第170話 3人の商人の娘たち
次の週、学校に行ってアシュリーが疑っている3人の女の子たちをこっそり観察してみた。
マルト・ドロスゼン。
すらっとした知的優等生だ。私は美人だと思う。
聞くところによると母子家庭だけれどお母さんがなかなかのやり手の商人で、食品がメインと聞く。
バルティス王国最大の商人ディクスン氏とも仕事をしているらしい。
本人も努力家で勉強もよくできるけれど、私とクライン様には届かないくらいかな。
モカのゲームの知識を考えれば、情報通の可能性もある。
動機は私がいなくなれば平民トップとなり、学費の半額免除になるってこと。
他にも知らない理由があるかもしれない。
メアリー・ティムセン。
ちょっぴりぽっちゃり気味だけど、よく笑う感じのいい可愛い人だ。
彼女は中堅どころの宝飾品店の娘で、購買層は下級貴族や小金持ちの商人。
安くても見栄えのするアクセサリーが人気のお店だ。
彼女は三女で店を継げない。だから外に働きに行くため、メイドになるって聞いている。
彼女の動機は、私のせいで転校した貴族令嬢と親しくしていたそうだ。将来は彼女のメイドになんて話もあったと聞く。
他にもあるかもだけど、わからない。
キンバリー・ロイド。あだ名はキム。
王都でも3本の指に入る大商家の娘で、外国との交易もしているらしい。
なんとロイド商店は、『常闇の炎』のお得意様なのだ。
彼らの陸路、海路の護衛を何度も務めていて、成功を収めている。
彼女のお父さんは護衛成功率100%のマスターの大ファンで、娘と結婚しないか?と言われたこともあるらしい。
その娘さんは彼女じゃなくて、お姉さんだったみたいだけど。
もちろんマスターは丁重に断ったそうだ
そのお姉さんも婚約が決まってお嫁に行くので、実質彼女が跡取りだ。
彼女の動機は全く不明。いつも大人しくて、マルトとメアリーの言いなりな感じもする。
派手ではないけど、小動物のような守ってあげたい感じの女の子だ。
3人ともいわゆるリア充(ハルマ用語で、お金持ちで頭もよくて見た目もよくてモテるタイプ)だ。
どうしてこの人達に嫌われるのかは正直わからない。
私は人の悪意に疎いのかもしれない。
お昼休み、私たちは校庭の片隅でなぜか私の作った弁当を食べている。
ただ前と違うのはみんなが野菜やらなにやら、材料をくれるようになったことだ。
多分怪我の治療費が借金として、特許料で払うことになったと言ったからだろう。
「誰かが鑑定してみたら、スキルわかるかもしれない」
アシュリーがボソッとつぶやく。
「いや、やらない方がいい。洗脳なんてスキル持ちは精神攻撃がうまくて目ざといと思う。隠蔽している可能性も高い。彼女たちは頭もいいんだ。ぼくらが警戒していることがバレてしまうかもしれない」
ジョシュ、相変わらずの慧眼、恐れ入ります。
「ドラゴ君、鑑定できる?」
彼ならバレずに鑑定できると思う。
「ぼく、植物とか魔獣とかの鑑定はできるけど、人間のスキルなんかわからないよ」
「でもよぅ、動機が見当も付かないんじゃ、止めさせるわけにもいかないだろ」
「とりあえずなんだけど、考え方を変えてユナを正気に戻すことにしたらどうだろう?そしたら洗脳してる側にとって困るからボロを出してくれるかもしれない」
「どうやればいいんだ?」
「それが見当もつかない。エリーは案がないの?」
ジョシュ、私洗脳なんか全然知らないよ。でも正気にさせるか……。
「前に決めたあの3人との接触を絶たせることと、なにかショックを与えるのはどうかな?」
「具体的には?」
「うーん、例えば目の前でアシュリーが死ぬくらいの大けがをするとか」
私はルノアさんとリノアさんのことを思い浮かべていた。
あのルノアさんが半狂乱になるほどのショック。本当に大切な物が失われるということはそれほどなのだ。
さすがのアシュリーも言われたことの大きさに驚いた。
「俺は死ぬくらいの大けがしないといけないのか?」
「もちろん仮病だよ。目の前で友達が死にそうってすごくショックじゃない?」
「「ああ、確かに」」
マリウスとジョシュは深く頷いた。
そっか、私死んだことになっていたしね。
「もちろん、1例に過ぎないよ。死んだふりなんて危険が伴うし。むしろ付き合いの長いアシュリーの方がいい案あるんじゃない?」
「……考えてみる」
「じゃあ、俺らはあいつらと仲がいい
「エドセン?僕はかなり嫌われているからなぁ」
マリウスの提案にジョシュは苦い顔をしていた。
エドセンくんは前に私の吊し上げの時も攻め立ててきた子の1人だ。
割とハンサムな秀才で、ドロスゼンさんにすごくほれ込んでいるみたい。
一緒に校外に出掛けているのを見かけたこともある。
花形官吏になりたいって噂で聞いたことがあるし、野心家だ。
ジョシュとアシュリーがいなければ彼が1年の平民男子で一番成績が高い。
でもアシュリーは騎士になるので実質のライバルはジョシュだ。
しかもジョシュは成績だけでなく、魔力量も高くて、これで美形だったら花形官吏になるに違いない。
眼鏡を取ってモジャ髪をなんとかしたら今でもいけるかもしれない。
ちなみに花形官吏とは、簡単に言えば下級外交官だ。
国の代表者として上位貴族が出るほどでもない仕事を主にしている。
初めから上位貴族を出すと変に重要性を勘繰られたりもするので、下位貴族がやるというわけ。国益も絡んでくる重要な仕事だ。
例えば、国境間に流れる川の治水についてどのような措置が必要か、費用はいくらかなど、細かいことを調査する。ここまでは普通の官吏がする。
この調査内容をもって外国との折衝するのが花形官吏だ。
そのため相手に好意を持たれやすい容姿はとても重要視される。
エドセン君はその自信があるんだな。
大体は下級貴族が担当しているが、王宮は能力主義なのでたまに平民も居て授爵しているらしい。
貴族として成り上がれる早道なことがこの下級外交官を花形官吏と呼ぶ
結局、マリウスの提案は却下された。
今までやっていないことを突然始めると相手に怪しまれてしまうからだ。
とにかく危険かもしれない3人の商人の娘たちにではなく、ユナにアプローチすることだけは決めて、皆でいい案を考えることになった。
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