第15話 ダンジョン1日目


「とにかく今日はスライム退治よ。みんな出来る限り倒してちょうだい。

エリーちゃん、スライムの倒し方わかったわね。

特殊個体を見つけたらすぐに他の誰かに言ってね。危ないこともあるから」

「はい、わかりました。大丈夫です」



 スライムはとても不思議な魔獣だ。

 薄い膜の中にある水の塊に小さな魔石が浮いている、そんな感じだ。自分から襲ってくることは特殊個体以外ほとんどないそうだ。

 そんな魔獣なら倒す必要ないだろうと思われるかもしれないけど、これが存外恐ろしい存在だ。

 1匹だったら恐れる必要がない生き物なのに、ほっておくと10万、100万匹と増えてしまう。

 それが水の流れのように村や町を襲うとスライムの洪水に飲み込まれて、人も動物も建物も人が作ったもの全部を飲み込んで溶かしてしまう。



 スライムたちがたくさん発生するのはジメジメした洞窟や湿地帯、下水道そしてダンジョンだ。今回の洞窟型ダンジョンはまさに発生しやすい場所だ。

 そしてダンジョンに入ったら、思った以上にスライムがゴロゴロいた。

「やるわよー!」

「おー」



 スライム退治の方法はすごく簡単。

 外から物理攻撃をかければ簡単に膜が破れてしまう。だったら同時に魔石も回収しようと言うことで、手袋をした手を直接突っ込んで魔石を引っこ抜いておわり。

 手袋をするのは、たまたま消化途中の骨やら牙やら固いものが残っていたら手を傷つけてしまうから。

 スライムの体液はかかるぐらいでは消化しないので安心だが、なんとなく濡れたくないので防水できる皮を使ったものがおすすめだ。

 私は母さんからリザードマンの皮手袋を借りてきたのだが、かなり高級品らしくみんなにビックリされた。しかも手の大きさに合わせて伸び縮するマジックアイテム。

「さすが元Aランク」

 とリノアさんはつぶやいていた。

 


 付与魔法でマジックアイテムにしたのは私なんだけどね。

 ついでを言えば、ダリさんのところで買った生成りのローブは思った以上の掘り出し物で、大きさ変更の付与魔法もつけることができた。これもルノアさんの教育のおかげかもしれない。



 一度お昼休憩をはさんでさらに作業を続けていると、奥から攻略を終えた冒険者たちが帰ってきた。



「おー、スライム退治頑張っとるな」

「そんなこと言わないで皆さんも今度から退治してくださいよ~」

 冒険者たちは赤毛の美女のリノアさんに言われるとデレデレしていたが、

「若手の仕事取っちゃ恨まれちまうから」

「私たちももうやらないんですけどね。一応すれちがったら言えってニール防衛隊のクランマスターから言われてるんで勘弁してくださいね」

「はいはい、わかりましたよ~じゃ頑張って~」と足早に帰ってしまった。



「今の人たちは割といい稼ぎがあったみたいね。稼ぎのない冒険者の時は喧嘩売ってくるから。もちろん買わずにうまくかわすんだけど。

エリーちゃんは冒険者を見たらできれば後ろに下がってちょうだい。

子供だから甘く見てからんでくるから」

「魔法で軽く撃退するくらいはいいんですよね」

「そうだけど、痛くもないくせにいつまでも痛いって言い続けるバカもいるし。

ダンジョン内の面倒ごとは避ける。これも鉄則ね」

「わかりました」

 こんな感じでスライムと討伐は進んでいった。



 スライムに攻撃すると膜が破れて体液がこぼれる。体液はすぐにダンジョンにしみこむが膜はしばらく残って気が付くと消えている。



 私は側にいたシンディーさんに質問した。

「不思議ですね。ダンジョンって。もしかしてここにゴミを捨てに来たら全部吸収してくれるんでしょうか?」

「ええっ?ダンジョンにゴミ捨てに来る人なんていないわよ。荷物になるじゃない」

「うーん、入り口あたりに置いとけば自然に吸収されるんだったらいいかなって思って」

「変なこと考えるね」と笑われた。



 そうかなぁ、外じゃ捨てにくいゴミってあるんだよね。調薬に失敗した薬液とか。ものすごく臭かったり、猛毒だったりすることもある。ナイフに付与した毒薬はこの調薬に失敗したときに出来たものだ。



「あの、お肉の骨とかはどうされてます?」

「そうねぇ、大量じゃないしそれぐらいは置いてってるわね。スライムが食べるんじゃない?」

 でもさっきの膜はスライムが食べてなかった。だってこの辺のスライムは全部私たちが狩ってしまったんだから。

 もしゴミを捨てても魔獣が増えるようなことがないのなら、ややこしいゴミはここに捨てに来るといいのかもしれない。



 スライム討伐をさらに続けてしばらくたってから、

「俺ちょっと2階行ってくるわ」とハルマさんがボス部屋に入っていった。

「どうしたんですか?」

「ああ、2階にね、お肉取りに行ったの」

「お肉?」

「そ、2階はオークでおいしいから。ハルマだったら10匹くらいきても平気だし」



 30分ほどしてハルマさんがオークを2体、両脇に抱えて持って帰ってきた。

「ハルマ、おかえり。血抜きした?」

「まだ。今倒したところだから新鮮だよ」

「じゃあみんなで手分けしてやりますか」

 


 そこで私が立候補した。

「私がやってもいいですか?」

「エリーちゃんが?」


 オークの死骸を並べて両方に触れ、

「この身に滞る血潮よ、去れ」

 すると血が誰もいない方向へ飛んで行き、洞窟の壁に当たってバッと広がった。

 本当は無詠唱でも出来るんだけど、無詠唱魔法が出来ることは絶対に内緒だと母さんに言われていた。



 その血を目掛けて、スライムたちが集まってきたので、

「皆さん、スライム集まってきたので狩ったらどうでしょうか。私はその間に解体しちゃいますので」

「いやいやちょっと待ってよ、何それ?その魔法!」

「水魔法です」

「そんな魔法習ったことないわよ」とシンディーさんが叫んだ。

「そうですね。私も習ったことがないです。でもきっとあると思いますけど。便利ですし」

「何よそれ、なんだか混乱してきた」


「いや別に難しいことじゃなくて。昨日ウインドカッター習ったんですけど、風で切るようなイメージしてって言われたんで、こうナイフでパッと切るような感じをイメージしたら出来たんですけど」

「うんうん、そうよね。確かにそんな感じよね」

「だったらイメージ次第で他の事も出来るんじゃないかなって思ったんです。

例えばつむじ風を起こして魔獣の足を止めるとか」

「ウインドトルネードね。あるわ。その魔法」

「だから血液って液体、つまり水じゃないですか。

それだけを飛ばせば血抜きが出来るんです。

水分を全部飛ばしちゃうとカラカラになるので血だけイメージするのがコツです」

「あたしでも出来ると思う?」

「シンディーさんなら出来ると思います。何だったらスライムでやってみたらどうですか?呪文は『この身にある液体よ去れ!』でいいと思います」



 私が解体を済ませて、余分なところを遠くに捨てようとしたときに見るとシンディーさんがまだうんうん唸っていた。

 難しくないのに、意外とできないものだなぁ。

 それで見本を見せると、スライムは膜と魔石だけになった。

 あら?この膜何かに使えそうなんだけど、これも研究だな。



 見本を見たらどうやらイメージがつかめたみたいで数回やったら出来るようになっていた。

 ものすごく喜んでいるシンディーさんを見て、

「ありがとう、俺が取った魔石全部上げるよ。オークのも持ってっていいからね」

「えっ、でもこれが今日の稼ぎですよね」

「明日から頑張るから大丈夫。

それに魔法を教わるって本当はものすごく高い謝礼を払わないといけないんだ。

シンディーも今日の魔石渡しなよ。

こんなんじゃ全然足りないから、帰ったらちゃんとするからね」

 そこまで言われると私は2人から魔石を受け取った。



「それじゃあ、明日からは今日みたいなのじゃなくもっと戦闘になると思うんですけど、慣れてないのでアドバイスとかもらえますか?」

「「もちろん、まかせて」」

 ハルマさんとシンディーさんがニカッと笑ってくれていた。

 やっと仲間に入れてもらえたような嬉しさがあった。



 ダンジョン1日目。

 ヴェルシア様、おかげさまで無事に過ごせました。明日からも頑張ります。








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