第207話 転生者の見分け方
部屋に戻ってエンドさんかもしれないグリフォンの話をモカにすると、ものすごく喜んでいた。
「グリフォンはものすごく強いから、そうそう捕まってないよね。
きっとエンドだよー。よかった。やっとエンドに会える」
「私もそうだと思うけど、違ってたらごめんね」
しまった。ぬか喜びだったらどうしよう。
「でもクララさんが調べてくれていたのにわからなかったのに、ジョシュから聞いたのは意外だった」
「王宮の方からの情報なのかもね」
モカは嬉しさのあまり、ミランダと踊っていた。ほとんど振り回しているのに近いけど。ミラはあんまり気にしていないみたい。
ふふ、やっぱり嬉しいよね。
エンドさんとモカの出会いは、モカが冒険者から逃げて間もない時だったそうだ。
なんでもエンドさんが木に挟まってしまったのをモカが助けて、友達になったんだって。
「エンド、意外とおっちょこちょいなのよねー」
あら? ドラゴ君、どうして横目で見てるの?
ドラゴ君は私にそっと耳打ちした。
「モカは結構自分に都合のいい解釈しているから怪しい」
「まぁまぁ、いいじゃないの。疑わしきは罰せずよ」
みんなで仲良く話をしていると窓がコツコツとなった。
返信機能付きレターバードだ。
開けて見るとロブからだった。
『エリーへ
今週末、従魔ギルドで会わないか?
シーラがドラゴさまに会えなくて寂しいってしょげてるんだ。
だからドラゴを連れてきてくれ。
また飯も食おうぜ。もちろん、ミラもモカも連れてきていいぞ。
返事くれ
ロブ』
つまり、土の日ね。
それで了承する返事を返した。
「みんな、土曜日にロブとシーラちゃんと会うことになったよ。ご飯も食べようって」
「さすが王都一の金持ち! 太っ腹だね」
「ねぇ、モカ。おごってくれるとは書いてないよ。
それに私、意味なくロブにご馳走になりたくないんだけど」
「そうねぇ、パパが男が女の子を食事に誘うときは奢るものだって言ってたからつい。あっ、でもそれは気があるときだけかもしれない。
確かにお金を出してもらってばっかりだったら、友達じゃないよね」
友達同士は割り勘が基本だよねーとモカはてへぺろしていた。
「割り勘って何? 」
「割り勘って普通の言葉でしょ。勘定を人数で割って支払うことよ。
エリー、婚活とか就活とかの略語、普通に使うじゃない。それと一緒よ」
「えっ? ああ、それはハルマ用語だから」
「ハルマ用語?」
「ほら、モカ以外に見つかっている転生者のことよ。あの人がこちらではあまり使わない言葉をよく使うの。その言葉のことをハルマ用語って言うの。秘書とか、推しとか、ロリとか」
「それじゃあ、萌えとか尊いとかわかんないってこと?」
「萌えはかいてあったかな。ものすごく好きってことでしょ。モカが言う意味の尊いはわかんない。尊敬できるってこと?」
「エリー、転生者かもしれないヒト見つけた」
「えっ? 誰?」
「あの劇場の脚本家の眼鏡の人!
あの人、眼帯ロリメイド尊いってエリー拝んでた」
そういえばそうだった。えーと、トラウトさんだっけ。
「次の樹の日にビアンカさんと一緒にユナの舞台を見に行くから、ちょっとトラウトさん揺さぶってみる?」
「あたしも行く。向こうの言葉は私にしかわからないもの」
「次はぼくも行く」
「みにゃー!」
「それじゃあ、ボックス席をアレーナさんが取ってくれていたから、みんなで行こうか?」
みんなの嬉しそうな声を聴くと嬉しくてたまらない。
私はやっぱり従魔たちに甘いのかもしれない。
話を戻してロブのことも考えたかったので、私はもう一度乙女ゲーム『この愛を君に捧ぐ(アイささ)』のバート・ディクスンの話を聞くことにした。
「前も言った通りよ。バートは自分の従魔に初恋の人を殺されて、自分でその従魔を始末したの。一度に大切な相手を失って、もう誰も愛さないと誓うの。
でも失ったものが大きすぎてその喪失感を埋めるために、女遊びに走るのよ。
バートの美貌、能力、それに経済力はたいていの女性がひれ伏しちゃうの。
でも相手が本気になったらお終い。手ひどく傷つけてお金で解決するの」
「うーん、最低だね。でもあのロブがそんな女遊びに走るなんてね。どちらかと言えば女の子に対して注意深い対応するのに」
私が女の子の格好していた時もそうだし、若い女の店員さんに声を掛けられても丁寧だけど冷たくあしらっていた。
「バートはディクスンの跡継ぎなのよ。結婚相手としては最高だわ。
この国一の大金持ちなんだから。それでウンザリしてるのよね。
そのウンザリが彼を遊んだ相手に対して冷淡にさせるの」
うーん、貴族だけでなく、平民の婚活もすごいのか。
あっ、ロブならお金持ちだから貴族の令嬢が迫ってくるのかしら?
「そのバートがヒロイン、まどかってことにしておくね。まどかの友達に手を出してひどく振るの。それに抗議しに行くのが2人の出会いなの」
「うん」
「まどかの抗議する姿が、バートの初恋の人に少し似てるの。
死んだ彼女は正義感が強くて、魔獣も好きで、とても優しい人だったそうなの。
だからうっとうしいんだけど、無視出来ないの」
「うん」
「それでまどかはバートを更生させるべく、見張るために四六時中一緒にいるの。
そうこうしている間に、バートの本心は優しい人だと気が付いて彼にどうしようもなく惹かれてしまうの。そして二人は愛し合うようになる」
「うん」
「で邪魔がいくつか入る訳。まずは姉のマーガレット。男爵家の後援がついてるからってバートの嫁に異世界の多少魔力の強い女の子なんてふさわしくないというの」
「ねぇ、まさかと思うけどマーガレット様のお家ってリヒター子爵家?」
「あれっ? 前に言ったっけ?」
「ううん、私個人的にマーガレット様に面識があるの。マーガレット様の妹さんを間接的にだけど助けたから」
そうか、私ロブの妹を救うことが出来たんだ。よかった。
「へぇー。世間って狭いものね」
「そうね。本当に」
「あとバートはディクスンの跡継ぎでしょ。いろいろ思惑が絡んでローザリアも邪魔をする。同じ生徒会だからアリアも邪魔をするわ。この3人で令嬢対決ね」
「攻略するのに必要なレベル上げのゲームね」
「うん」
「バートルートのトゥルーエンドは、まどかのアイデアでディクスン家の危機を乗り越えるの。家族にも国からも認められて晴れてバートと結婚し、大商人の妻として生きていく。
ノーマルエンドは、友達として終わる。
ハーレムエンドは、バートは王宮につながりを持たないから彼はまどかの前から姿を消すわ。辞めていたテイマーに戻って従魔たちと旅をしに行くの。
でも旅先からまどかに重要な情報をくれるのよ」
「バッドエンドは?」
「それが思い出せないのよ~。あたし『アイささ』はリカ×サミのためにやってたからバートルートは攻略済ませたらスキップしてたんだよね。
このルートにはリカルドもサミーもほとんど出てこないもの」
モカは思い出せるように頑張るけど期待しないでと頭を抱えていた。
モカは『アイささ』以外にもたくさんのゲームをやっていて話がごっちゃになるんだという。
ゲームとはそれだけたくさん作られているものなのか。
もしこの世界がゲームの世界だということが本当だとしたら、そんなにたくさんの世界が存在しているということになる。
そんな風に簡単にたくさんの世界が作られていることが私には何だか怖かった。
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こちらの世界では別勘定にすることはあっても、割り勘にはしないのです。
親しい間柄でみんなで食べるときは、収入が一番高い人が奢るか、順繰りに奢り合いです。
だから冒険者のパーティー内で、お金にルーズなメンバーがいたら収入が入った日にそのメンバーに奢らせて他の日はお金の管理の出来るメンバーが支払います。
でも、もめ事の原因になるので基本別勘定ですね。
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