第200話 新しい卵

 

 タミルさんのブースは中央の割と目立つところだ。

 長年、王都で魔獣の卵専門業者をされてるだけある。

 すれ違う人がみんな挨拶しているし、ケチだけどこの業界では有名な方なのだろう。



 タミルさんは私をブースの奥まで案内してくれた。

 普通の客なら入れてはもらえないところだ。

 あの時アドバイスして本当に良かったです。


「おっちゃんお帰り」

「ああロブ、何もなかったかね?」

「ちょっと冷やかしがあっただけ。俺が子供だから話も聞いてこねぇし。おっちゃんがどこに行ったかってだけ聞かれたぜ」


「そうか。紹介しよう。エリン君。彼はロブ。王都の学校に通ってるんだ」

「よろしく。その制服を見るところ、お前エヴァンズなのか?」

「そうです。ロブさんは?」

「俺学院」


 秀才様ですね。黒髪に紫の瞳。典型的な闇属性。テイマーやサモナーに最適だ。

 そして、すごいハンサムでもある。

 鑑定をしなくても強い魔力を感じるし、彼の美貌なら花形官吏になるのはたやすいだろう。



「彼が卵を1つだけ欲しいそうなんだ。ロブ、何か見繕ってやってくれ」

 えっ?私よりは年上だけど、1,2歳ぐらいしか変わらないのに?

「これでもロブはなかなかの目利きなんだよ。私はそろそろ約束の時間だから行かないといけないんだ」

 そう言われると信用するしかない。

「タミルさん、ありがとうございます。ロブさんよろしくお願いします」


「俺がガキだからって甘くみんなよ」

「タミルさんがああ仰ってるんだから信用します」

 私に対してはフンっという感じだが、卵を見る目が優しい。

この人、魔獣好きなんだな。



「で、予算は?」

「というか今の卵の価値がいくら程度かわからないんです」

「お前よくそれでこんな市に来れたな。子どもだから足元見られてぼったくられるぞ」

「紹介状を書いていただいたのでどんな感じなのか見るだけでもって思ったんです」

「ふーん、見せな」

 私はロブさんに紹介状を渡した。



「うへっ、なるほどな。セイラムさんと知り合いか」

「そうなの。母さんがセイラムさんとラリサさんの友達なの」

「セードンの最強夫婦の紹介でぼったくりは出来ねーな」

 えっ?するつもりだったの?


「俺はしない。おっちゃんの名前を預かってるからな。心配すんな。他の奴も出来ねーって。お前をぼったくて儲けるより、セイラムさんに悪徳業者として目を付けられる方が怖ぇーからな」

 ロブさんはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。



「おすすめの魔獣の卵は金貨100枚からだが、そんなにはねぇよな?」

 あるけど、母さんがいるならともかく私一人で使えない。

 それこそ目を付けられる。

「はい」


「50枚だとちょっと怪しい。30枚だともっと怪しい。さてどうする?」

「30枚はどれくらい怪しいですか?」

「半分だ」

 つまり1/2か。



「金貨20枚で俺の勘だとかなりいい奴がある」

「そんなに安く?」

「ただし、一度買われて孵らなかった。つまり返品分だ」

 返品……。不良卵ってこと?


「俺は不良だとは思わない。そいつの魔力か愛情が足りなかったんだと思う。

それだけ強い卵ってことだ」

「そんなに言うならロブさんは買わなくていいの?」

「買いたかったさ。でもウチのシーラが嫌うからダメだったんだ」


「シーラ?」

「俺の従魔だよ。強すぎてここに連れてこれなかった」

 あら、ここに隠れているドラゴ君も似たようなものですよ。



「そうですか……」

「で、どうする?」

「一応、その卵見せてもらっていいですか?」

 ロブさんが後ろの箱から、手のひらサイズの卵を1つ持ってきた。



 鑑定したら、ルエルトダンジョン産とある。あの乗合馬車の時の卵かもしれない。


「触っても?」

「撫でるだけな」

 私がそっと撫でると、何かふわっと温かく感じた。

 ロブさんが触ってたせいだろうか?

 ううん、違う。



「ウチの子になりますか?」

 そう言って撫でると、なるーっと返ってきたような気がした。



「この子、下さい」

「お前、いいのか? 他のも見てもいいんだぞ」

「この子がいいの」

「お前がいいならいいけど。じゃあ金貨20枚だ。現金か手形、どっちだ?」


「現金なら安くなりますか?」

「フン、値切りは出来るのか。俺に許されてるのは2割だな」

「じゃあ、15で」

「16」

「きりが悪い」

「16。2割までって言っただろ。おっちゃんとセイラムさんの紹介だから最安価格を言ったの。だいたいこれはもっと高い卵だったからな」

「じゃあ、仕方がないですね」



「その代わり、明日の昼おごってやる。お前従魔いるのか?」

「います」

「じゃあ、俺の従魔も連れて行くわ。シーラでもいいか?」

「構いません。うちも3匹いるんですけど」


「3匹デカいのか?」

「全部小さいです。そんなに食べたりもしないです」

「わかった。シーラに飲み込まないように言っておく」

 飲み込む? まさか!



「あの、そのシーラ……さんはワームじゃないですよね?」

「ワーム? なわけないだろ。

だいたいワームみたいな知能の低い奴はテイム出来ねーわ」

「そうなんですか? まだ従魔ギルドに行ったことないんで何がテイムできるか知らないんです。王都に帰ったら行こうかなって思ってるんですけど」



「そうなのか。俺Bランクだから、教えてやろうか?」

「B? すごくランク高いですね」

「まぁな、俺の魔力量とシーラをテイムしたのがデカい」

「魔力かぁ。あんまり自信ないです。少ないとあんまりですか?」

「お前、その目だと風だろ。それで少ないとなるとちょっと不利だな」

「せめてEランクになりたいです」



 従魔ギルドの階位は冒険者ギルドと同じだ。従魔を持っている人が冒険者であることが多いからだ。

 つまり登録しただけではFランクで、半年以内の実績を積まないとEランクになれずに登録抹消になってしまう。



 ロブさんとの話は結構尽きなかった。

 彼はとても話しやすい人だ。

 それで明日のお昼ご飯をおごってもらうことになった。





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