第287話 ロブとの再会


 王宮に着いて一番驚いたのは物々しいのもあるけれど、とにかく皆様のクライン様を見る目が違う。


 私は教えられた手順通りに彼が降りるのを手伝い、そのあとをソルちゃんを肩に乗せてついて歩いているのだが、とにかくどの人も頭を下げるのだ。

 貴族はめったに頭を下げないと教わっていたのに。

 つまりそのめったなことが今起こっているのだ。


「私に頭を下げているというより、加護をくれた精霊王に下げているのだ」

 指定の席に着いたクライン様はそう言ったが、それにしてもすごいことだった。


「トールセン、これからリカルド様にあいさつしたいと人が大勢やってくる。

 この隙にディクスンに会ってくるといい」

「ですがお客様の対応は」

「平民の君がやるより、サミーがやった方が良い。

 そのために正式な騎士になってもらったんだから」

 そうだったんですか? そこまで面倒なことをさせていたのか……。



「留学生控室には送ってやれないが地図がある」

 ダイナー様が地図を広げ、頭に叩き込むように言われた。

「これが入室許可証。ディクスンの部屋だけだから、気を付けるように。

 地図の道以外通らないこと。いいね」

クライン様に念押しされて私は頷いた。

「かしこまりました。行ってまいります」


 まさかここまでおぜん立てをしてくださるとは思っていなかった。

 私は壮行会を眺めるだけでよかったのに。

 でもせっかくの好意を無駄にしてはいけない。



 ダイナー様の地図の通りに行くと、留学生控室に行く前に衛兵に声をかけられた。

「入室許可証を」

 頂いた許可証を差し出すと、すぐ通されロブの部屋に着いた。


 ドアをノックすると、ロブがどうぞというので入ってみた。

 黒いスーツ姿のロブは、今までしていなかった銀縁の眼鏡をつけていた。

 嵌りすぎるくらい似合っていてびっくりした。なんだか大人の男の人みたい。



「ロブ」

「エリー! ……どうしたんだ。こんなところまで、どうやって来たんだ」

 ロブは驚いて私の名を呼んだが、すぐに声を低くして聞いてきた。


「あのね、私の同級生にリカルド・ゼ・クライン様がいらっしゃるの。

 あの方の従者になって正式に入ってきたんだよ」

「『常闇の炎』を辞めたのか?」

「ううん、辞めてない。

 でもクランの許可を得て、クライン様のお仕事をしているの」



「もう会えないと思っていたから、びっくりした」

「どうしてもだめだったら、王都の門のところで待ち伏せようかと思ってたんだよ」

 ロブは私の手を取って、握りしめた。


「よく顔を見せてくれ。あの時の大けがは大丈夫なのか?」

「もちろん。マスターの治癒魔法はすごいの。

 そうだ! ロブも目が……悪くなったって聞いた。眼鏡そのせいなの?」

「ああ、見えすぎて疲れるから、調整のためつけてるんだ。

 結構、様になってるだろ?」

「うん、すごく似合う。雰囲気も少しかわったね。大人っぽくなった」

「見た目だけ。でも背はのびたな」


「シーラちゃんは今体を休めるために眠っているの。

 起きたら今日のロブのこと伝えるからね」

「ああ、シーラのことよろしく頼む」

「任せといて。すごく安全なところにいるから」



 それからお互いの近況を少し話した。

 あの卵からセルキーが生まれたことを知ると、ロブはニッと笑った。

「やっぱり当たりだったな。セルキーは毛皮を脱ぐと人間の姿をしているそうだぞ」

「うん、そうらしいけど今はまだ赤ちゃんなの。

 私が学校行こうとするときゅうきゅう鳴くのよ。

 もう後ろ髪引かれっぱなし」


「甘えたなのか?」

「そうなの。でもね、すごくかわいいからいいの。

 みんなもよく手伝ってくれるし」

「そうか、会いたかったな」

「絵ならかけるよ。何か紙ある?」


 ロブが手帳を開けてあの万年筆を貸してくれた。

「どう? これ使いにくくない?」

「すごく書きやすい。ありがとう。大事にする」

「よかった」


 私がルシィの絵を描くと、

「へぇ、かわいいもんだな。

 セルキーはヒトより一回り大きく育つそうだから食費大変かもしれないけど」

「今はまだ小さいし、真っ白でふわふわなの。

 それにウチの狩人たちが頑張ってお肉取ってきてくれるし」

「そうだな。みんなにもよろしく伝えてくれ」


 私はこのことを言いに来たんだった。

「あのね、私もう怒ってないよ。マルトのことも。

 嫌な目に遭ったけど、本当の友達が誰なのかもわかったし。

 だからロブも自分を責めないで」


「ありがとう、エリーはそう言ってくれると思っていた。

 でもけじめはつけないといけない」

「私、ずっとロブと友達でいたいの。ダメかな?」

 ロブは少し黙ってしまったが、

「もちろん、エリーが望むなら。俺はお前の願いなら何でも叶えるよ」


 思ったより重い返事が返ってきた。


 私はもう少し彼の気を安らげたかったのだが、無情にも部屋がノックされた。

「そろそろお時間です。来訪者の方はお帰り下さい」

「そんな、まだちょっとしかいなかったのに……ロブ、絶対元気で帰ってきてね」


「ああ、エリーも。どうか元気で。

あんな戦いに巻き込まれないように気を付けて」

「私も巻き込まれたいわけじゃないけどね。

でももしまた同じことがあれば戦うと思う」


「ああいう戦いは嫌いだろ?」

「そうだけど、自衛はしなくちゃ。じゃあ、なごり惜しいけど行くね」

「ああ、会えてうれしかった」


「私も。ロブ、あっバートの方がいい?」

「エリーはロブと呼んでくれ。お前だけは……そのままでいてほしい」

「わかった。またね! お手紙出来たらちょうだいね、ロブ」


 ロブは心からの笑顔で手を振ってくれたが、またとは言ってくれなかった。

 それがちょっと悲しかった。


 でもマスターが言ってたみたいに、時が経てばロブも落ち着いて前のように仲良くできると信じよう。



 ヴェルシア様、ロブともう一度会わせてくださってありがとうございます。

 クライン様とダイナー様にもちゃんとお礼を言わなくちゃ!

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