012 二人三脚
グーとパ-、グッパ、グッパと、紅葉(クレハ)と呼ばれる少女は小さい手を開いて結んで遊んでいる。様に見える。
ただし無表情で「あえいおうおあお・・・」と怨嗟みたいな声を発しながらであるが・・・まぁ濁点が無くなったのは、リハビリがそれなりに進展している結果だろう。
道化者の矛盾した説明に、『頭痛』で『頭が痛くなる』位に意識が混濁していた。
混濁しながら不意に、謎だらけの幼女、紅葉を瞳だけ動かして見つめていた。
紅葉の仕草がちょっと可愛らしくて、思わず心が和んでしまった。ただ無意識に表情に現れてしまったのが失敗だった。
「幼女を眺めて表情が緩むのですね。やっぱり、予想通り、思った通り、竜登様はロリコンなのですね」
道化者がニヤニヤと揶揄り始めた。
「『可愛い』を見て和んで何処が悪い!『可愛い』は正義だ。それ以上でも以下でもない」
「おやおや、否定はされないのですね」
イラつき任せて思わず叫んでしまった事に、またもや後悔してしまった。
だがしかし、
「子供が可愛いと思うのは生き物としての本能だ。ペットでは雄犬が子猫の面倒を見ていたという動画だって多いし、野生動物に育てられた人間の子供の話しだって多いから別におかしくはない」
そのまま納得されるのは嫌だから、必死に言い訳を絞り出した。
もっとも後半は結構昔の事だから、物語性を強調したでっち上げだと否定的意見も散見されるので信憑性は薄い。が、私は信じている。
真偽は兎も角、何事も否定的に反応する人は居るのだ。進化論の否定、天動説の否定、衛星探求の否定等、少ないだろうが懐疑的に考える人達が居るのだから、いちいち気にしていては切りが無い。
「それで、生まれる事が出来なかった双子の姉と、私とはどいういう経緯があるのでしょう?」
口に出してから、この矛盾を信じて納得している自分に驚いた。本来なら「ふざけるな」と罵声を上げる場面だと思う。
多分『バニシングツイン』という、妊娠初期は双子だったのに、片方が消えてしまう現象をテレビか何かで知ったからだろう。原因は不明だが片方が育たずに消えてしまう現象らしい。
「そうですねぇ、どの様にご説明したら宜しいでしょうか。意味は同じですが、良い言い方と悪い言い方が御座います。竜登様はどちらをご希望されますか」
微妙な言い回しがどうも引っかかるが、長所と短所は表裏一体で受け取り方でどちらにもなり得るのだ。特に性格判断でよく表現された気がする。
「両方だ。両方で教えてくれ。ただし順番に希望がある。先に悪い方、後で良い方で教えて欲しい」
変に偏らない様に、善し悪しの両方を聞いて判断したい。ちなみに順番の希望は、良い方は最後に話したり聞いたりする方が良いのだそうだ。人の心理的な書籍に書いてあったから引用させてもらった。
確かに悪い方を後回しにされると、良い気になっている所で叩き落とされた気になるから嫌だ。
「承知致しました。それでは先に悪い方です。以前に竜登様の能力について説明しましたが、覚えていらっしゃいますが」
「いいえ、聞いた事が無い。私の能力とは何だ?スキルと言える様なモノは何も持っていない。極普通の人間だ」
道化者が幼女、紅葉の方を向いたので、つられて私も視線を送ると、紅葉は道化者から視線だけで無く首ごと、いや動ける限り体を動かして顔を背けた。道化者は何やら悔しそうに呟いていたが小声で聞こえなかった。
「竜登様は・・・、竜登様の魂は人の魂を喰らいます。それも本能的にです。先程おっしゃいましたよね、『本能だから仕方が無い』と。その通り、本能で喰らうのです。本能だから極当然な事で御座います」
いちいち小馬鹿にする言葉を発する。本当にブレない奴だと思って聞き流す。
でも、そうだ思い出した。『私の魂は他の魂を取り込んでしまう』と言われたのだ。この白い世界に連れて来られた回数さえ思い出したのに、何故この能力は思い出さなかったのだろうか。
「つまり何か?私は姉となるはずの家族を喰らって誕生したというのですか」
「左様で御座います」
「私の正体は魂喰いのバケモノだと言う事だったのか、確かに悪い話しだ。では続けて良い方の話しをおしえてくれませんか」
何度もバケモノ、化け物と言われるのは嫌だ。話しを変えたい。
「もっと詳しくお教えしたいと思いましたのに、本当に十分なのですか。もっともっとお聞きになりたくは御座いませんか」
「『御座いません』です。ですので今度は良い方を教えてくれませんか」
「いえいえ、もっと詳しく知りたいでしょう。知りたいはずで御座います。竜登様は魂を、命を喰らうのです。希にいらっしゃるのですよ。生命力を奪う吸血鬼の様な存在が。人外とされるに十二分な存在が。竜登様。身に覚えは御座いませんか?御座いますでしょう。早死にされたお方とか、いらっしゃいませんでしたか」
「『おりません!!』です。いい加減にしろ!です。悪い方はもう十分だ!です。今度は良い方を教えろ!!です」
怪物だの人外だの、ここまで言われると流石にカッっとなってしまった。感情がのままに叫んで失態を晒してしまった。無駄だと分かっているが「です」を付けて丁寧に話している風を装う。
この体になった直ぐは感情のまま言動してしまったのに、今ではそれとなく沸き立つ感情をコントロール出来る様になったと思った。つい先程までは・・・
揶揄され馬鹿にされた結果かも知れない。道化者のおかげと考えると悔しいが、少なからず要因はあるのだろう。とか感じた自分の浅ましさに後悔が石抱きの様に積み重なった。
激情の種火が灯すと一気に燃え上がる。感情のコントロールが出来ると思い上がりでしかない。
ついつい怒りが優先してしまったが、『別の失態に気付かなかった』のは不幸中の幸いだったのかもしれない。
道化者は、私の白黒する表情を眺めながら、これから愉しくないのに残念。そんな落胆が見え隠れした。
「そうですか・・・。わたくしは大変残念ですが、致し方御座いませんね。それで次は『良い方』の説明いなりますが、本当に宜しいのですか?知りたくありませんか?もう少し聞きませんか。」
「ですから!!!もう『悪い方』は十分だ!です。次の『良い方』を教えろ!下さい!」
「はいはい。良い方、良い言い方ですね。少々お待ち下さい」
道化者は少し考え込んだ。考えていると言う事は、もともと話す気が無く、悪い言い方で私を小馬鹿にしたいのだと思えてくる。文句を言いたいが、言えば直ぐに馬鹿にした話しを始めそうなので我慢する。
「良い方は・・・」
もったいつけて話し始めた。
「・・・紅葉様は、生まれる機会を失ったショックで、生まれる方法を忘れ、見失い、暗くて冥い闇の中で深く深く眠っておりました。やっと生まれ出ずる機会を得られたのに聞こえず、見えず、気が付かなくて動けないまま、闇に沈み込んでいた所を、竜登様が抱きかかえて共に生まれ出たので御座います。言わば救いの主でしょうね」
何故生まれる機会を失ったのかは教えてくれないが、少なくとも迷える紅葉を救ったと聞けて気持ちが軽くなった。人の役に立てたのだと教えられて嬉しくなった。
「以上で御座います。それでは大本命の『契約』のお話しを致しましょう」
「ちょっと待ってくれよ。他にもあるだろう。これを一緒に生まれたと言えるなら、今の今まで二人三脚で過ごしてきと言えるなら、それなりの事があっただろう。ほら、何かこう・・・」
『カモン・プリーズ』の様な、両腕を下から抱きかかえる様な感じの仕草をしながら求めた。
「5周の生を繰り替えされたのです。ご誕生以降は竜登様の方がお詳しいのでは御座いませんか。例えば着せ替え人形を、熱狂的に、浸る様に、溺れる様に、惚れる様に愛でていらしたでは御座いませんか。これこそ二人三脚に相応しいでは御座いませんか。それでは熱く語ると致しましょう」
道化者は両腕を広げて、これから劇や講演を始める様に胸を張った。
「の~・・・。ノー・モアー・サンキュー・・・だ」
「御遠慮なさらなくて良いのですよ。気が済むまでお教えしましょうじゃ御座いませんか』
「ノー・モアー・サンキューだ。ありがとう。もう十分だ」
「まるで子供が覚えたての英語を話すみたいですね。いいえ、みたいじゃ無くて子供でした。そう、子供なのですから奥ゆかしく遠慮する必要は無いのです。二度断って三度目に頂戴するような礼儀はご不要でなのす。子供なのですですから素直に感謝の笑顔をして『ありがとう』と受け取るのが好感的で宜しいでは御座いませんか」
油断した。失態だった。喜んで浮かれて感情をそのまま出してしまったのだ。後悔してもしきれない。
両耳を押さえて首を振りながら、もう聞きたくないと拒否の仕草をした。
これ以上恥ずかしい思いをするのや嫌だ。何か手は無いのか考える。
「そ、そうだ。契約の話しがあるのでしょう。重要な事なのでしょう。その話しをしましょう」
愚策と分かっているが、これしか思いつかなかった。誘導された気がしなくもないが、今はこの辱めから解放されたいと必死なのだ。
「おやおや、急にどうされたのです。あれほど拒まれてたではありませんか。無理をなさらずとも良いのです。それよりも『二人三脚』のお話しを続けようでは御座いませんか」
「あ、ありがとう御座います。それよりも契約お話しをしましょう。大事な事なのでしょう。是非とも契約のお話しをさせて下さい」
八方塞がりな状況になってしまい、サーッと血の気が下がる感じをしながら、必死に話題を逸らしたいと訴えた。
「そうですか。是非にと熱望されては断る理由も御座いません。契約のお話しを致しましょう」
墓穴を掘ってしまったというか、袋小路に追い込まれたという状況ではあるが、一難去った事に少々安堵した。
「先ずは、契約するにあたり必要な情報、人々にとっては法律みたいな事ですが、必要かと思いますので先にこちらをご説明致しましょう」
いきなりクロージングというか、畳み込まれるかと思った。しかし違った。そういえば以前に『対等の立場で』と言われた気がする。法律みたいな何かを知らなくてはならないのだろうか。
「その説明は長くなりますか?」
「長く・・・そうですね、長くなるかも知れませんね」
道化者は指を折る様に数えながら答えた。
「まて、ここからの話しはメフィスト、女の姿で行う事を希望する」
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