第29話 4日目 4

 ドワーフは姿の消えたゼノ達に対し、ピクリと片眉を上げて反応したが。

 何も言わずに広げられていくシートを見つめていた。


「これで全部だ。んじゃ、後よろしくー」


 呼吸が荒くて話せないゼノの代わりにサリアが対応し。

 引き換え証を受け取ると、ゼノの腕を取って退室する。

 恋人の様な甘い腕の取り方ではなく、犯人護送の様な色気のないものだったが。


 途中から脇に抱えられて、荷物扱いされたゼノ。

 いつもの裏路地で亜空間に入ると、そこそこ気を使ってイスに座らされた。


(残念美人)


 そんな風に思ったゼノだったが。

 存在自体残念なおっさんには、サリアも言われたくわないだろう。


「おーしゼノ。お楽しみの時間だ。魔石を吸収しちまってくれ」

「はいはい、お任せ下さいお嬢様」


 言いながらも話す途中で、魔石の吸収は終了した。


「おお!早えな!」


 グサッ!!

 何故だかゼノの心に深い傷が出来た。


「さーて、どんだけ広がったかなー?」

 真っ白で境界線もなく、広さが判断出来ない亜空間。

 そこを無警戒に歩くサリア。

 家具を避けて奥へと行こうとした瞬間。


「あて!」


 予想以下の広がりしか見せなかった亜空間の、壁の様な感触にぶつかって声を上げた。

 慌てて壁面らしき場所をペタペタ触ってみるが、それ以上の奥行きも隙間もなかった。


「なんだよこれー。1センチも広がってねえじゃねーかー」


 サリアは嘆くが。元々能力の成長は、他の能力でも微々たるものだったと気を取り直した。

 なおこの間ゼノは、テーブルに突っ伏して寝ていた。



 疲れていたのかゼノとミラが目覚めたのは8時を過ぎてからだった。

 ゼノはサリアに運ばれたのでベッドで目覚めた。

 サリアはテーブルで連接剣の手入れをしていた。


「なあサリア。そいつはメンテナンスフリーじゃなかったか?」


「んー?確かにそーだけどよ。それでもコイツには世話になってるからな。手入れはアタシなりの感謝の印さ」


 同じメンテナンスフリーの武器を持ちながら、未だに1度も使用も手入れもしていないなと思った。


(まあ、まだ使った事もないしいいか)


 未だに戦士の自覚もないので、武具の手入れや補修の大切さを知らないダメ思考だった。


 サリアの手入れと道具の片付けも終わったので、店で食べようと街に出る。


「なんか無性に麻婆食いてえ」


 サリアの一声で中華料理の店に行く。

 歴史上、中華と言う国は何処にもないのに。何故中華と言うのかは現在も不明となっている。

 伝説の料理人が、和食、中華、フレンチ、イタリアン等と呼んでいたから、今もそう呼ばれているに過ぎない。

 なお最近彗星のように現れた黒髪の少年が。


「知識チート全滅してるぅー!?しかも冒険者ギルドじゃねーしー!!」


 と、叫んだとか。

 出自不明の料理だが、現地人にとっては関係ない。

 美味い、ただそれだけだった。

 3人は中華料理店に入ると、辛さ控えめで何品か注文した。

 上段の回転する台座に料理が置かれ、下段のテーブルに置いた皿に取って食べる。

 辛さ控えめに注文したのに、それでも少し辛かったが。


辛美味からうまー!」

「辛いけど、とても美味しですね」

「うんめー!!」


 と、とても満足の行く。癖になる味だった様だ。

 ゼノが1人で会計を済ますと先に外で待っていて貰ったミラ達と合流する。

 店の外にはミラとサリアが立っていた。

 そして吐瀉物まみれになった地面と、そこに蹲る複数の男達の姿があった。


「お待たせ。じゃ、行こっか」

「えっ?」

「おう」


 スラムでは喧嘩も殺人も日常だった為に。常識が歪んだゼノは、男達について何も感じていなかった。


(ナンパして、素気なくあしらわれて。逆上して返り討ちにあったんだろうよ)


 ゼノの予想は、微塵も外れていなかった。

 その後はいつも通り、ギルドの裏路地で亜空間に入り就寝した。

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