第202話 可愛い従魔


 今日の待ち合わせは教会の塔の下で、正午の鐘が鳴る前に集合だ。

 私はビアンカさんの着せ替えで作ってもらった新しい葡萄色に小さな花模様の入ったワンピースを着た。

 これにミランダポケットの防寒コートを着ると、裾からスカートが見えてアクセントになるのだ。


 髪には装備のリボンカチューシャをした。

 これを付けると一気に女の子に見える。

 でも頭が寒そうに見えるので、ふわふわの帽子もかぶった。


 これはロシアン帽と言うものだそうだ。

 みんながたくさん狩ってくれたラビットの毛皮で作ったんだ。

 あと手を温めるマフもお揃いで作ってあったのでそれもつける。

 運動性は良くないけど、寒い冬につけるととても品よく見える。


 武器は持ちたくなかったが、聖属性の杭だけは外すなとドラゴ君に言われたのでそのままにした。


 これで準備万端!

 でもいいのかな?女の子の格好で。



 私とドラゴ君(カバンの中にはモカとミランダ)が塔の下で待っていると、ロブさんが現れた。従魔は連れていない。

 私の方を一瞥したが気が付かなかったようで、5メートルぐらい離れた位置で立っていた。


 私が近づこうとすると、ロブさんは舌打ちして離れようとする。

「あのー、ロブさん」

 私が声を掛けるとロブさん驚いたように振り返った。



「お前、エリンなのか?」

「はい、本名エリーです。昨日ちゃんと名乗れなくてすみません」

「でも男の制服……、いやエヴァンズに男装の毒婦がいるって聞いたことがある」

「毒婦じゃないです」

 私はうつむいた。あの噂相当浸透している。


「まぁ、そうだろうな。大方妬みか何かで嫌味言われたんだろ」

「信じてくれるんですか?」

「シーラが悪い子じゃないって言うからな」

「シーラさんはどこに?」

 するとロブさんは左手を差し出した。



 彼の左手首にブレスレットのように巻き付いた白いヘビがいた。

 いや、ヘビじゃない。

 背中に蝙蝠のような羽がついている。

 鎌首をもたげたその頭に輝く深紅の瞳は宝石よりも美しかった。

 


「まさかドラゴン?」

「ああギーブルだ。まだ5歳の幼体だがな」


 それはすごい!

 ドラゴン種を従えるだけでもものすごいのに、ギーブルは災害級だ。

 でもそんなに幼いならちゃんづけのほうがいいかな。


 ギーブルは、ヒトを丸のみにするのを好み、魔法も使えて都市を丸ごと壊滅させたこともあるドラゴン種の1つだ。

 なぜか雌しか生まれないそうで、男性の裸を嫌うという。

 そして信頼している人間の前でだけ、その瞳を外して洗うそうだ。

 その瞳は宝石として高い価値がある。

 だからギーブルに信頼させてその瞳を奪う。奪われるとギーブルは死んでしまうのだ。


 この討伐法を読んだ時、許せないと思った。

 瞳を外すほどの信頼を捧げてくれる相手に、そんな非情なことをするなんて!

 ロブさんがそんなことしないヒトでありますように。



 ロブさんは私が相当懐疑的な目で見ていることに気が付いたらしい。

「お前が何考えているかわかる。

 俺はそんなことはしないし、シーラにも俺の前で目を洗うなと伝えてある。

 俺が脅されて目を奪わないといけないことがあるかもしれないからな」

「よかったです。本当に」



 私はシーラちゃんに挨拶をした。

「こんにちは、私はエリーです。学生兼冒険者です」

 するとシーラちゃんもお辞儀を返してくれた。

 すごくいい子です。可愛い!



「まっ、立ち話もなんだ。飯行こうぜ」



 私たちは歩きながら話をした。

「お前の従魔って、そっちのヒト型か」

「はい、カーバンクルなんです」

「カーバンクル?噂のケルベロス倒した奴か?」

「そうです。ドラゴって言います」

「よろしく、俺はロブだ」

「ぼくドラゴ」



 ロブさんが右手を出したのでドラゴ君も返していたら、シーラちゃんはロブさんの左腕から首を伸ばしてドラゴ君のほっぺたにキスをしていた。



「ぼくプロポーズされちゃった」

 ええっ、シーラちゃん気が早いですね。一目ぼれですか?

「すぐ結婚できないって言ったら、せめて婚約したいって」

「するの?ドラゴ君」

「うーん、シーラが成体になるのあと995年後だからなぁ。保留」

 シーラちゃんは、そんなぁって感じでしょげていた。



 その姿があまりにも可愛くて私はニコニコしてしまった。



「なんだよ。何ニヤニヤしてるんだ」

「ニヤニヤじゃないですよ。シーラちゃんがあまりに可愛らしかったので微笑ましく思っただけです」

「まっ、今は小さいからな」

「?」



 セードンの本通りから少し外れた閑静な住宅街にそのお店はあった。

「ここだ」

 小さな木製の看板にカシェットとある。隠れ場所って意味だ。



 装飾はシンプルで、窓に薄手のカーテンが付いていて店の中を明るく保っている。

 よく見るとカウンターやいすの角がきっちりやすりがかかっていて、引っかけないように配慮されてた。

 洗いざらしだが清潔なテーブルクロスが全部のテーブルにかかっていて、気持ちのいい丁寧な作りの店だ。

 厨房は奥で換気がいいのか、匂いはあまりしなかった。



 ロブさんはここの常連らしく、男性店主さんから暖かく迎え入れられた。

ぼんが女の子連れてくるなんて、空から槍が降ってきいへんやろか?」

「うるさい」

「どうもカシェットの店主ドニどす。以後よろしゅうおたのもうします。」

「エリーです。こちらこそよろしくお願いします」


 ドニさんは西の方の出身らしくとっても訛っていた。

 でもほんわかとした温かみのあるお店にピッタリな感じだ。



「シーラがいるから個室で。料理はお任せ。シーラ用の肉はじゃんじゃん持ってきてくれ。お前の方の従魔の好みはあるか?」

「大丈夫です。何でも食べます」

「まいどおおきに。仰山ぎょうさん食べてって」


 そうして私たちは案内された個室に落ち着くことが出来た。


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私はギーブル=ヴィーブル説を取っています。

この2つは同じとされる説が多いそうなので、個別に書かれてある特徴を混ぜて書いてあります。

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