第133話 クランマスターとの話し合い2
「それとは別の話なんだが」
「はい。なんでしょう」
「しばらくここの仕事はしなくていいのでお前に資格をいくつか取ってもらいたいんだ」
「資格ですか」
「そうだ。調理師、裁縫師、付与魔法士、魔法陣士など、とにかくクランで商品作成を手伝ってるやつ全部だ」
「結構ありますけど」
「お前の能力が足りているか商業ギルドが疑問視している」
あ、それもしかして……。
「足りているのはわかる。不備の商品など一つもないからな。ただの言いがかりだ」
「私、商業ギルドで付与魔法士の仕事をしないかと誘われたんです。こちらの仕事が忙しいからとお断りしました」
「十中八九それだな」
何それ、嫌な感じだ。
「試験と称してお前にギルドの仕事をさせたいんだろうな。そうだ、さっきの借金の件だが」
「はい」
「返済義務はないがクランに借金があるのでやめられないと言え。もちろんお前が辞めたければ辞めてもいいんだが」
「辞めたくないです」
「金額はさっきの20億ヤンでいいか?多すぎるか?」
「もういっそそういうことにしましょう。私クランや働く人たちに役に立つ商品も考えたいし」
きっとこれからも私をクランから引き抜こうという人たちが現れる。
これだけの負債を抱えていたら、さすがに手を引くだろう。
「話が早くて助かる。そしてこの借金は魔道具の特許料で返すことになっていると言え」
「特許料ですか?」
「そうだ。アリルの魔力節約の魔法陣は20億以上の売り上げを誇っている。売れるものを作れば20億などあっという間だ」
私にアレに匹敵するものを作れと言うのですか?マスター、なかなか鬼畜です。
「あの魔法陣は外国に出荷したらもっと金になる。だが王国との話し合いの結果、外国に出すのは制限している。軍事に転用されたら困るからな」
「あれは品物ごとに魔法陣を変えていますし、多少の書き換えでは転用は難しいと思います。書き込めるメンバーも一握りです」
「ああ、だがアリルやウチの魔法陣士たち、それからお前も変えられる」
「そうですね」
「お前が金に困っているということになれば、それをエサに近づいてくる奴らが必ず現れる。だが俺との契約で金では支払えないと分かればエサには出来ないからな」
「でもマスター、あれほどの魔道具を私が考え付くでしょうか?」
「前にお前、スライムの膜で手袋を作りたいと言っていたな。あれはどうだ?」
「売れるでしょうか?」
「俺の見立てだと売れるな。手袋そのものが売れるわけではない。耐水性のある薄くて透明で破れない、しかも加工が出来る素材という点で売れるんだ。どうだ。これならばやる価値はあるだろ」
「はい!」
「俺がお前に期待しているのは強い魔力なんかじゃない。その発想力とイメージする力だ。どんなに魔力があろうともこの力が無ければ魔法としては単純で破りやすいものになる。
スライムの膜だけでなく、他のものでもいい。お前が作りたいと思って作ったものは面白いものが出来るだろう。俺はそれが見たいんだ」
胸がジーンと熱くなった。なんだかうれしい。
でも私はいつスライムの手袋のことをマスターに話したのだろう?覚えていない。
やっぱり記憶を改変されているのだろうか?
「これはお前に対する迷惑料だ」
何やら箱を私の目の前に突き出した。
開けると古ぼけた
「これは?」
「ウチで余ってる杖だ。とにかく丈夫なことだけが取り柄だ。使用者はお前に設定してある」
持ってみたらとても軽い。
これ鑑定で読み取れないけどすごくいいものじゃないかな?
「迷惑料だなんて。私がご迷惑かけています。それにこれすごく高そうです」
「ん?金額か。余ってて誰も使わないからタダでいい」
「あのー、金貨の手形から差っ引いてください」
「もらっとけばいいじゃない。ウィル様と一緒にぼくも外側磨いたんだよ」
「ドラゴ君が?」
「そうだな。お前は当分ウチの仕事が出来ないから従魔の世話をしてくれるか?
ブラッシングしたり、遊んだり。ジャッコにも言っておく」
「そんなことでいいんですか?それむしろご褒美です」
「他にもお前に頼みごとをすることもあると思う」
クランマスターに出来ないことなんてあるんだろうか?
「例えば今クララがやっているような対人間への対応だ。俺たちのほとんどは人間ではないから、信用しない奴がまだまだいっぱいいる。そんなの時に人間のお前が出てくれれば助かる」
そうなのだ。クランメンバーに人間はとても少ない。だから貴族向けの接客には特に気を使っている。
「今回の資格試験の話もそうだ。本来ならお前が錬金術師になれば全部取れるから2度手間になるのに。悪いな。俺たちは商業ギルドに睨まれてるから」
「どうしてなんですか?」
「初代クランマスター、ユーダイの時にな。結構なテコ入れしたからギルド職員の権力を失墜させたんだ。向こうが汚職をしてるのが悪いんだが、そのせいで代々人が変わってもウチは睨まれてる」
「100年以上も前の話ですよね」
「あいつらは俺たちが亜人だけ囲っていればいいとも思ってるんだ。だがお前は人間の中でも有用なスキルを持つ逸材だ。正攻法で誘ってもお前は来ないから、絡め手できたんだ」
「うまく逃げれるでしょうか?」
「まぁ、借金問題もあるしな。いざとなれば資格が取れなくても何とかしてやる」
そこでクランマスターとの話は終わった。
こどもの寝る時間はとっくに過ぎてるからと追い立てられた。
部屋に行くとミランダがミャーンと飛びついてきた。
「遅くなってごめんね。ミランダ。寂しかったね」
私が頬ずりするとミランダは気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らした。
ヴェルシア様、私は本当にこのクランに来れてよかったです。
素晴らしい出会いを与えてくださり、感謝いたします。
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