第59話 お姉様方とのお茶会


 食事のあと、リリー寮長からお誘いがあった。


「トールセンさん、良かったら、この後談話室でお茶でもいかが?」

「このような格好ですが構いませんか?」

 私は砕けた少年の服を着ているのだ。

「お茶会ではないし、気楽にして構わないわ」

「ドラゴ君、お茶飲む?」

「うーん、美味しいお菓子があるなら行く」

「もちろんあるわ!」



 談話室ではリリー寮長と同じ騎士学部のお姉さま方とお茶をすることになった。

 だれがドラゴ君の隣に座るかちょっともめたが、

「こんなきれいなお姉さんばかりでぼく緊張しちゃう。エリーの膝の上に座るね」

とこれまた女性心をくすぐる発言で見事に躱していた。

 ドラゴ君の女性の扱い方、すごいです!



 お話してみると皆さん気さくでよい方々だったが、どの方も上位貴族である伯爵や侯爵家なので驚いた。



「上位貴族の方は学院へ進まれる方が多いと伺っていたのですが皆さまはなぜエヴァンズへ?」

 お姉さま方はお互い顔を見合わせってウフフと笑って答えてくれた。



「あのね、女性騎士になりたい人はエヴァンズの方が有利なの」

「学院はね、現役の騎士が講師を務めるんだけどほとんどが男性だから、女は見学か素振りなのよ。馬鹿にしているわよね」

「それは全然知りませんでした」


「だから楽士になりたい子は学院へ行くけど、私たちのように女性王族のための姫騎士を目指すものはエヴァンズじゃないと実戦に参加できないの」

「王都に住んでいたらみんな知っているんだけど、地方だとあまり情報が届いていないかしれないわね。

それにエヴァンズには姫騎士が講師に来て下さるの。

だからそのまま勧誘されることもあるし、実際どのくらいの戦闘能力が必要なのかもわかるわ。今年の新入生のディアーナ殿下も実戦経験を積みたいとこちらにいらしたのよ」


「そうなのですね。私もまさか2年後にエヴァンズで錬金術科がなくなるなんて知らなかったので、こちらを受験してしまいました」

「今エヴァンズは受難の時よね。決して悪い学校ではないのだけれど、もう一つ来たいって思えるものが少ないの。専科のいい先生はみんな学院へ行ってしまうし」


「それは……学ぶ方も不利になるんでしょうか?」

「結局は本人次第よ。

能力が高くて入試の時は頑張って学院へ入ったけどそれに胡坐あぐらをかいていたら、エヴァンズで頑張っていた子より能力は劣ることになるわ。

トールセンさんは錬金術科だし専科は学院で受けるからあんまり関係ないと思うわ」



 話の切れ目を見つけてお姉様方の1人がもう我慢できないとばかりに聞き始めた。

「ねぇねぇ、それよりカーバンクルって獣化したらどんな形態なの?」

「あー、ドラゴ君しか知らないんですが、ちょっとイイズナに似てまして全身銀色で細長い体にふさふさのしっぽでとても愛くるしいです」


「「「「えー、見たい!」」」」

「どうする?」

「どうしようかな?ぼくあんまり獣化したくないんだけど」



 宥めすかされ拝み倒されて、

「これからもぼくやエリーに親切にしてくれるならやってもいいけど」

「「「「します!させていただきます!!」」」」

「今回だけだからね。あと触るのはなし」

 首が取れるんじゃないかと思うくらい縦に振りまくる令嬢方にはちょっと引いた。



 私はテーブルから離れて、すこし開けたところにドラゴ君を立たせた。ロッドを彼に向ける。

リストア元に戻す



 ドラゴ君は青い光を放って獣化した。

 小さな頭には円らな青い瞳と小さな耳、細長い銀色の体に足は短めでふさふさしっぽが魅惑的だった。

 そして額にはどんな宝石よりも美しい青い石が付いていた。

 ちょこんと座っていたかと思うと、すぐに私の方に飛びついてきて、首に襟巻きのように巻き付いた。



 それからは質問攻めで私は一切口出しできなかった。


「「「「なんてかわいいの!!!欲しい、絶対欲しいです」」」」

「ドラゴ君ってどんなとこに住んでいたの?」

「木がいっぱいあったよ」

「森!森ね!!」


「雪が降ってたとかある?」

「うーん、あの冷たいやつのこと?あったかも」

「雪が降るってことは北部?」

「でも中部でも降るわよ」


「毎日降ってた?」

「うーん、ぼくわからないよ。ほとんど眠ってたし」

「冬眠か、冬眠するんだ!」

「きっと北部ね」

「探しに行く?」

「行く行く!」



 異常な盛り上がりを見せるお姉さま方を尻目にドラゴ君はあくびをした。

「ぼく、眠いし帰りたい」

「そうだね。今日はお昼寝まだだしね」



 引き留めるお姉さま方には昼寝だけでなく部屋の片付けも済んでいないのでと言い訳して屋根裏部屋へ戻った。



 その後、エヴァンズの騎士学部の女子の間で長期の休みのたびにカーバンクル捜索隊が組まれることになるのを私たちは知る由もなかった。





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