第162話 攻撃魔法の授業


 今日はとうとう体育兼攻撃魔法の授業です。

 前にジョシュが集中砲火されると言われてから、ガクプル(ハルマ用語)です。



 ビアンカさんが勧めてくれたリボンカチューシャとリザードマンの手袋、ホワイトドラゴン(仮)のローブ、そして付与満載の制服で向かった。

 もちろん、私に属性のない火の精霊石もポケットに忍ばせてある。

 お守りの杭はホルダーになるリストバンドも作ったので左腕に巻いている。

 カチューシャはかなり女性的だがフードをかぶってしまえば、全然見えないのでそれもよかった。



 それに私はこの授業も1位を取りたい。

 クライン様やディアーナ殿下には負けるかもしれない。

 でもお二人なら奨学金はお取りにならない。

 多分他の貴族の方々もそうされるので、平民1位になればいい。

 でも私はクラス最低の魔力量なのだ。

 さてどうするか?



 まずは体育の授業で習った準備体操から。

 この準備体操や筋力トレーニングは先代勇者が伝えてくれたものだ。

 急に強い運動をして、足をひねったり、腱を痛めたりして動けなくなったら、魔獣相手に生きながら喰われるなんてこともあるからだ。


 マリウスはこういうのをするのはこの学校に来てからだという。

 そうか、私は母さんから教わっていたから知っていたけど、田舎にはまだ伝わってないのかもしれない。



 みんなで四属性のボール系、アロー系、ランス系の魔法を練習を繰り返した。

「そろそろ慣れてきたか?では今日はチーム対抗戦を行う。

 このクラスは20人なので5人で1チームだ。

 4チームになるが魔力量で振り分けておいたので名前を呼ぶぞ」

 えっ、なんか嫌な予感。



「Aチーム、クライン殿、ヴェルディ殿、サスキア嬢、モリス嬢、トールセン君」

 ですよねー。クラスで一番魔力が多い人と組むか、やっぱり。



「Bチーム、ディアーナ殿下、コーウェイ殿、エドセン君、ジャンセン君、ティムセン君」

 おっ、マリウスはディアーナ殿下と一緒か。

 ティムセンさんは侍女メイド科志望の子で、水魔法が得意だっけ。



「Cチーム、ラリック嬢、ダイナー殿、カロン君、ドロスゼン君、ロイド君」

 さすが魔族のカロン君、3番目に呼ばれるのは結構強いんだよね。

 ロイドさんはドロスゼンさんとティムセンさんといつも一緒にいる大人しそうな子で話をしたことない。



「Dチーム、シスレー殿、デュラス嬢、カナリー嬢、ハーダーセン君、ドーン君」

 シスレー様は文官科を目指す子爵令息。魔力は強いのだが代々文官を輩出する家柄なのだそうだ。


 カナリー様、サスキア様、モリス様は3人とも伯爵家の出で、皆様同じ騎士学部志望の方だ。

 サスキア様は男装こそしていないものの、男言葉で話す代々騎士の一族で1年生なのに背も高くて女性ファンまでいる。


 デュラス様は侯爵令嬢でエヴァンズなのになぜか文官科を目指しておられる。

 どうして学院へ行かなかったのだろう。



 ジョシュが下の方なのはもしかしたら貴族を先に呼んだだけかもしれない。

 あんまりデュラス様の魔力が強いとは思えないもの。近くの席のモリス様をいつもお付きの人のように扱っていて感じがよくない。いかにも貴族って感じのヒト。

 とっても苦手だが、相手にされていないので別にいい。



 第一試合は、Aチーム対Dチーム。



 ルールは簡単。自分の体力と四属性のボール系、アロー系、ランス系だけを使って5分間攻撃しあう。

 相手により多くダメージを与えられたチームが勝ち。


 ヴェルディ様から、

「トールセン、足引っ張るなよ!」とお声がかかった。

 ジョシュの予想が確かならこの中で一番弱いはずの私を狙ってくるはず。

 頑張ります!



「始め!」

 先生の声がかかり、予想通り私に手のひらサイズのファイアーボールが5個飛んできた。

 ひねりがないなぁ。


 それで私がしたこと。

 チームの皆様を盾にするべく、後ろに走りました。



 同じチームのサスキア様とモリス様が「ええっ!」と驚かれた様子。

 何でだ?同じチームでしょ?

 当然ですが、クライン様がウォーターボールで全部消してくれて……ない!



 追加で放たれたいくつかのファイアーボールが私を追尾してきた。

 ジョシュのだ。


 しょうがないので、やりました。

 ファイアーボールをロッドで打ち返すのを。

 この杖、すっごく丈夫でこのくらいのボール系魔法なら難なく打ち返せるんだ。

 ドラゴ君が放ったのでも打ち返せるから、もっと強くても行けるはず。



 私の対応はなぜかクライン様に大うけした。彼はずっとクスクス笑っていた。

 魔力量の少ない私には温存するのが一番なんです。

 魔法で撃ち落としたら魔力が減るじゃない。

 いやいや、いつまでも笑ってないで相手攻撃してよ。



「卑怯だぞ!トールセン」

 シスレー様にそう言われたが、身体強化すら使ってないよ?なぜ卑怯?



 それなら魔法使おう!

 この中で一番の強敵はジョシュだ。

 彼は確か水魔法が弱かったはず。



「アイスアロー!」

 1本じゃなく、50本ね。いろんな方向から時間差でどんどん射ち込んでやった。

 追加で30本も。もちろん追尾できる。


 私はこれで魔力を2/3ほど使った。

 量が多いので全員で撃ち落としてる。



 そのすきに近づいて、近距離でファイヤーボールを送り込み、シスレー様、デュラス様、カナリー様の杖を落とした。

 そこをAチームの貴族の方々が集中攻撃。

 さすがに皆様騎士を目指している方が多いので、攻撃してくれた。



 更に私は一番近くのジョシュに、杖でなぐりかかった。

 ジョシュは剣を抜きもしないで、私を払う。簡単に弾き飛ばされてしまった。

 ローブの付与のおかげで衝撃は和らいだがしりもちをつき、杖は少し離れたところまで飛んだ。

 えっ?ジョシュもしかしてめちゃめちゃ強くない?



 立ち上がろうとする前にジョシュのファイヤーアローが飛んできた。

 やられると思った瞬間、クライン様がウォーターランスでアローをはじいてくれて、さらにジョシュにアイス系の魔法を叩きこんでいた。



 アシュリーの方もヴェルディ様が1対1で相手していたので、なんとか杖を拾って邪魔にならないように後方に逃げた。

 もう魔力がほとんどないからだ。



 5分経って、Aチームが貴族の3人倒したので勝てた。

 私の捨て身の陽動作戦がうまく行きました。



 分かったこと。この方法、次使えない。



 そして一度打ち合っただけだけど、たぶんジョシュめちゃくちゃ強い。

 もしかしたら、母さんよりも。

 ものすごく手加減されていたの、わかる。


 大人と子供どころじゃない。歴戦の戦士が子供の遊びに合わせたレベルくらい。


 物理攻撃遮断のケープを着ていたのに飛ばされたのは、私本体を飛ばしたからだ。

彼は私の杖を軽く払うだけで、それを可能にしたのだ。



 ジョシュ、こんなに強いのに文官になるの?

 そういえば、ジョシュは能書取ってない。下級文官なら絶対に必要なのに。

 本当に文官になるの?



 この時、私は初めて彼に疑念を覚えた。

 だがそれ以上に、この授業で平民1番は難しいかもしれないと思い始めた。



 今日は全員2試合して、Aチームは2試合とも勝った。

 次の試合も私を狙ってきたが、クライン様が私を囮にしてみんなで倒す作戦を考えてくれたので他の人も素直に従って助けてくれた。



 今日は勝てたけど、次はわからない。

 特に1対1は難しい。

 作戦で勝てる人もいるけど、魔力量の差は大きい。

 とにかくジョシュにまっとうな戦いで勝つことは無理だ。

 彼は強すぎる。



 ヴェルシア様、なんとかなりませんでしょうか?





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