第19話 ダンジョンマスター
万能の鍵を使うと宝箱の鍵が開いた。
蓋を開けようと取っ手を棒で持ち上げる方式を取ろうとしたら、それが現れた。
ものすごい勢いで何か黒い丸っぽいものが私の体目掛けて飛んできた。
持っていた棒で叩いたら、棒が折れた。
固い!腕がしびれる。
お陰で衝突は避けられたが、腕がしびれて何も持てない。
また飛び掛かってきたのでウインドカッターを放ったが、カキンっと音がしてはじかれてしまった。
まさか金属?
これ、金属でできたスライムだ。しかも自ら攻撃してくる特殊個体。
金属の弱いもの?
熱で溶かす?
私に火魔法はないし、金属が溶けるほどの火は私も焼ける。短剣に付与したばかりの火魔法では弱すぎてダメだ。
水で錆びさせる?
いったい何日かかるんだか。
そうこう考えている間も金属のスライムは私に飛び掛かってくるので、とにかく身体強化で避け続けた。
何かないか?何かないか?何かないか?……
避けながら考え続けると、あった!採掘用ハンマーが!
腕はまだしびれていたがウエストベルトに差し込んだ採掘用ハンマーを手にした。
こちらから金属のスライムに振りかぶるが向こうも避けてくる。
そうだ。向こうが私に飛び掛かってくるときなら避けることは出来ない。
それで私は態勢を崩したふりをして、しゃがみこんだ。
思った通り、金属のスライムはすごい速さで私に一直線で向かってきた。
待ち構えていたのでつるはしの方で叩いたら、信じられないくらいあっけなくスライムは潰れて落ちた。
戦った時間はそんなに長くないのに、体中がものすごく痛い。
他に敵がいるか見なくちゃいけないのに、何も出来ずに床に倒れ込んだ。
パンパカパーン
なに……この音
『おめでとうございます。あなたはこのスライムダンジョン一階層の隠し部屋、初の発見者で討伐成功者です。特典をお渡ししますのでどうぞお納めください』
「……だれ、なの?」
『わたくしはこのダンジョンを守るダンジョンマスターでございます』
「ダンジョンマスター?」
『このダンジョンの魔獣を作る源であるダンジョンコアの化身だと認識くださいませ。次のリポップまであと2時間ございます。それまで安全ですのでポーションを飲むなり、傷の手当てをするなりなさってください。お持ちでないなら、特典で差し上げますよ』
「ううっ、いらない。ポーションは持ってるから」
全身がものすごく痛む。身体強化が切れたからだ。
あの採掘用ハンマーを使うのに加減がわからなくて、私の魔力をほとんど全部使ったみたい。
母さんが身体強化の魔法は元の体の力を最大限、いやそれ以上に強化して能力を上げるものと言っていた。
だから本体が弱ければ魔法が切れた時の反動が大きくて、切るのが恐ろしくなり身体強化を使いっぱなしにしてしまう。そうなると魔力を限界まで使ってしまったときに死ぬような痛みを覚え、ひどい時には発狂してしまうそうだ。
なるほど。今まさにその状態なんだな。さすがに発狂はしないけど、何もできない。痛いしか考えられない。
それでもしばらく横になっていると、あと2時間でまたあの金属のスライムが出てくると言っていたのを思い出した。マジックバッグから傷を治すハートポーションと魔力をとりもどすマジックポーションの二つを取り出す。
ポーションをまずいと嫌う人が多いが私はハーブティーのようなので割と好きだ。飲み干してから、目を閉じて寝ころんだ。
そうしてそのまましばらく眠ってしまった。
『あの~、もうそろそろお話してもよろしいでしょうか?』
あっ、忘れてた。
「横になったままでいいならどうぞ」
『ありがとうございます。今回差し上げる特典は初回限定と初討伐の二つ分でございます。宝箱の中に入っていますのでどうぞお納めください』
「そう、ありがとう」
『なにかご質問はございますか?』
「そうね。あなたはこのダンジョンを守ってるんでしょう?だったら敵である私にどうして物をくれたり、話しかけたりするの?」
『わたくしからみたら、冒険者の皆様は敵ではなくお客様なのです』
「客?」
『わたくしはここで魔獣を作って探索に来た人たちに襲い掛かるのは楽しんでいただくためなのです』
「楽しむって人が死ぬのよ?」
『そのあたりは私にはわからないのです。死ぬのが嫌なら来なければいいのです。そのかわり、魔獣も宝物ももらえない。ただそれだけでございます』
「それが神様の意思なの?」
『神様かどうかは存じませんが、なんらかの意思はございます。彼らの話を聞いているととても皆様が思う神様とはかけ離れているのですが』
「どんな話を聞いたの?」
『「あのクソ上司またミス押しつけやがって。一体こっちが何日家に帰れてないかわかってんのかよ」とか「なあなあ、このヒロインのおっぱい、もうちょっとデカい方がいいよね?えっ、女子受けしないからダメ?せっかく可愛いのに女子受けのために貧乳なんて、作ってるこっちが萎えるっつーの」とかです』
「意味は分からないけど、確かに神様っぽくないね」
何日も家に帰れないことを嘆くなんて、まるで普通の人間みたいだ。
「ねぇ、あなた面白いね。もっとお話しできる?」
『できますが、そろそろ次のリポップの準備もありますし、出ていただいた方がよろしいかと』
「わかった」
私は起き上がって、宝箱をあけるといろいろ入っていた。
「あのー2個っていってなかったっけ」
『初発見が3個、初討伐が3個そして両方をご一緒に達成されたのでボーナスでもう1つついての合計7個です』
「ボーナス?」
『特別報酬のことです』
なんだかハルマさんと話しているみたいだ。
とりあえず、全部マジックバッグに入れた。
「また来るけどちょっと休んでからくるね。それとも急ぐ?」
『いいえ、いついらしてもかまいません。ここへ来たのはあなたが一番最初なのですから』
「ありがとう、あなたの名前は?」
『ダンジョンマスターなので、ダンマスとお呼びください』
ヴェルシア様、ダンマスとのお話はなんだか不思議な話でした。
まだよくわからないのでもう少し聞くことにします。
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