第132話 クランマスターとの話し合い1


 コンコンコン。戻ってすぐマスタールームの扉を叩いた。

「エリーです。ただいま戻りました」

「入れ」

 ドアを開けるとクランマスターはデスクの前で座って書類を読んでいた。

「失礼します」


 ソファに座るよう示されたので私とドラゴ君が座るとチラッとこちらを見て、

「ティーカップ・テディベアはどうした?」

「今日教会で音楽のレッスンを受けていたのですが付いてきてしまって、教えていただいているレオンハルト様にあずかっていただいてます」


「そうか。ルードに言ってあったのだが彼らが住む隠れ里がある。行くかどうか聞いてあるか?」

「はい。私の側にいてくれるそうです」


「そうか。隠れ里にヒトが入らないための結界をそろそろ張り直しに行くから、希望があるなら連れていこうと思ったんだが必要ないならいい」

「途中で気が変わって行きたいとなったら行けないんでしょうか?」

「俺の手が空いていたらいいが、少々忙しくなってきたからな。できれば同時に済ませたかった」


「申し訳ありません。お気遣いいただいたのに」

「里に入れてしまうと、グリフォンが引き取りに来た時にすぐに引き渡せない。

話のわからない奴ではなさそうだが夢の契約は必ず果たさなければならないからな」

 そうなんだ。あの契約そんなに重い物なんだ。


「それから、私の怪我の治療費のことなんですが……」

「いらん」

「えっ?」

「だから、いらないと言っている」

「で、でも欠損を治すってものすごくお金がかかるってクララさんが」

「クララも払えとは言わなかっただろうが」

「でも20億ヤンって」

「そのくらいの金額にしないと気軽に頼んでくる奴がいるからな。いや昔はその金額でも頼んできた奴がいたんだ。俺を治癒士として抱え込もうとするし、面倒だから安くはしないんだ」


「そうなんですか……でも」

「でもも、へったくれもない。俺は面倒を見ている子供や仲間から金はとらない。

もちろん、別の意図があってわざと傷を負ったんだったらもらうがそうなのか?」

「違います!」


「もちろん、わかっている。だからもらわない。お前、自分の従魔が死にかけていて自分の魔力で治せたらどんなことしてでも治すだろう?

そのときに従魔から金取るのか?奴隷のように働かせるのか?」


「そんなことしません」

「それと同じだ。お前は従魔ではないが俺が後援している子供だ。

これはお前じゃなくても他の子どもでもそうだ。俺は他の奴より強い力があるんだ。

だからこの世のすべては無理だが仲間ぐらいは守ってやりたいんだ」



 あれっ?私この言葉1度聞いたことがあるような気がする。

 どこかな?どこだったかな?



「エリー今朝言ってたこと調べたんでしょ。ウィル様に言ってみたら?」

「今朝?」

「教会ダンジョンのこと」

 そうだ。教会ダンジョン!


 それで私が立てたリッチの侵入経路についての推理を述べ、一番最後に入ったパーティーが怪しいと伝えた。



「それでそのメンバーがハルマ、シンディー、クロード、セリカ、タイドの5名でした」

「ふぅん」

 気のないような感じでマスターは聞いていたが、引き出しから一枚の紙を取り出した。



「お前、確か複写スキル持っていたな」

「はい。魔法陣を書くときに活用しています」

「その入場者名簿をここで複写できるか?」

「最後のページですか?それとも全部?」

「とりあえず最後のページだけでいい」

 私はマスターから紙を受け取って入場者名簿を魔法で複写した。



 最近、能力が上がって元の書類の筆跡や紙のシミまで複写できるようになっていた。



「お前、マジで役に立ち過ぎだ。いいか、この能力のことを誰にも言うなよ」

「はい、スキルは力ですもんね」

「それもそうだが、お前を知らないうちに間者として利用する奴が現れるからだ。

ウチのクラン内での仕事で起こったことはみんな外部に漏らさないように全員魔法契約してある。

お前も仮契約だがそうなっている。レシピを聞かれても答えられないだろ」

「ええ、すぐに言えませんと答えます」



 でもローザリア嬢のことは言えた。

 そうか、まだ契約前のことだったからだ。



「だからクラン内でバレても安心していい。だが外はダメだ。いいな」

「わかりました」

「それでその名簿役に立つんでしょうか?」

「もちろん、裏付けが取れた」

「あのハルマさんやシンディーさんが関わっているんでしょうか?」

「ん?ああ、大丈夫だ。こいつらは関係ない」



 よくわからないけど、リッチのことが片付くならいいか。



 あとはディアーナ殿下の保護観察の話をして、詳しいことは何も決まっていないが仕事に支障をきたすかもしれないと伝えた。

「そうだな、でも夜はこっちに顔を出せ。ルードの飯食って体力を取り戻せ。

まだ本調子じゃないだろ」

「はい、なんとなく、なんですが」


「欠損を治すのには代償がいるんだ。寿命か成長する力かどちらを使うか、それで成長の方を使った。だからお前が大きくなるには今少し時間がかかる。そのせいで体力が落ちてるんだ」


「そうなんですか?私大きくなれないんですか?」

「そういうわけではない。時間が少しかかるだけだ。15歳の大きさになるのにあと10年かそこら、かかるくらいだ」

「ええっ?私今でも小さいのに」


「でもしばらくはちょっと小柄位で済むだろ。15歳ぐらいの時に辛いかもな。周りは大人になっているから。思春期の成長も遅れるから15歳で子供を産むのは無理だな。でもそのあとちゃんと産めるから安心していい」


 えーと、それはその時にならないとわからないな。






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