第90話 エドワード王子の茶会1
平穏ってなんて素敵なんだろう。
今までそれが当たり前だったから気にもしたことがなかった。
リカルド様がどういう方法を取ったのかさっぱりわからなかったが、ブラーエ様とそのお仲間の令嬢たちからの嫌がらせはピタリと収まった。
嫌がらせは終わったけど、今もクラスの女子から避けられていた。いつ苛めが再燃するかわからないし、その時に巻き添えを食いたくないのだろう。
もう女友達は諦めよう。
このまま5年がすぎればいいのに。でもそういうわけにもいかなかった。
授業が終わり私とドラゴ君がクランに向かっていると、ジョシュが後を追いかけて走ってきた。
「エリー、マリウスがいないときがなかなかなくて渡せなくてごめん」
第二王子エドワードのお茶会の招待状だった。
「これ絶対行かないとだめかな?ハインツ師の研究室の皆さんがお茶会呼んでくれることになったし、あと寮の先輩が呼んでくれるし、リカルド様に呼んでもらえば終わりなんだけど」
「悪い、諦めて。でも男装で大丈夫だから。あと女の子も2,3人来るよ」
「ダメ。来たって高位貴族だろ」
「一人平民も来るよ。どんな人か知らないけど、期待しようよ」
「ぼくも行く」
ジョシュとの会話に入ってくるのは珍しいが、ドラゴ君が主張した。
「ごめん、ドラゴ君の話を殿下にしたら興味を持っておられたんだけど今回は警備の関係でダメなんだ」
「ふーん、じゃあエリーやめておきなよ」
「やめたいけど断るとクランに迷惑かかってもいけないし」
「そのくらいウィル様が何とかしてくれるよ」
「いや断らないで。殿下も君がどんな人か分かればきっと興味を失くすと思うし」
一体何に興味を示してるんだか。
「断ればかえってしつこくするか。わかった。今回は仕方がないからお前に任せる。いいか、仕方なくだからな」
ドラゴ君が嫌そうにジョシュに言った。
そうか、ドラゴ君はジョシュがあんまり好きじゃないんだ。
なんでかな?
とにかく憂鬱ですが王宮のお茶会は断れないようです。
◇
そして今日はとうとう王宮のお茶会です。
ジョシュが言うには、今回は親しい人だけで行う細やかなお茶会ということで本礼装ではなく略式でいいそうだ。それで制服で行くことになった。
準備を整えて待っている間、ミランダをモフりつつドラゴ君の注意を聞いていた。
「いい?エリー。
「うん、わかった。でも心配性だなぁ。一体何があると言うの?」
「わかんない」
「でも勝手に王宮には入らないでね。もし不法侵入になって討伐されたら悲しすぎるもの」
「ぼくを討伐できるのはこの国にはウィルさまだけだよ」
「でも相手は王家だもの。クランマスターに討伐を依頼するかもしれないし」
ミランダは呑気に私の膝の上で遊んでいるのにドラゴ君はとても心配してくれる。
「とにかく気を付けるから。心配しないで」
玄関に馬車が止まる音がしたので、お土産の箱を手にし、ミランダを肩にのせてドラゴ君と共に向かうとジョシュが馬車を下りて待っていた。
白い車体に金の装飾がされている大変キンキラキンの馬車だった。
見ただけで気が遠くなりそうだ。
「ジョシュ、何この馬車」
「王宮が用意してくれたのがこれなんだ。我慢して」
私はミランダをドラゴ君に渡して、
「じゃあ、行ってくるね。夕食には帰るから」
「うん、何かあったら必ず呼んでね」
「わかってる。大丈夫だよ」
馬車は出発したがはっきり言って落ち着かなかった。
「なんか他の馬車なかったのかな」
「殿下が日常で使っている馬車でこれでも地味な方だよ」
「いや、私ら平民だし」
でもさすが王子の馬車、ガタゴト揺れる振動をほとんど感じない。座席のクッションもラインモルト様の離宮レベルだ。金糸の入った豪華な布は平民では一生触るどころか見る機会もなさそうだ。汚したら一大事だ。
そうはいってもジョシュはとても落ち着いていた。やはり王宮勤めのお家の子は慣れてるのかな?
揺れが少ないから大丈夫だろうけど私は脇に置いた手土産のケーキの箱を眺めた。
「それなんなの?」
背の高い箱なのでジョシュも気になったようだ。
「お土産のケーキ。食べていただけないかもしれないけど先代勇者のレシピなんだ」
「へぇ、気になる!僕食べたい」
「もし今回出してもらえなかったら、私の開くお茶会で出すよ」
これは外に出さない秘伝のレシピで作ったもので、王宮でもめったに食べられないと思う。もちろん毒見をされるだろうし、きれいなままで食べてはいただけないだろうがとても美味しいので是非召し上がっていただきたい。
でもよく考えると私の茶会に呼ぶ人がほとんど上位貴族で間がなくて平民になる。
どういう茶会にしたらいいだろう。
ハインツ師の時のような和やかな茶会にしたいな。
馬車にも慣れてきて、ジョシュと雑談している間に王宮に到着した。でも目的地は門からかなり遠いところらしく、さらに馬車は王宮の中を進んでいった。その間馬車の窓のカーテンを閉めさせられた。
「ごめんね、防犯上の理由で王宮内の様子は見ないでほしいんだ」
「わかった」
「僕らは殿下たちがお住いの私的な区間に向かっているよ。そこは今バラが盛りなんだ。僕も手入れ手伝ったんだよ」
「バラかぁ、私も小さめの白い蔓バラは好きだな。香りが高いやつ」
「ああ古い品種のものだね。今の流行は大きくて豪華なものが人気だけど、王宮内の庭園は古い品種も多いから楽しめると思うよ」
「それは素敵だね」
馬車がやっと止まり、私たちは降りるように告げられた。
ジョシュは迎えにきた従僕の1人にケーキを先に渡した。
「食べる食べないにかかわらず、殿下に一度お見せしてください」
「かしこまりました」
そして先に馬車から降りて、「どうぞ」と私に手を差し伸べてきた。
「自分で降りられるよ」
「一応、エスコートしろって言われてる」
むむ、しょうがないなぁ。
私はジョシュの手を借りて馬車を降り、差し出された腕に手をかけて彼に誘導された。なかなか堂にいった優雅なしぐさだ。
王宮ともなると庭師の息子でもここまでしないといけないのか。大変だ。
「ごめん、やっぱりドレス買えばよかったかな?」
「エリーはそのドレス買いたくなかったんだろ。今のままでいいよ」
バラのアーチの通路(もしかしたら迷路?)を通り抜けると、開けたところに東屋がありきらびやかな男女が5人談笑していた。
エドワード王子とディアーナ王女。もう一人は顔を知っているだけだがディアーナ殿下と一緒にエヴァンズに入学されたフェリシティー・アリア・ゼ・ラリック公爵令嬢だ。金髪の巻き毛に琥珀色の瞳の淑やかな美少女だ。
他の2人は知らないが、皆眩しい美貌の持ち主だ。
「やぁ、よく来たね。待っていたよ」
とうとうエドワード殿下の茶会が始まります。緊張しますが出来ることをさせていただきます。
ヴェルシア様、どうぞお守りください。
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