第25話 3日目 6
ダンジョン。
発生原因不明の迷惑な穴。
内部には金銀財宝に、オーバーテクノロジーの武具や魔道具まで発見される宝の山だ。穴だが。
代わりにダンジョンには魔物が住み着いている。
ダンジョンから魔物が生み出されている。そんな説まである。
ダンジョンを放置すると内部の魔物か溢れ出て。かなりの広範囲に渡って被害を及ぼす。
故にダンジョンは発見され次第。乗り込み蹂躙し、最奥の主をと呼ばれる魔物とコアを殺す。
ダンジョンが死ぬと、短くない年月の果てに崩壊して埋まっていく。
故に人間はダンジョンを求める。
名誉。名声。強さ。財宝。魔道具。
今日もこの世界のどこかで、人々はダンジョンに潜り続ける。
「前のチームでさ、結構いいとこまでダンジョンに潜ってたんだよ。そしたらさ、急に1人が吐き出したんだ。毒でもなんでもなかったけど、体調も悪いみたいだったしさ。探索は諦めて帰ったんだよ。んで医者に行ってみたら妊娠してたんだとさ。まさかそう言えば最近来てないなって、残りの2人も医者に行ったんだと。めでたくパパ1人ママ3人子沢山の、大家族が出来上がりましたとさ。この剣は最後の探索で見つけた逸品だったんだけどよ。あいつ等の都合で解散するんだからって、手切れ金として持たされたんだよ」
(想像の何段階も上の話しですね。何を言って良いのか分かりません)
(俺には抱えきれん。話しの上手いミラに…ってー、顔逸らしてるし。こっち見て。仮面で見えないけど、アイコンタクト。アイコンタクトして!サリアに何か言ってやって!!)
「でも今のチームには、すげぇ満足してんだぜ。回復魔法師は居るし、街の外での安全な寝床もあるし。何よりリーダーが女に手を出さなそうってのが良い。………まさか。こんな年の離れた子供に、手ぇ出してねぇだろうな?あぁん?」
テーブル越しにサリアに睨まれ、ゼノは怯えて固まってしまった。
そして何も言わないゼノを不審に思い、更に体を乗り出して問い詰めるサリア。
「どーなんだゼノ?なんとか言えって」
「えっ、いや。あの、俺…非常に言い難いんだけど………まだ………なんだよ」
「あぁん?聞こえねえんだよ、もっとハッキリ言いやがれ!!」
最早口付けを強請るのではないかと言う程に、ゼノに顔を近付けるサリア。
側頭部にサリアに額を押し付けられながら、とうとうゼノが叫んだ。
「だから!俺は!30過ぎても!まだ童貞のままなんだよぉぉぉーーー!!」
生活魔法と言う小さな世界を、現世で最も気不味い沈黙が包み込む。
ゼノはイスに座ったまま視線を下に向け、羞恥で全身の肌を真っ赤に染めている。
ミラはイスごと体を横に向け、我関せずとお茶を飲んでいる。
サリアも乗り越えそうになっていたテーブルから体を引き、罪悪感に満たされた顔をしてイスに腰を落とした。
「ああ、笑え。笑えよ、笑うがいいさ!どうせ俺は女の眼中にないよ!顔は平凡、体付きもパッとしない。高学歴高収入どころか、先日まで浮浪者やってましたよ!女に対して舌も回らなきゃ気も効かない。センスもないし共通の話題もない。社会人やってた頃に風俗に行かなかってのかって?ざーんねん、サービス残業課せられて帰って寝なきゃ死んでまーしたー。だから俺は、誰にも汚されていない綺麗な体なんですー」
「分かった。もう分かったから。アタシが悪かったって、ごめん」
サリアは謝罪したが、それでもゼノは語り続けた。
如何に自分が優れた非モテであるか。
如何に自分がエリート童貞であるかを。
「これじゃあ今日は、仕事にも準備日にもなりませんね」
男泣きしながら背負った悲しみを語り続けるゼノと。
もういいからと、泣きながら土下座するサリア。
時間が経ちゼノが正気に帰るまで、この混沌とした狂乱は続けられた。
「なんだかなー」
ミラの一言が、この日の全てを表していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。