに」


「上手く回り始めたからこそ、貴方に聞きたくなったんだ。どうしてあの時、僕のフェロモンが効かなかったんだい?貴方以外には100パーセント効いてるのに、どうして貴方だけは平気だったの?」


 ゼノは手を組み顎に手を当てて、少しだけ考える素振りを見せた。


「ここからは俺の重大な秘密になるから、兵士の皆さんは詰所まで戻って下さい」

「いえ、それは出来ません」


「大丈夫ですよ。彼? も言ってた様に、俺にはあのフェロモンは通用しませんから」


 その後も多少問答があったが、護衛の兵士達は詰所へと帰っていった。


「魔法は使えるか? 出来れば防音の魔法を使って欲しい」

「いいよ」


 返事をするとインサキュバスは、通路と詰所の間に風の幕を張った。

 気圧が少し変わったのを感じたゼノは、インサキュバスの質問の答えを返した。

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