君と明日を教えて

陽和 ような

第1話

僕の中学時代は、語りたくないほど、悲惨だったと今は思う。でも振り返ってみると、あの子に救われてたんだって、やっと気づいた。


あの頃の僕はまだ幼くて、弱くて、人見知りで、小学校の友達がクラス居ないことを言い訳にして逃げた。


僕があの子と出会ったのは、確か中学三年の春の終わり頃だった。


彼女はいわゆる転勤族だった。春終わりに引っ越してきた彼女は、僕の後ろの席になった。彼女はフレンドリーな人。彼女は僕にも話しかけた。


都竹つづく 晴菜は良い奴。僕の第一印象はこうだった。今思えば、単純だったなと思うけど。でも仕方がなかったんだ。彼女は、完璧だった。誰にでも優しくて、人を区別しない。明るい色をしていたから。


そんな彼女は、すぐにクラスの人気者になっていった。あの頃の僕は彼女に憧れた。羨ましかった。  


掃除当番が一緒だったからか、掃除のときだけよく僕らは喋った。ほとんど世間話だった。けどあるとき、こんな話をされたことをとても良く覚えている。


「ねぇ、羽金くんはさ、私が引っ越すって言ったらどう思う?」

僕はなんと返したのだろう。覚えていない。

「やっぱり、忘れられるのかな。」

こんなことを、言われてなんと返せばよいか分からなかった。僕は無言で掃除を続けた。僕はこのとき、彼女も悩みを持っていることを知った。


その言葉通り、彼女は引っ越すことになった。中三の終わりだった。みんなが別れを惜しんだ。引っ越しても、連絡を取り合おう。また遊ぼう。その言葉に彼女は何を思っただろうか。僕にはわからない。ただあの話が気がかりだったんだ。


お別れ会でも彼女はずっと笑っていた、少しも涙は、見せなかった。表情豊かな彼女だったから、ちょっと不思議だった。


彼女はクラスのみんな一人一人に手紙を書いていた。僕は他の人への手紙は見ることはなかったが、僕への手紙には [羽金くんのことをみんなにももっと知って欲しいな。羽金くんは鋼のメンタルで頑張ってね。]と書いてあった。


個人的なお別れの言葉は言えなかった。彼女のおかげで、友達がたくさんできたことも、喋れて楽しかったことも、伝えられなかった。とても悔しかった。


僕がこの事を伝えようと決断したのは彼女が引っ越してから、三ヶ月が過ぎた頃だった。僕は感謝の気持ちを手紙に書いて、彼女へ送った。でも、


返事は来なかった。


しばらく経ち、僕は中学を卒業した。卒業アルバムの彼女の写真だけ夏服で止まっている。


そうして、僕は県立高校に入学した。今日は入学式だ。空はとても澄んだ雲ひとつない青。快晴だった。淡い希望を抱いて、僕は門をくぐった。

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