第201話 初デート?


 ロブさんに卵をきれいに包んでもらって、魔獣市から出て父さんの店に向かった。

 2度ほど角を曲がったところで、母さんが待っていた。



「エリー」

「母さん、急にいなくなるから心配した」


「ごめん、エリーと話していた魔獣商、私が学生の時にも学校に来ていて話をしたことがあったの。

 ああいう商売人はヒトの顔や話したことをよく覚えているから、顔を合わせない方がいいと思って。

 ドラゴ君もいてくれるから大丈夫だと思ったの。

 もちろんいざというときは出るつもりだったけど」


 やっぱり、そうだったのね。



「で、卵買えた?」

 タミルさんのブースには近寄らなかったらしい。知り合いが他にもいるかもしれないもんね。

「うん、掘り出し物。でも孵化させるの難しいらしいの」

 私は母さんにこの卵が返品されたため、安くなったことを話した。


「エリー、卵の中には孵らないものもあるのよ。返品されたってことはその可能性が高いわ」

「うん、わかってるけどこの子がウチの子になりたいって言ったと思うの」

 母さんが驚いてこちらを見た。



「エリーそれって……」

「私、心話が出来るようになったんじゃないかなって思うの」


 最近の私はそのスキルを見ただけでスキルが出来る前段階になるようなのだ。

 そして自分でそのスキルを使おうとしないとスキルにならない。



 例えば剣術スキルは何度も見ているが、使ったことがないので多分スキルになっていない。

 でも真実が知りたいと強く願っていたら、真実の眼か真贋判定スキルが生えてきたように思う。

 これはクライン様がよく私に使用されるからだ。



 最近なんとなく相手が嘘を言っているのがわかる。

 もちろん全然わからないヒトもいる。

 マスターやビアンカさん、学校ではクライン様やディアーナ王女、ジョシュもわからない。


 本来ならラリック様もわからなかったはずだ。

 彼女が魅了の状態異常だったからわかったんだと思う。

 この、わかるわからないの差は、魔力量だけでなく、精神力のようなものだと推測している。



 私にできたスキルのことはさておき、私が日々一番欲しいと思っていたスキルが心話だ。


 ドラゴ君がマスターと話していたり、モカとミランダと話していたりするのがとっても羨ましいのだ。

 特にミランダはまだ人語を話せないから、もっと彼女の話していることを知りたいと思っていると前よりも何が言いたいのかわかってくるようになった。



 次からはお互いコミュニケーションが取れるくらいになりたい。

 そしていつかマスターに信頼していただいて、マスターともお話したい。

 心話の能力が上がると距離など関係ないそうなのだ。


 クララさんに聞くと、相手の心にノックして入れてもらう、あるいは顔を出してくれるような感じだそうだ。

 たいていは顔出しくらいだけど、親しい間柄だと心の中に入れてくれることもあるんだって。それはとても深い付き合いになるのだ。

 入れてもらうのはムリでも、顔出ししてもらえるくらいにはなりたいです。



 店に帰ってドラゴ君がケープを脱ぐと、ミランダとモカが寄ってきた。

「エリー、その卵多分強いよ」

「そうなの?」

「うん。ぼくが本気で覗くとぼくの卵になるからしないけど」

「みゃあ」


 ミランダが入った卵の包みの入った私のポケットにすりすりする。

 「ミラも嬉しい?」

 


「弟が出来て嬉しいってさ」

「弟?男の子なの?」

「ミラぐらいだと覗いてもこの卵は屈服しないみたい。つまりミラと同等かそれ以上ってこと」

 そうなんだ。魔獣の世界もいろいろあるんだな。



 モカとミランダにお留守番の様子を聞いたら、モカがエプロン姿して客寄せしようとしたそうだ。

 でもティーカップ・テディベアがいるなんて知られるとまずいので却下。

 それで代わりにミランダがマスコットとして客寄せしたらしい。

 お客さんがかわいいかわいいと撫でていったそうだ。


「エプロン姿のクマもかわいいと思うんだけど」

 私もかわいいと思うよ。モカ。

 でも論点はそこじゃないよ。



 モカは奥で洗い物を担当したそうだ。

「モカが調理器具洗ってくれたの?」

「シークレットガーデン内なら、清潔の魔法が使えるからそれで洗ったよ」

「ありがとう、モカ。裏方の仕事ばかりお願いしてごめんね。私が誰もモカに手を出せないくらい強かったらよかったんだけど」


 私はモカを抱き上げて、キュっと抱きしめた。


「ちょっとお店屋さんごっこしたかっただけ。気にしないで」

「いつかやろう。マスターが側にいらっしゃるときに」

「そうね。お兄さんがいてくれたら、あたしたちに悪いことする奴なんていないもんね」




 夕飯時に父さんと母さんにロブさんと明日のお昼ご飯を食べに行く話をすると、父さんがものすごく衝撃を受けたようだった。


「そ、そうか。エリーもそんな年ごろに……」

「もうトールったら。エリーはまだ10歳でそんな年ごろじゃないわよ」

「でも初デート……」


 初デート? いや、多分ロブさんは私のことを男の子だと思っている。

 タミルさんもエリン君って紹介してたし。

 そのことを父さんに言うと、すごくホッとした顔をされた。



「あら、それじゃあ明日はおめかししてうんと可愛くして行きなさいよ。

 きっとその子驚くわよ」

「えっ、でも……」

「あのね、かわいい女の子とご飯食べるのが嫌な男なんていないの。

 もしかしたらデザート付きのご飯になるかも。みんなも甘いもの食べたいよね?」

「うん、ぼく甘いもの好き」

「あたしもー。エリーの初デート楽しみ!」

「にゃにゃー」

 ドラゴ君もモカもミランダもみんなノリノリだ。



 だからデートじゃないってば。

 そう言おうとしたが、父さん以外はすごくニコニコしているので、まぁワンピースぐらい着て行ってもいいか。



 それで母さんとモカとミランダ監修の元、おめかししていくことになった。





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