第343話 剣術指南


 翌日の授業の後、ジョシュに剣を教えてほしいとを持ちかけた。

 報酬はお弁当だ。


「却下」

「どうして? ジョシュ、剣がすごく上手だもの」

「いや、騎士学部の友達がいるんだし、そっちに頼むのが普通だろ」

「逆だよ。みんな鍛錬で忙しいじゃない」

「一番忙しいのはエリーだろ。それに僕だって課題がてんこ盛りだよ」


「騎士学部のみんなは女の子たちの憧れじゃない? 

 個人レッスンなんてしてもらったら、またやきもちやかれてしまうもの。

 ジョシュ、助けると思ってお願い。

 お昼休みの間だけでもいいから」

「ごめん、ホント無理」


 ジョシュにはバッサリと断られてしまった。

 冷たいなぁ、ちょっとぐらい教えてくれてもいいじゃない。

 もう、お弁当つくってあげないんだから~!



 次はクララさんに相談したよ。

 そしたら意外な返答があった。


「あのね、エリーちゃん。

 クランの子どもたちの剣術指導にあなたを入れることは出来ないわ」

「どうしてですか? 

 私は剣術スキルはありますけど、ほとんど触っていないので子どもたちと一緒にやるのがいいと思うんです」

「あなたも従魔のみんなも子どもたちの人気者でしょう? 

 一緒に遊びたくて集中力が切れてしまうわ。

 それとあなたは器用過ぎて、みんなを腐らせてしまうと思うわ」



 そう言われると何も言えない。

 この間の、メアリー・ティムセンがアクアキュアを習得できなかったことでもわかる。

 私のスキル取得大は破格の能力なのだ。

 初級のスキルしか取れないが、そのスキルに派生する技術や魔法ならば簡単に出来てしまうし、成長率も早い。



 普通ならばアクアキュア(初級)からアクアヒール(中級から上級)が出来るようになるのには、数年かかるもしくは全くできない。

 でもモリーがヒールをよく使うので、私もアクアヒールと使って見たら出来てしまったのだ。

 その時、加減がわからなくて魔力がすっからかんになったけど、努力は全くしなかった。


 アクアキュアは何かと使っていたからそれが修行になっていたんだろうけど、今も苦戦しているメアリーの前ではアクアヒールはやってはいけないなと思う。

 メアリーのアクアキュア習得は靴擦れもあったけど、本当はマリウスのためだと思う。


 一度、マリウスとアシュリーの小さな傷を治しているときに、すごくジッと見ていたもの。

「二人とも薬草か野菜、持ってきてね」と言ってごまかしたけど、好きな男の子を同じ水属性の別の女の子が治しているのは嫌だったんだと思う。




 そんな訳で、私は冒険者ギルドの門戸を叩いたのであった。


 冒険者ギルドのカウンターは、朝の依頼を受けるときと夕方の買取以外の時は、割とゆったりとしている。

 もちろんカウンター業務以外の仕事はたくさんあって、職員さんたちはみんな忙しい。


「こんにちは、講習を受けたいんですが」

「こんにちは、エリーさん。Dランクの方の講習は特にありませんよ」

「剣術の講習を受けたいんです。

 さるお方の練習試合のお相手をすることになりまして」


『令嬢対決』を練習試合でいいのかとは思ったが、ゲームという遊びの中の対決なのだし、殺し合いなんかしない。

 一般の人にわかりやすい言葉にするなら、うん、練習試合だ。


「ほとんどやってませんので初心者のコースがいいんです」

「うーん、今剣術の講習すごく人気があるんだけど。でも初心者向けならいいわね。お昼一番の講習に来てくれるかしら」



 剣術の講習はいつだって人気があるから、受付の女性の言葉をあまり気に留めていなかったが、約束の時間より少し早めに行ってみてわかった。

 Aランクのハルマさんが上級クラスの講師を務めているからだった。

 ハルマさんは今一番成長株の冒険者だ。

 彼のファンの女性や腕に覚えのある冒険者が力試しにやってきているのだ。


 Aランクの中でも最も若手で、あんまり強そうに見えないハルマさんならまぐれでも勝てるんじゃないかと挑戦をよくされるんだって。

 でももちろん全部返り討ちだ。



「もう昼休みが終わるから次の講習が始まるだろーが。

 今日はここで終わりだ」

「おい! 勝ち逃げはズルいぞ。

 どうせガキどもだろうが! 見学させときゃいいんだよ」

「バカかそれでその子が死んじまったら、お前責任取れんのか?」

「じゃあハルマ~♡ お昼ご飯一緒に食べましょうよ」

「俺、新婚。嫁と食うわ」



 このヴァルティス王国内にSランクはユーダイ様が亡くなってからはおらず、Aランク冒険者は現在12人いる。

 王都にはAランクの人たちはハルマさんを含めて8人もいる。

 でもそのうちの5人が『常闇の炎』の魔族の皆さんだ。

 マスターにビアンカさん、ジャッコさん、ルードさん、フィレスさんである。


 あとの1人は『カナンの慈雨』に所属していて、他流試合なんか行わない。


 そして最後の1人は、平民で冒険者をして学費を稼ぎ、騎士になった人。

 はっきり言うと私のおじいちゃん、カイオス・タイラー様だ。

 若いときにAランクになったわけでなく、数年前に騎士団を辞めてから再度冒険者になってから昇格された。

 そしてその輝かしい経歴を引っ提げて、ハミル様の護衛騎士になられたそうだ。


 残りの4人は母さんと、セードンのセイラムさん、ラリサさんだ。

 あと1人は知らないけど、ほとんどのAランク冒険者と知り合いというのも珍しいと思う。



「ハルマさん、こんにちは」

「やあ、エリーちゃん。どうしたの?」

「剣術習いに来たんです。ちょっと学校で必要なので」

「学校で習えないの?」

「授業はあるんですけど、入学前からやってる子が受けているのでついていけないと思うんです」


 それに履修時間全部他の授業入れてるんです。



「「「「なによ(なんだ)、その子(ガキ)?」」」」

 するとハルマさんはひょいっと私を抱き上げた。

 えっ? っと思ったが、小さいせいかジャッコさんを代表にクランの人にもよく抱っこされてしまうので、すっぽりはまってしまった。

 いいんだろうか? 抱っこ慣れする11歳……。


「この子は俺とシンディと同郷の妹分なんだ」

 そう言ってハルマさんはパチリと私にウインクをした。

 合わせろってことね。

 でもハルマおにいちゃんって言いにくい。



「ハルにい……」

「くぅぅ……、あのゲームのエリーちゃんに、おにい呼びされてる。萌え~」

 私にだけ聞こえるくらいの小声で、プルプルしていた。

 抱っこ中なのでちょっと怖いです。


「とにかく手ぇ出したら承知しない」

 ハルマさんは普段とかわらない雰囲気だったのに、まるで威圧を受けたように冒険者たちはカチンと固まった。

「ちなみにエリーちゃんは『常闇の炎』の仮メンバーだから。

 そっちの報復もあるだろうな」



 冒険者たちの牽制が終わると、ハルマさんことハルにいは「今度遊びに来て」と帰って行った。

 弱い冒険者は目をつけられたらお金を取られるっていうものね。

 お気遣いいただきありがとうございます。



 そして昼休み明けにギルドから来た別の講師の冒険者がやってきて、剣術の初心者研修を受けることになった。


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 ハルマさんの中の人はちょっと年上なので、萌えとか言っちゃうんです。

 リアルで萌えって言う人には、まだお目にかかったことはありません。


 ジョシュが指南を断ったのは、出来る限り他の人に実力を晒したくないからです。

 だから学校で練習に付き合うなんてとんでもないことなんです。

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