第27話 出発準備
ヴェルシア様、ラインモルト様の別邸での受験勉強は終わり、自宅へ帰っています。そして今、めちゃくちゃだれています。
それは町の洋品店で既製品のドレスを見てるんだけど、恐ろしく高いから。
「エリー、お茶会のドレスは2着いるわよ。できれば3着ね。どれにする?」
「母さん、私10歳だよ。すぐに買い換えないとといけないじゃない」
「でもそういうものなのよ」
「うー、もったいない。1年生からそんなにお金がかかるの?」
「女の子はしょうがないのよ」
ピンときた。
「ねぇ、それじゃあ男の子はそんなにいらないの?」
「ええ、そうね。お茶会には制服でよかったはずよ。夜会は13歳以上だからまだ先だし」
「わかった、私男装する」
「何言ってるの、出来るわけないでしょ」
「ううん、出来ないじゃないの、やるの」
「あのね、そんなことしたら嫁の……」
「そう、嫁の貰い手を探すためなんだよね。お茶会も夜会も」
「嫁入り先さえ考えなければいいってことね。でも友達が見つからないかもしれないよ」
「今の時点で一人もいないのよ。それで10年やってこれたもの。あと5年頑張ればいい」
「エリー」
「冒険者ギルドでハルマさんとシンディーさんとも会う予定だし、それなりに大人とはやっていけると思うの。それに王都の学校って貴族ばかりなんでしょ。
平民を馬鹿にする人は多いんじゃないかしら」
「それは……そうね。私もお話はしていたけど、友達ではなかったわ」
「だから期待はしていないの。なんか侍女みたいなことをしたら、仲間に入れてくれるって話聞いたけど、錬金術科の授業量でそんなことする暇ないと思うのよね。
その話してくれた人、実際メイドさんだったし」
ラインモルト様の離宮の侍女の人に王都の学校を卒業した人がいて話を聞いたのだ。彼女のやり方は参考にならなかったが、貴族たちが平民を下に見ているということだけはとても伝わってきた。
「でもどうするの?ダンジョンは」
「今考えてるのは、従魔とパーティーを組もうと思ってるの。卵もあるし、例の召喚の笛もあるし」
「うーん、いいのかな。でもテイマーの子は確かにソロだったわ」
「従魔がパーティー枠食っちゃうからね」
私は母さんに現実(値札)を見せた。
「このドレス、1年も着られないのに15万ヤン、金貨15枚するよ。下級冒険者の1か月の稼ぎより多いよ。母さんぐらいのランクのひとなら、もっとあるけどさ。
でもお金がたくさんあっても買っていい買い物じゃないと思う。
買うのはお金があることを示さないといけない人だけだよ」
「わかったわ。ただ後見となってくださるラインモルト様の許可を得てからにしましょう。それとリヒター子爵には娘が行くと言ってあるから、1着は女の子の服じゃないとだめよ」
「そうだった。でもそれなら作業にも適している感じのじゃないといけないね」
そこで袖や胸元にピンタックの入ったほかは飾り気のない古着の紺色のワンピースを選択。もちろん素材は綿。
12歳まではコルセットの必要のないダボっとしたAラインでいいので少し長めを買った。
「これにエプロンを2枚買えばいいと思うの。1つは調薬用の体全体を守るタイプのもので、もう1つはフリルがついているのにすればいいんじゃない?」
こちらは1枚5千ヤン(大銀貨5枚)。さっきのお茶会用ドレスで30枚買えます。丈も袖も長いので調整するために、糸も買い洋品店での買い物は終了。
「エリー、もうお金はあるんだし、買ってもよかったのよ」
「よくわからないんだけど、買いたくなかったの。それにラインモルト様に相談してからでもいいと思うし。あと、王都の方が品ぞろえもいいと思うの。母さんが一緒じゃないけど」
「もう!娘と一緒に洋服選びをするのは母親に特権なのに」
「その特権の行使は私がもう少し大きくなってからにしようよ」
ラインモルト様に手紙を出すと服装に関しては好きにしてよいということと、最近王都で子供の誘拐が多発しているので用心するようにとお返事があった。
しかも男性用の礼装もいるだろうから親類の不要になった衣服を送ってくださることになった。
ちょっと待って、ラインモルト様は王族だからご親類も王族よね。
そんなすごい服私が着てもいいのかしら?
とうとう、明日王都へ出発する。17日後に行われる入学試験を受けるためだ。
魔力の多い子供の王都での教育は決まってはいるが、田舎では教育の進み具合も違うので本人の学力レベルに合わせた学校へ入学するのだ。
私の場合は最適ジョブが錬金術師なので行ける学校は2つしかない。
1つ目は最難関の王立魔法学院。通称学院。
こちらは王族や上位貴族も入学するたいへん由緒正しい魔法学校で、教師・設備・カリキュラムどれをとっても超一流。
ここを卒業すればエリートコース間違いなしと言われ、卒業するもののうち就職するものは国か王宮か上位貴族に雇われると言う。
そして各学部の成績上位者3名が奨学金として学費を免除される。
私は一応払えるから目指さなくてもよくなったのだけれど、平民が目指していないなんて立場的におかしいのでチャレンジはするのだ。
ここは面接もあるらしいのでそれで落ちるかもしれないけど。
2つ目はエヴァンズ魔法学校。通称はエヴァンズ。
こちらは自由な校風が売りの下位貴族や平民の多い学校なので、もし入れるならできればこちらに入りたい気がする。
学院よりは劣るとはいえ、2番目に難しい学校である。
奨学金は大して出ないが学院よりは学費が安いのも魅力である。
この2つどちらも落ちたら、薬師科のある魔法学校へ行くことになるだろう。
ラインモルト様の後援をいただいているので申し訳ないが、その時はそのときである。馬車の旅は2週間あるので、おさらいをするのも十分な時間だ。
荷物はスライムダンジョンで借りた時間経過するマジックバックに貴重品を入れ、着替えや勉強道具はトランクに詰めた。ポーションや長持ちする食料もここに入れた。
ちなみに貴重品とはあの国宝級道具箱とスライムダンジョンでせしめてきた宝物全部のことだ。
宝物を全部持ってきたのは母さんが受け取り拒否をしたのである。
スキルスクロールのお金は正当な報酬になったので、ギルドに預けておけるが、他の宝物をどこに置くのか決められないと言い張るのだ。
全財産持ち歩いている方が危ないけどな。
ラインモルト様にいただいたダムル蜘蛛の糸がまだあったので、母さんに借りた簡易胸当ての裏に縫い付けておいた。
一応バッグに使用者制限も付与できたし、なんとかなるだろう。
そのうち時空魔法を習得して時間経過もしなくなるようにするんだ。
私本当に王都へ行ってしまうんだな。やっぱり父さんと母さんと別れるのは悲しい。寂しい。
もっと浮き立つような気持ちで出立出来たらよかったのに。
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