第30話 5日目

 ギルドの朝の混雑を他所に、ゼノ達は受付け横の通路から解体所に向かう。


「お前達か、査定は終わってる。これが明細書だ、確認してくれ」


 引き換え証と交換で昨日のドワーフから明細書を受け取ると、ゼノとミラは確認し始める。

 サリアは何も考えずに、立って待っている。

 ドワーフに細かな相場と市場の推移を聞きながら、2人は明細書の確認を終えた。

 ギルド控えの明細書にも不備がなかったので、ギルド印を押してもらい解体所を出る。


 受付に並ぼうかと思ったが、朝の混雑時には美人受付嬢しか待機しておらず。どの受付けカウンターも長蛇の列のままだった。

 3人はしばらく時間を潰す事にして、ロビーの隅でベンチに腰掛ける。

 4列あるベンチにゼノだけが座り、2人はひとつ前のベンチに座り3人で向かい合った。


(誰もこんな男の横に座りたがらない。分かっていたじゃないか。早く慣れないとな。泣くんじゃない、俺)


 ゼノが受けなくてもいいダメージを受ける中、1人の美少女が話しかけてきた。

 ミラとサリアに向かって。

 クリティカルヒット。おっさんには大ダメージだ。


「あのっ、お話中すいません。少し、よろしいですか?」

「はい、どうぞ?」

「ああ、いいぜ」


 おっさんは心の大ダメージを悟られないように見栄を張り、自称爽やかで包容力のある大人の男性の笑みを浮かべている。

 言葉を口に出す余裕はない。


「ありがとうございます。僕はユニって言います。将来の夢はS級の身体能力を得て、全力で物作りをする事です。この服も僕が作りました。でも戦闘力がないのでどこのチームにも入れて貰えません。こんな僕ですけど、良かったらお2人のチームに入れてください!!」


「グハッ!!」

「えっ?」

「ゼノさん!」

「おい、ゼノ。しっかりしろ!」


 美少女…ユニの服装はロリータファッションと言える洋装だった。

 白と黒を基調に、同色の多数のフリル。

 ヘッドドレスやリボンを始め、全身を装飾品が包んでいる。

 靴に至るまで一切の妥協がないのだろうが、靴の自作は難易度が高いのだろうか。

 靴だけは既製品に手を加えた、僅かに服との統一感に違和感が残る。

 それでもその小柄な体と小顔に非常にマッチしていて、美人受付嬢の列に並ぶ男達もチラチラ視線を寄越している。


 美少女に2人チームで、自分は部外者だとしか認識されていなかった。

 そんなセリフを聞いたゼノは、容易には立ち直れない傷を心に負った。

 本人的に。



 ベンチに倒れたゼノに、そのままでは辛いだろうとミラが膝枕をしている。

 ゼノはその柔らかさに対し欲望を持つ事なく、その包容力に癒やされていた。


(これが、母性…)


 ベンチの向かいにはサリアとユニが座っていて、話しの続きが始まろうとしていた。


「僕が仲間になったら設備と材料次第で、店よりも安く汎ゆる物を作ります。作れます。まだまだ未熟ですが、絶対に損はさせません。どうかよろしくお願いします」


「では、ユニ。君がうちのチームに入ったなら。何から作るべきだと思う?何が不足していると思う?その後の予定、予測、展望等はどうなっている?」


 ゼノの言葉にユニは気付いた。面接は既に始まっていると。

 それもただの戦闘万屋の脳筋達相手ではなく、企業の面接官相手なのだと。

 3人は防具こそ身に着けてはいるが、武器の類が見当たらない。

 恐らく魔法鞄か収納系統の能力者が居るのだろう。


 チームメンバーの強さは大した事はない。

 横に座る赤毛の女性だけが強く、他の2人は初心者新人かそれ以下。

 仮面の少女は恐らく魔法師。

 赤毛の女性は戦士。

 おじさんは………荷物持ち?だったらこの人が収納持ちかな?

 だったら答えは…


「僕が作るべきは、各種ポーションです」

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