【短編】男は話し始めた。
Lie街
1杯目 彼は話し始めた。
僕らは待ち合わせをしていた。時間は2時くらいだったと思う。その日は天気も良くて待ち合わせ場所からも青い空がよく見えた。大小の雲がふわふわと浮いていたのもよく覚えている。
しばらく空を見上げていると、彼が来た。おそらく、3年ぶりくらいに会っただろうか。彼には高校を出たきり会っていなかった。特別仲が良かった訳では無いが、たまに遊びに行く程度の間柄だった。彼は目にかかる程に長い前髪を微かに揺らしながらこっちまで来た。
「お待たせ!」
「そんなに待ってないよ。」
「そうか、じゃ、行こうか。」
彼とはカフェに行く予定になっていた。普通、3年ぶりに会った友達とカフェに行くものだろうかとも思ったが、ちょうど最近できた気になっていたお店だったので承知した。
僕は昔から内向的な性格で新しい場所に行く時には必ず付き添いを誘うようにしている。
カフェの扉をくぐると美人な店員さんがにこやかに席へと案内してくれた。
僕はコーヒーを彼はカフェオレを頼むと、店員さんはハキハキと次のテーブルへと歩いていった。
僕らは扉に1番近い壁に面したテーブル席に座っていた。彼の後ろに飾ってあるカラフルな絵が印象的で青い紙に子供が絵の具をこぼしたような絵だった。もしくは、ユニコーンの吐いた虹が地面でめちゃくちゃになったみたいで、しみひとつない少女のような純白の壁とのコントラストがなんとも言えなかった。
「いやー、久しぶりだね。」
僕が絵に見とれていると彼は話し始めた。
「そうだね。元気してた?」
「うん、まぁ、いろいろあったけど今は元気だよ。」
彼は前髪を少しいじった。
「ふーん、そうなんだ。」
僕は彼のいろいろに少し興味があった。
「いろいろって、例えばどんなこと。」
「まぁ、いろいろとは言ったけどそれは実質ひとつだけなんだ。」
「ひとつ…だけ?」
「うん、今日はその話を君に聞いて欲しくて。」
彼が話をしようと空気を軽く吸い込むと、タイミング悪くお盆を乗っけた店員さんが机の上にコップを置いた。
「カフェオレとコーヒーでございます。」
「ありがとうございます。」
彼はにこりと笑った。とても紳士的に。
思えば彼は昔からそうだった、店員さんには特に丁寧な立ち振る舞いをするのだ。
「ねぇ、どうして君は店員さんに親切なの?」
「ん?変なこと聞くね。」
彼は少し笑うと続きを話した。
「サービスを提供してもらってる側なんだ、いくら代金を払うからって横柄な態度をとるのはいたたまれなくて。まぁー、主な理由は親父がそうだったからだけどさ。」
「へぇー、お父さん嫌いなんだ。」
「嫌いだね。おふくろをよく蹴ってたんだ。「女は男の世話だけしとけばいいのに。」とかって平気で言ってたね。」
「酷いね。」
「あぁ、本当にそうだよ…。」
しばらくの沈黙の後、彼は話し始めた。
「俺のガールフレンドの話なんだけどさ。」
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