第23話 ゲームの世界?


「俺、前世の記憶があるんだ」

「えっ?」

「俺、転生者なの」

「何ですか?転生者って」



 ハルマさんは生まれる前に別の人生を送っていてその時の記憶があるのだという。


「俺が生まれる前の俺はさ、こことは全然違う魔法のない国で生まれたんだよ。

大きな商会で営業の仕事をしてるごく普通のおっさんだったんだよ。

貧乏暇なしで働き詰めで、趣味はゲームぐらいのな」

「ゲームって何ですか?」

「わかりにくいと思うけどゲームってのは遊びの一種で、うそごとの世界っていうか、お芝居の中にいるみたいな感じ?

その中はこの世界にとても良く似ていて剣と魔法が飛び交って魔獣を倒して強くなっていくのを楽しむものだったんだ」

「もしかして、ダンジョンで魔獣を倒して、宝物を探すんですか?」

「やっぱりエリーちゃんも転生者だったんだね。こないだは誰でも知ってるアニメの台詞に反応しなかったけど」

「ごめんなさい。違います。わたし一人で一階層にいたとき、ダンジョンマスターに話しかけられたんです」

「ダンジョンマスター⁈」



 それで隠し部屋を見つけたことは隠して、話をしたことをいった。

 さすがに今そんなに財宝を持っているなんて聞かれたら、誰かに殺されると思う。



「冒険者はお客様で、ダンジョンは楽しむためのものか。しかも運営、メンテナンスなんて間違いないな」

「何が間違いないんですか?」

「この世界は俺が前世でやってたみたいなゲームの世界ってこと」

「でもそれってお芝居みたいなものなんですよね。つまり終わりが来るんですよね」

 うん、とハルマさんが言いよどんだ。



「何かあるんですか?」

「その俺がやってたゲーム、RPGロールプレイングゲームならちょっとやばいんだ。

竜とか魔王とかが目覚めて戦わないといけないんだよ」

「戦い……、それ楽しいんですか?」

「だってゲームの中なら痛くもないし、死なないし、強くなって、敵に勝って魔王にだって勝てるんだから。

俺のいた国は特に平和で争いごとがなくて、闘争心なんてゲームの中の嘘ごとでごまかせる程度のものだったんだ」



 よくわからない。遊びでうっぷんが晴らせたってことなのかな?



「俺、実はゲームの中で勇者だったんだ。その中でもハルマってキャラクターで、シンディーが幼馴染で仲間と一緒に戦いに行くんだ」

「そこに私もいましたか?」

「エリーって女の子はいなかったよ。たぶんモブなんだ。

モブにしちゃチートすぎるけど」

「モブってなんですか?あとチートも」

「モブはそのわき役ってこと。ゲームの中じゃ名前も付けてない通行人のような役。チートってのはズルしてるってことでそのくらいとんでもない能力があるってこと」

「そうなんですか……」

 とりあえず私は戦わないみたい。でもわき役とかズルしてるとかってひどいな。



「でもそれじゃあ、この世界は現実ではないってことですよね。

私にはそうは思えないんです。

ご飯はおいしいし、ルノアさんの件で心は痛んだし、魔獣に攻撃されたら痛いし」

「うん、俺も。さっき死ぬかと思うくらい魔獣の中を駆け抜けてきたもん」

「すみません。ありがとうございました」

 そうだった。ハルマさんは危険を冒してここまで戻ってくれたんだった。



「それでその竜や魔王との戦いはいつ起こるんですか?」

「8年後、ある女が竜を目覚めさせちまうんだ。

それで竜が暴れて、連動して魔王が復活するんだ」

「つまり竜が目を覚まさなければ魔王は復活しないんですか」

「そういうことになる」

「私なにかしないといけないんでしょうか?」

「うーん、多分モブだから大丈夫だと思うけど。

あ、でも俺と一緒に戦う仲間はエリーちゃんと同い年だから同じ学校なのかも」

「そうですか」

 私もハルマさんも黙り込んでしまった。



 すると宿屋のおかみさんが、

「あのさぁ、レターバードが届いてるよ。

それに子どもはそろそろ寝ないといけない時間だよ。

ハルマも泊まらないんだろ。ダンジョンに戻った方がいいんじゃないのかい」

「そうだな、戻らないと」

「あのハルマさん、もう少し詳しく聞きたいので、帰ったらウチのパン屋に来てくれませんか?」

「わかった。手紙大丈夫?」

「はい、迎えに来てくれるって返事でした」


「じゃ、ダンジョンから戻ったら必ず連絡するから」

「ハルマさんもダンジョン頑張ってくださいね。それから母さんには私が怖くなってダンジョンから帰ることにしたって手紙に書きました。

私ルノアさんの事尊敬していました。

あの人私が初めて魔獣を倒したときに、その痛みを忘れてはいけないって言ってくれたんです。本当に優しくない人がそんなこと言わないと思います。

だから冒険者続けてほしいんです」

「わかった。でもちょっとヤキモキさせてやるさ」


「それに私もう復讐なら済ませたんです。

あの人の武器につけた付与、最初のやつ以外全部消しちゃったんです」

「あ、それ気が付いてたみたいだぜ。なんで!って叫んでたもん」

「だからラインモルト様には言いません。

私のわがままでダンジョンから帰ったってことで皆さん通してください」

「わかった。ありがとなエリーちゃん」

「こちらこそありがとうございます。ハルマさん。

みなさんにもよろしくお伝えください」



 ハルマさんが宿屋を出るところまで見送ると、ハルマさんは振り返りって、

「さっきの話なんだけど、女はともかく男どもの話なら心配いらないぜ」

「えっ?」

「あと3年もして色気ついてきたら、エリーちゃんみたいな美少女だれもほっとかないから」

「美少女じゃないです」

「マリアさんってクランマスターのシドさんがいうにはこの町どころか、今まであった人の中で1番の美女だって言ってたぜ。エリーちゃん、お母さん似って評判だよ」

 いえ、私はどちらかといえば父さん似です。

「ありがとうございます」



 そうしてハルマさんは私に手を振ってダンジョンへ戻っていった。



 私もたくさん考えないといけないことがある。

 でも今日は眠ろう。

 眠ってしっかり考えなきゃ。



 ヴェルシア様、どうか私をお導きください。よろしくお願いします。







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