第353話 ソルちゃんの接待


 あの教会ダンジョンが1年間の様子見を終えて、学生たちだけで行っていいことになりました。



 1年前のエンペラーリッチ事件から、冒険者でないと行けなかった教会ダンジョン。

 今回はマリウス、アシュリー、ジョシュのパーティーと、私とかわいい従魔たち+ソルちゃんのパーティーで共闘することになったのだ。



 なんでソルちゃんがついてくるかというと、夏休みの間での国王とまどかさんの行いのせいでストレス(モカ用語)が爆発してしまったからだ。


(ソルも遊びに行きた~い!)



 だけどクライン様はお忙しいし、王都から出られない。

 それで私に依頼があったのだ。

 とはいえ私も仕事をたくさんしている身。

 だから魔法士の必修科目ダンジョン攻略についてきてもらうことにしたのだ。


 もちろんソルちゃんには特別何かをしてもらうわけではない。

 みんなと一緒にお出かけして、ご飯食べて、お昼寝してもらう。

 そのためのお料理とお菓子、お昼寝用クッションもマジックバッグに用意してある。

 いわば私たちはソルちゃんを慰労する接待役なのだ。



 本当は共闘しなくても構わないのだが、私がお昼休みに校庭でジョシュと次のダンジョン攻略の話をしていたら、マリウスが近くの木の陰に隠れて聞いていた。

 いや正確には隠れていない。

 半分体を出して、ブツブツと妙な存在アピールをしていた。

「俺も一緒に行きたい……」


 私の従魔とジョシュでパーティー枠がいっぱいなので断ったら、こう言い張られた。

「アシュリーも誘うから、セネカの森のときみたいに共闘しようぜ!」



 どうやらモカと私のご飯がお目当てらしい。

 しかもソルちゃんがついてくることをいうと、「あのソレイユ様のお側にいられるなんて!」と感激していた。

 ソルちゃんは時々私の袖の中で生息しているから、結構マリウスも側にいるんだけどね。



 前回はユリウス様を探す変な冒険者に絡まれたけれど、ダンジョンでは共闘している人以外の別のパーティーに会うことはめったにない。

 どちらかが会おうとしない限りない。

 例えば救援要請のときぐらいだ。

 だから安心してソルちゃんを楽しませてあげられる。



 教会ダンジョンは、地下に出来た教会のようなところにいろいろな魔獣と宝箱と罠が出現する。

 ただ獣系もアンデッドも出るが難易度はそれほど高くない。


 その中に中庭を模したところが20階にあって、ここがピクニックポイントなのだ。

 もちろん魔獣は出てくるが、魔獣除けの香を使えば食事するくらいならできるだろう。

 しかもここの魔獣はほとんどが植物系なのでモカの得意分野でもある。

 それでここまで共闘して、ご飯を食べようということで話がついたのだ。



 週末で戻ってきたルシィはエマ様のところで預かってもらっている。

 初めは「ルーもいくでちゅ!」と散々じたばたされたのだが、エマ様のところに連れて行くと態度がコロッと変わった。


「ルー、きてくれてうれちい。いっちょにいてくれりゅ?」

 エマ様にこう言われるとルシィはご機嫌で頷いていた。

 ルシィにとって、エマ様は家族以外の初めてのお友達だから特別なのだ。


 ダンジョンの帰りにソルちゃんを送りに別館を訪ねるので、その時にルシィは引き取ることになった。




 ドラゴ君のカバンの中にミランダとモリーを入れてもらって、袖の中にソルちゃんに入ってもらい、モカを肩車して準備万端。

 ドラゴ君と手をつないで、待ち合わせの教会ダンジョンの前に向かった。


 そこでは、共闘する3人が順番待ちをしていた。

「おはよう、マリウス、ジョシュ、アシュリー」

「「「おはようエリー、みんな!」」」


 モカは早速マリウスとハイタッチし、抱き上げられていた。

「おおモカ、今日はおそろいの新装備か。似合うぞ、よかったな」

 マリウスが紳士的に褒めるとモカがえへんと胸を張った。



 新装備というか、みんなでお揃いのスカーフを作ったのだ。


 モカの着ぐるみ装備のために、クランの資料室でユーダイ様の資料を見ていたところ、美しく額装された花柄の刺繍入りハンカチが見つかった。

 生成り地に今は褪せているが、元は鮮やかな色で刺繍された、素朴なものだった。


「これ、おばあさまのだ!」

 モカがそれを見て泣き出した。



 よくよく聞くとモカのおばあさまのおかあさま、ひいおばあさまの手刺繍のハンカチなのだそうだ。

 赤いスカラップの縁取りに素朴な花柄が愛らしい。


「正しくはおばあさまがハンカチとぬいぐるみをママにくれて、ママがおにいちゃんにあげたの」

「でもハンカチなら女の子にあげない? 花柄だし」


「本当はぬいぐるみをおにいちゃんに、ハンカチをあたしにって思ってたんだけど、小さい頃のあたしがぬいぐるみを放さなかったんだって。

 そしたらおにいちゃんがハンカチがいいって言ってくれたの。

 実は今のあたし、そのぬいぐるみにそっくりなんだ」


「えっ、そうなの?」

「ティーカップ・テディベアの家族もみんなこの姿だったよ」

「へぇー、そんな偶然あるんだね」

「もっとリアルな熊っぽいぬいぐるみならともかく、あたしたちって子どもの遊び用の、ちょっとくんにゃりしているぬいぐるみの形なんだよね」

「実際には、くんにゃりなんてしてないじゃない」

「そうよ。ティーカップ・テディベアは強いんだから」


 そういってモカはシャドウボクシングをして見せた。

 戦闘意欲十分である。



 その貴重なハンカチの図案をいただき、色あせた刺繍糸はないので元の色と思われる糸で刺繍してエリーパーティーのメンバースカーフを作ったのだ。


 もちろん布と刺繍糸はリュミエラ様の糸を使った。

 ソフィアのドレスの刺繍糸を取った残りだ。

 レインボースパイダーの糸は織り方によって光沢のある絹地にも、涼し気な麻にも、素朴な木綿にも見える。

 それでスカーフも元のハンカチと似るように亜麻リネン風に織った。



 みんな三角に折って首に巻いていて、私はエヴァンズの制服に白のローブなのでポケットチーフにしている。

 モリーは体が小さいのでリボンに同じ図案を刺繍して、いつも体にしまってあるリングの装備に結わえ付けた。


 ジョシュは仮メンバーなのであげていない。

 これは固定パーティーメンバーの証なのだ。

 別に剣術を教えてくれなかったからではない。

 違うったら違う。




 結構早起きして来たのに、しばらく待ってやっと入場だ。

 ダンジョンに入場するときはすべての従魔を出さなければならない。


 それでドラゴ君のカバンからミランダ、モリーを取り出し、袖にいたソルちゃんをだした。

 ソルちゃんはいつもの神々しい姿ではないので誰にも分らなかったが、教会ダンジョンの新しい番人さんがかわいい従魔ばかりだねと褒めてくれた。


 ありがとうございます。本当にみんなかわいいです。



 騎士学部ではないが、リーダーはいつもジョシュである。

 どうしてかって?

 いつも冷静でペース配分をきちんと考えて行動できるからだ。

 もちろんお昼前に目的地にたどり着くためのタイムスケジュールもバッチリ考えてくれている。


「では目指せ20階。行くぞ!」

((((「「「「おー!」」」」))))




 先頭はシーフ役のミランダだ。

 敵を発見すると、アタッカーのジョシュたちに伝え、男の子たちガンガン奮闘してくれた。

 取り決めどおり、落ちた魔石や宝物を私とモリーでせっせと拾う。


 罠を発見するとココって前足で指してくれるし、宝箱の鍵開けもすぐできる。

「すごいな! ミラはそんなことまでできるのか?」

 マリウスが驚嘆の声をあげた。



 ミランダがフフフとドヤ顔(モカ用語)をする。

 私には聞こえたけど、ドラゴ君がみんなに伝えてくれる。

「れんしゅうしたもの、だって」

「練習?」

「あのね、私の部屋に鍵のついた箱をいろいろ置いて、ミラに開けてもらうの」


「エリーの作った鍵はかなり複雑でエグい代物なんだって。

 ぼくの主が、クランで採用しようか検討中なんだよ」

 そうなの? 知らなかった。

「だからミラはそんじょそこらの鍵ぐらい簡単に開けられるんだよ」


 みんなふむふむと「やっぱエグいかぁ」と納得していた。

 ミラが偉いってことじゃなく、そこですか? 



 こんな感じで私たちのダンジョン攻略は進んでいった。


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メンバースカーフは三角に折って結ぶセーラー巻きにしています。

用途によっては、頭に巻くこともあります。


汚れ防止と防御魔法が付与されています。


ちなみにみんな何度か行っているダンジョンなので、10階層まで転移石でとびました。


ビクトリア&アルバート美術館などで、古い刺繍布や繊細な鉛筆画などを引き出し額に入れて保存してあるのですが、その正式名称がわかりませんでした。

ノートのように見開きで見れるタイプもあります。


ちょっとわかりにくかったかな……。



2022/04/11

 よくよく聞くとモカのおばあさまのおばあさま、ひいひいおばあさまの手刺繍のハンカチなのだそうだ。

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 よくよく聞くとモカのおばあさまのおかあさま、ひいおばあさまの手刺繍のハンカチなのだそうだ。


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