第6話 目が覚めると全てが終わっていた

 アサシンゴブリンは去ったのか殲滅されたのか。

 ゼノ達が生活魔法の亜空間に入ってから30分程で周囲は落ち着き始めた。


「ミラ、起きろ、起きてくれ。状況が落ち着き始めた、外へ出て負傷者の治療に向かおう」


 ゼノの声にミラは跳ねるように起き上がると、左右を見回して状況を把握。1度深呼吸をしてから、ゼノに顔…仮面を向けて頷いた。


「準備出来ました、行きましょう」


 白以外何もない世界をゼノが3歩歩き姿が消える。

 ミラは一瞬驚いてビクッと肩を震わせたが、ゼノに続き同じ場所に歩を進めた。

 そして白い世界から出ると、元居た陣地へと戻ってきた。


「こっちだ」


 先に出て、負傷者の集められている場所を把握していたゼノに促され。ミラはその背中を追って走り出す。

 30秒足らずで、負傷者の集められている巨大テントに到着するや否や。再びゼノの先導で、ミラの能力に対して適切な負傷者へと導いていく。



 空が白じんで来た頃、漸く全ての負傷者に対する治療は終了した。

 アサシンゴブリンの襲撃で、回復魔法師の2割強が亡くなっているので。生き残った回復魔法師の負担が増え、ここまで時間がかかった。


 この後、早めの朝食が配られ。どの回復魔法師も朝食後に、泥の様に眠りについた。

 ミラも女性用巨大テントに辿り着くまでに気絶してしまったので。ゼノが背負って送り届け、入り口に居た女戦士に預けてきた。

 その後ゼノも、土の防壁にもたれて眠ってしまった。



 目が覚めると全てが終わっていた。


 ゼノが眠った後直ぐに、S級の戦闘万屋が単身魔法で飛行して援護に駆けつけた。

 そして夜明けと共にゴブリンの軍勢相手に、広範囲殲滅魔法の一発で消滅させた。

 彼または彼女について、ゼノは話しを又聞きしただけで。飛んできて魔法でゴブリンを殲滅した、それ以外の情報は得られなかった。


 ギルド職員が陣地にやってきて、タグの記録から報酬を払う準備が出来たとふれて回った。


 どんな技術を使っているのか。タグにはゼノが負傷者の治療順の指示や、アサシンゴブリンからミラを守った事まで記録されていた。

 街に戻りギルドの受付でそれらの行動を金額に換算され、40万イエンもの大金を貰えた。

 ゼノはこんな大金を持っているのが怖くなり、懐に入れる振りをして生活魔法の亜空間に入れた。


 しかしゼノの心配は無用であった。

 日頃は金欠で、誰かが大儲けしたら酒を奢れ宴会だと叫ぶ戦闘万屋達だが。彼等はゼノ以上に大金を得たので他人に見向きもしていない。

 それでも基本ヘタレなおっさんは、内心ビクビクしながらギルドを後にした。


「ゼノさん、待ってください!」

(おや?)


 最近名乗った相手は1人しか居ない。

 しかしその彼女は、こんなおっさんよりも相応しい相手と組むはずだ。

 最後の別れの挨拶をしていなかったから、それで呼び止めたのかな?

 ゼノはそう思いつき。ギルドから出て間もない、街の中心に向けていた足を翻した。


「やあ、ミラ。さっき振りだな」

「もう、酷いじゃないですか。置いてきぼりにするなんて。チームメイトを何だと思ってるんですか」

(えっ?)


 ミラの言葉に驚きを隠す事には成功したが、あまりにも予想外の内容に理解が追いつかない。

 内心混乱して硬直したまま、続くミラの言葉を半分以上聞き流してしまう。


「私達はチームなんですから。体を拭いたりベッドで寝る時以外は、常に一緒に行動すべきじゃないですか。それを置いていくなんて、あんまりです」

「あ、ああ…ごめんよ。ギルドが報酬を払うって言うからさ、つい先走っちゃって。ほら、俺ってさ、こんなじゃん? だからつい、な?」


 なんとか曖昧で中身のない言葉でお茶を濁す。

 ミラもゼノの服装を見て納得したようで、それ以上の追求はなくなった。

 ミラが報酬を貰いにギルドに入るのに付き合うと、ゼノの倍以上の札束の入った封筒を渡されていた。

 それも複数。

 ギルドの隅にゼノを連れて移動したミラは、背伸びをすると耳元へ小声で話しかける。


「ゼノさん。昨日の白い場所ですけど、このお金をあそこで預かって貰えませんか?」

「ああ、任せろ。大金持ち歩くなんて怖い事、出来ないもんな」


 ミラから封筒を受け取ると、素速く亜空間へと入れていく。

 ゼノにはこの大金を盗むつもりは全くなかった。逆に銀行に預けるなり、何処かで消費して欲しいとさえ思っている。

 それはこの1年で変わり果てた金銭感覚と。少しでも現金を持っていたら、ナイフを突きつけられ奪われるという経験から来ている恐怖からだ。


 流石に40万イエンもあれば、人生再スタートも夢ではないが。今は何を基準に認めたのか分からないが、自分の事をチームメイトと呼んでくれる者が居る。

 彼女が去っていくか、誰かと寿退職するまでは。出来る範囲で協力していこうと決意していた。


「では、ゼノさん。このお金で、まずはゼノさんの服を…いえ、その前に銭湯?………服だけ買って着替えずに、銭湯で体を綺麗にしてから。買った服に着替えましょう」

(どうやら俺には選択肢も拒否権もないようだ)


 こうしてゼノはミラに連れられて、人並みに戻る1歩を踏み出したのだった。

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