第300話 家族会議2
「アリステア様のおっしゃることは本当よ。
それに前に話した男爵家との婚約の話も本当なの。
そうね、どこから話したらいいのかしら。
事の起こりは、母と義母の実家のラフマン子爵家が竜巻の被害に遭ったことだったそうよ」
母さんは父カイオスから聞いた話だと断って話し始めた。
「その竜巻は父と母が結婚して1年弱ぐらいで起きたそうよ。
竜巻は子爵領の村と農地を襲ったの。
その結果、たくさんの人々の命が失われて、それはそれは大変だったそうよ。
祖母も亡くなって、祖父は心労と疲労で病気で倒れたの。
復興のための金策に走る義母の代わりに、父は母といっしょに祖父の看病と生まれたばかりの私の世話で精一杯だったらしいわ。
父の実家は商家で羽振りが良かったんだけど、父の兄が継いでいるからさほど仕送りも出来なくて申し訳ないって思っていたみたい。
父は母がサクリード皇国の皇族の血筋だとは聞いてなくて、まさか義母が金策のために母の身分を使って上位貴族に結婚を持ちかけていたとは知らなかったの」
「その義理のお母様は子爵家の後継ぎってことでしょ。婚約者はいなかったの?」
「もちろんいたわ。幼馴染の子爵家の次男の方。
でも家の存続も危ぶまれるラフマン子爵家の跡を継ぐより、もっと条件のいい結婚相手が見つかって乗り換えられてしまったの。
義母は相当ショックだったみたい。
子どものころから親しい付き合いのある方だったそうだから」
それは辛い話だ。親しい相手から竜巻のせいで婚約がなくなってしまうなんて。
「義母がいろいろ出掛けていて家や領地のことに手が回らないから、父と母で何とかやりくりしていたそうよ。
そんな時に、国から父に辺境へ魔獣討伐に行けと命令が下ったの。
父は妻の実家の緊急事態だから仕事を外してほしいとお願いしたんだけど、多額の給金が前借り出来てこれを使って人を雇えばよいなんて言われたそうよ。
騎士団長自らの辞令で、その時にお前はいい奥さんを持って幸せだなって言われたんですって。
それは今言うことかなって不審に思いながら辺境に向かったそうなの。
辺境に行ってる間、母から手紙が来なくて心配だったけど、ない便りはよい便りだと言い聞かせて1年後にやっと任務を終えて帰ってきたの。
そしたら母は後宮に入り、同時に離婚が成立していたそうよ。
その代わりに義母と結婚して子爵家を継ぐように言われたんだって。
それがすばらしい女性を紹介してくれた子爵家と父への褒美だと言ってね」
じゃあおじいさまは何も知らされず、辺境に行かされている間にすべてが終わってしまっていたということなの?
しかもおばあさまと別れる原因になった方と再婚?
そんなのひどすぎる!
「父は初め義母に説明を求めたんだけど、どうして自分が平民の父と結婚しなくてはいけないんだとずっと泣いていて話にならなかったそうよ。
病気の祖父にも聞けなくて、父はおかしなことを話していた騎士団長に話を聞きに行ってわかったの。
その時母のおかげで子爵様になれてよかったな、なんて言われたそうよ」
「でもおじいさまは騎士爵だっていってたよね? 子爵になってないじゃない」
「ええ、そうよ。
義母は王家に詐欺行為を行ったから、父と結婚しないと処刑されると言われてたそうなの。
それで祖父から最期の望みと言われて、父は義母との結婚を嫌々承知したの。
ただ王家は母の後宮入りの支度金をラフマン子爵家に出さなかったの。
理由は詐欺をした義母が潤うことになるから。
だからずっと父の給金の前借りでしのいでいたらしいわ。
結局、子爵家は維持できずに祖父の代で身分を返上したの。
だから父は騎士爵のままで王家に仕えることにしたの。
だって前借りした給金分、働いてなかったんですもの。
父はかなり苦労したそうよ。
平民が妻を売って貴族に成り上がろうとして失敗したって言われたの。
それに辞めさせようと何度も何度も足を引っ張られたんだって。
だから人一倍働いたそうよ。
でもどんなに働いても副団長以上にはなれなかった。
副団長以上だと王城に出入りする権利ができるから。
母に絶対会わせたくなかったんでしょう」
「おじいさまはものすごく辛抱強いお方なのね。普通ならそんなことできないよ」
「王家のあまりの仕打ちに対する意地だったらしいわ。
それに私を連れて王都を出るなと言われていたそうなの。
父は絶対に私の親権を手放さなかったから。
だから他の仕事をするより嫌味を言われても騎士をやっていこうと思ったみたい」
「母さんを王都から出さないって、それって……」
「さすがに親子二代の後宮入りはまずいから、他の上位貴族の元に嫁がせるつもりだったみたいよ。
いくつか縁談が来てたわ。
エリーがお仕えしているクライン伯爵家の正妻候補のお話もあったのよ。
もちろん普通のお嫁入の話もあったわ。
でもそれを義母が嫉んで男爵家との婚約を勝手に結んできたの。
その相手にひどいことを言われて、父に相談したら出奔するように勧められたわ。
あとのことはエリーの知ってる通りよ」
「それでおじいさまはどうなったの?」
「私が知っているのはお母様が亡くなって少しして王立騎士団は退職したわ。
今はアリステア様に仕えているはずよ。
国が好き好んでその役目を父にくれるとは思わないから、きっとアリステア様のご希望ね。
父は国からは睨まれていたけど、平民からは人気があったの。
騎士団所属といっても、仕事は街の
でも元々平民出身だし、王都のもめごとを貴族有利に判断しなかったの。
いろんな事件を解決して、貴族に盾突き、平民を命がけで何度も救っていたのよ。
武功を立てても出世できないから、
でも騎士団をクビになりそうな時に助けてくれたのは平民たちだったそうよ。
だから騎士団を辞めたことは大きな話題で、ニールにまで聞こえてきたわ」
「義理のお母様は、今もマナーを教えてらっしゃるの?」
「多分ね。あの人のことはどうなったのか良く知らないの。
でも父は義母のことを責めるなと言っていたわ。
父はアリステア様が生まれたことできっと母のことを諦められたのね。
父には私がいたし、仕事も失わなかった。
許せることではないけど、義母は命以外のすべてを失ったのだからって」
言葉が出ないほどひどい話だった。
最近こんな話ばかりだ。
義理のお母様のことは、初めの身分を偽ったことは同情の余地はある。
ここまでことが大きくなるとは思っていなかったのかもしれない。
母さんにした仕打ちはよくないけど、おかげで逃げる決心ができたともいえる。
だが王家は違う。
100歩譲って国を守るために仕方なく加護を持つ子どもが必要だとしても、そんなだまし討ちのようなやり方はない。
義理のお母様を利用して、子爵家をわざと潰れるようにお金をださなかったのだ。
きっとおばあさまは子爵家とおじいさまのために泣く泣く愛妾のお立場を受け入れたのだろう。
でも子爵家が潰れて、おじいさまも結婚させられて絶望してしまったんだ。
気がおかしくなるなんて、よほどのことがないとそうはならない。
ああ、おばあさまが薬で錯乱している時に
おじいさまが騎士を辞めさせられそうになったこともそうだ。
陰湿で汚いやり口だ。
どれだけおじいさまが辛酸をなめたのか想像もつかない。
ふとクライン様のことが頭によぎった。
あの方は今、エマ様のことで王家に無理やり忠誠を誓わされている。
それも今回と手口が似ている。
弱みに付け込んで、断れないようにされたのだ。
クライン様が大人になったら、王家はもしかしたらハミル様のように、いや仕事でこき使ってからさらに子供を作らせるのだろう。
それは絶対によくない。
あらゆる才能に恵まれたあの方が虐待のために悪に落ちてしまったら、もう誰も止めることは出来ないだろう。
国もクライン家もどうしてあの方を大事にしないんだろう?
あの方を粗略に扱うことは精霊王の怒りを買ってもおかしくないのに。
これで本当にエマ様に何かあれば……、考えるだけで恐ろしい。
エマ様を私が国外に連れて行けば、少しはこのような状況からマシになるんだろうか?
わからない、私にはわからない。
「エリー、大丈夫か?」
父さんが心配そうに私の顔を覗き込んできた。
いつの間にか俯いていたようだ。
「うん、大丈夫」
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10/22 「だが王家は違う。」の一文入れました。
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