第61話 教会への奉仕活動


 パン屋の朝が早いように私の朝も基本的に早い。


 ドラゴ君はまだお休み中なので、起こさないようにそっと着替える。

昨日の晩に学校前の教会に朝一番で出向くことは話してある。

朝ご飯は、きっとお姉さま方がなんとかしてくださるだろう。



 明日入学式なので、その前に教会へ出向き今後の奉仕活動について相談しなければならないのだ。

 ラインモルト様ご本人ならそんなうるさいことはおっしゃられないだろうが、教会の枢機卿に裏書していただいている以上お返しはしなくてはいけないし、卒業後に神殿に入ることはないので、学生の間に奉仕活動をしておくつもりだ。



 教会の朝もパン屋同様早いし、礼拝前の準備が一番忙しいので余ったクッキーで軽く食事を済ませて向かった。

 どんな仕事が来てもいいように汚れてもいい少年服で教会に出向き、若い修道士に用件を伝えると奥の部屋に行くように案内された。

 あれ?朝一番の掃除からお手伝いするつもりだったんだけど。



 通された部屋で待っているとそこにさらさらとまっすぐ流れ落ちる長い黒髪に吸い込まれるような青の瞳のものすごい美男の司祭が現れた。


「君がラインモルト様の後援なさっている子なのか?」

「はい、エリーと申します。姓はトールセンと呼ばれております」

「私はレオンハルト。ラインモルト様から君の音楽の教育を任されている」

「え?」

「その様子だと聞いていないのだな」


「はい、学校で音楽を履修してもよいという意味に捉えていました」

「おかしいと思った。君を寄こすと聞いていたのに全く現れないものだから。

もう受ける気がないのかと思った」

「申し訳ございません。知らなかったとはいえご迷惑をおかけしました」

 とりあえず言い訳にしかならないが、誘拐事件の顛末と『常闇の炎』にお世話になっていてそこで働いていたことを話した。



「なるほど、それでは今後はそちらで働くのだな」

「はい、週末や放課後に手伝いに入ることになっております」

「どのような仕事をするのだ?」

「クランの店を中心に働きます。今はクランの魔道具店で魔法陣を描くことがメインですが、菓子店の売り子や託児所の子供の世話もすると存じます。

裁縫や製菓も得意なので煩雑時に手伝うこともございます。

勉学を優先してよいと言われていますので、融通を利かせてくださるそうです」


「それは申し分のない仕事だ。錬金術師の勉強にふさわしい」

「はい、感謝しております」

「それでは君の音楽の授業はこの朝の時間に行おう」

「ですが朝は礼拝の準備でお忙しいのでは?」

「若い司祭に頑張ってもらおう。それに私は説教をしない」


 そういってオルガンを指さした。

「ニールではなかったろうが、王都ではオルガンと聖歌隊が礼拝に欠かせないのだ。聖歌隊は教会の孤児院の子どもたちと敬虔な信者の方にお願いしている。女性には頼んでいないので今後も男装で来てくれると助かる」

 話し合いの結果、週2回火の日と樹の日の朝に伺うことになった。もし事情で出来ないときはあらかじめ変更をお互い申し出ることとなった。



「それから私の奉仕活動についてなのですが」

「奉仕活動?何かしたいのか」

「はい、お世話になっているラインモルト様のためにもお役に立ちたいのですが」


「君は治癒魔法が使えるか?」

「いえ、聖属性闇属性は持っておりません」

「水属性はあるか?」

「はい」

「ではアクアキュアを早く習得しなさい。楽器を扱う手は荒れていてはいけない。しかし仕事柄荒れてしまうこともあるだろう。だからアクアキュアが出来るまではこちらでの奉仕活動はしなくてもよい」



 あっ、それはちょっと困る……。

 ただでさえ特別授業をしていただくのだから、奉仕活動が倍になったと考えてもいいだろう。

 ここでやりたいと頑張るよりアクアキュアが出来るようになった方がいい。

 でも誰かに教わらないといけない。クランで出来る人いないかな。いなかったらシンディーさんに会えるといいんだけど。



「それから君の音楽の授業の件は内密に頼みたい。

ここには奉仕活動で書類整理を手伝っていることにしてほしいのだ」

「構いませんがなぜ?」

「本来ならだれの指導もしないのだが、ラインモルト様の命には従わねばならない。しかも君は子供とは言え女性だ。この件が明るみに出ると、他の女性も教えてほしいとやってくることだろう」



 あっ(察し)レオンハルト様、美男ですものね。

 いくら教会の方が神に身をささげているとはいえ、恋心をもつ女性はかなり多いだろう。説教をなさらないのもその美貌故かもしれない。


 ルードさんもそうだけど、きれいすぎるということは大変なのだろう。





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