ノンフィクションの裏側に
moga
第1話 目覚め
「……ろ……おーい……起きろ!」
頭に響く大声に圧されて、僕はゆっくりと目を開く。ぼやけた視界のすぐ先に、ライトで照らされた先輩の顔が白く浮かび上がっていた。深く湿った、土の匂い。辺りを見回す。手を伸ばせばすぐに届いてしまうほどの近さに、黒い壁がそり立っている。触ってみると、それはいともたやすく崩れていった。土みたいだ。
身体を動かすごとに、節々がズキズキと痛む。血が出るような目立った怪我はなさそうだが、暗いからよくわからない。服が土の湿気を吸ったのか、とても冷たく感じる。寒くて堪らない。意味がわからない状況に、僕はただただ、困惑した。
「やっと起きたな……君は昨日何があったか、覚えているかな?」
「昨日……? というか
「学校裏の山の、中腹みたいだよ。落とし穴かただの窪みか、どちらかはわからないが、わたしたちはそういう場所に落ちてしまったらしい」
先輩はスマートフォンの画面をこちらに向ける。そこに表示された位置情報は確かに、ここが山の中であることを示していた。ついでに言えば、現在時刻は早朝五時。落ちた拍子に気を失ったのだろうか。二人とも学校の制服のままだというのを鑑みても、この穴で一夜を過ごしていたと見て、まず間違いないようだ。
僕は寒さや痛みを誤魔化そうと身体をさすりながら、穴の入り口を仰ぎみる。思っていたよりも高い。二、三メートルほどはありそうだ。自力で登るのは、かなり難しいだろう。
「……状況はだいたい、把握しました。どうしてこんなことになっているのかはわかりませんが……」
「君のいつでも冷静沈着なところ、本当にすごいと思うよ。もしかして以前にも穴で一泊したことあったりするのかな?」
「そんなわけないでしょ。騒ぐ元気がないからですよ。それにこんな早朝の山の中、人がいるとも思えませんし。とにかく、救助を呼ばないと――」
「ああ、それならもうわたしの家族に現状の説明と位置情報を送っておいた。じきに来てくれると思う」
「そうですか……ありがとうございます。じゃあここで大人しくして待ってましょう」
「それなんだが、助けを待っている間、ひとつずつ昨日の行動を確認してみないか? わたしたちの身になにが起こったのか、わかるかもしれない」
「いいですね。ええと、確か……放課後、僕たちは部室にいて……」
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