第75話 祭りの後に

 

 予定外の労働が入ったが、私とドラゴ君とサンディーちゃんとファルフさんでお祭りに行った。


 いろんな出店や大道芸が出ていて、みんないっぱい食べていっぱい見た。

 ドラゴ君はミノタウロスの串焼きが特に気に入って何本も食べていた。


 ファルフさんはサンディーちゃんが果物の飴掛けを食べて髪の毛をべとべとにされても決して肩車からおろさなかった。

 あんな誘拐のあった後だ。手を離さないぐらいでは心配だったのだろう。

私ですら人の流れに流されてうっかりはぐれそうになったんだもの。

そんなときドラゴ君はすかさず私の背中にしがみついていた。



 きれいな服を着た踊り子や歌い手がたくさん乗っている山車と楽隊のパレードを見てから、冒険者ギルドまでサンディーちゃんとファルフさんに送ってもらった。


「ドラゴ君、ウチに泊まっていきなよ~」

 別れ際サンディーちゃんが誘っていたがドラゴ君は私から離れる気はないようだ。

ちょっとサンディーちゃんの視線が痛いです。

ドラゴ君、3歳児にしてもうモテ期(ハルマ用語)です。



 気を取り直してミランダの従魔登録だ。

 ミランダはまだ小さいのでクランの私の部屋に置いてきていた。ドラゴ君に転移で連れてきてもらう。

「ミランダ、お留守番ありがとう。お利口さんだね」

ほわほわの体をそっと抱きしめると、ミランダは嬉しそうに喉を鳴らした。

 登録を済ませるとドラゴ君は寮の部屋にミランダを戻しに行ってくれた。本当にお世話になりっぱなしだ。



 ギルドの待合室に向かうとハルマさんとシンディーさんはすでに来ていた。

「すみません。お待たせしましたか?」

「いいのよ。ハルマったら踊り子の胸ばっかり見ているんだもの。腹が立つから引っ張ってきちゃったわ」

 シンディーさんはあんまり、いやかなり胸が小さいんだ。

だって10歳の私と変わらない(つまりぺったんこ)感じだもの。

 あの魔道具店のベルさんに会ったら、気絶するんじゃないだろうか?



 ハルマさんが貧乳のひんにまで言うとこぶしが飛ぶんだそうだ。

 だから例のハルマノートに書く時にも貧乳とは書かず、ひんぬーと書いてあった。

 初めは何を書いているのかわからなかったが、ハルマさん曰くシンディーさんの貧乳センサーはものすごいらしくちらっと考えるだけでもわかるらしい。


 それってまるでスキルみたいだ。

 胸が大きくなったら私、シンディーさんに嫌われちゃうんだろうか?

母さんはシンディーさんほどではないが、胸が大きくなかったから大丈夫だろう。



 2人のアパートについて、私はパウンドケーキを差し出した。

「ハルマさん誕生日おめでとうございます。シンディーさんとお二人でお召し上がりください」

 ハルマさんが受け取って二人は顔を見合わせてニコニコしていた。



「エリーちゃん、何か食べる?」

 シンディーさんが聞いてくれたが、お祭りの出店でいっぱい食べたので遠慮した。

 ハルマさんの話によるとシンディーさんはあまり料理が上手ではないらしい。

 だから普段はハルマさんが作ってるんだそうだ。


 逆にハルマさんが得意でない掃除とか洗濯とかクエストのための準備とかその他の事は全部やってくれていて、うまくいってるらしい。

 お互いの得意分野で助け合うってそういうのいいよね。



「あら、パウンドケーキおいしそう。お祭りだからマドレーヌかと思った」

「すみません。今日大きな注文が急に入って私が店を出た時残り100個切ってました」

「すごいじゃない!きっと売り切れたでしょうね」

「ええ、多分。早く終わってみんなお祭り行けたと思います」

「まぁ、とにかくお茶は飲んでって」

 シンディーさんは台所でお湯を沸かしにいった。



「ハルマさん、王都でジョブ判定受けると称号や加護がわかるそうなんです。もしかしたら、ハルマさんが勇者だとわかるかもしれません」

「うん、そうなんだ。今のところ受けるようなことはないけど、Sランクに上がったら受けなきゃいけないみたい」


「勇者やパーティーメンバーだとわかると、使い捨てにされるという話もあります。どうか気を付けてください」

「実はSランクになれるってよく言われてるんだよね。気を付けるよ」


「あと教会で聖女が保護されているそうです」

「どうやってそんな話聞いたの?」

「私教会に奉仕活動に行ってるんです。ラインモルト様に後援してもらっているから。そこで私も加護か称号があるんじゃないかと聞かれたんです。調べたんですが私にはついてませんでした」


「不思議だね。エリーちゃんはそんなにチートなのに」

「確かにスキルは多いです。でもそれを生かせるか器用貧乏で終わるかは私の努力次第なんです。チートなんて言われるのはちょっと心外です。

ハルマさんだって努力してきたことが反則だっていわれると悲しくないですか?」

「ごめん。悪かった」

「すみません。私もきつく言いました」

 2人で黙り込んでしまった。



 ケーキを切ってお茶を入れてくれたシンディーさんが戻ってきて、

「どうしたの?お通夜みたいにしんみりして」

「俺がエリーちゃんの能力を反則技だって言ったから」

「うーん、確かにすごい才能だよね。だって冒険者3か月目にしてDランクだし。こんなおいしいお菓子も焼けるし。ただ反則って言うには私たちはエリーちゃんの事を知らないかも。ハルマがキツイことを言ったと思う」

「うん、ごめん」

「いえ、私こそ。生意気言いました」

「じゃ、仲直りのお茶飲みましょ」


 シンディーさんが入れてくれたのはミントのハーブティーだった。

甘くして飲むとスーッとする辛みと甘さが胸の重さを取り除いた。

 それからは学校で男装して行って笑われた話や友達の話をした。

 友達ができたと聞いて二人はとても喜んでくれた。



 シンディーさんは優しい。ハルマさんも勇者がらみの事がなければ本当は優しい。

大した事言われてないのに、私がかっとなってしまった。

「また来てね」とシンディーさんに言われて嬉しかったが、次は余程の事がない限り来れそうになかった。

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