第14話 ダンジョンへ

 

 とうとうダンジョンへ行く日だ。



 持っていく物は母さんに借りたマジックバッグにしまい、ウエストベルトに付けた。

 昨日準備したもの以外に、時計やら、ミニテントやら、毛布やら、いっぱいあったのに、この小さなバッグに全部入ったので驚いた。



「それ容量は大きいけど、時間経過があるから、お肉とか皮とか生ものはすぐ食べるかパーティーの人にあげなさい。

でも魔石とか、剣とか時間に関係のないものはそれに入れて持って帰るのよ」



 この間のダンジョンに行くか行かないかでもめたときに母さんとリノアさんで取り分の話が決まっていた。




 1 私が見つけたり、討伐したり、採取したり、拾ったりしたものに関しては第一の権利は私にあり、私が必要ないと見なしたものはパーティーに優先的に譲ることにする。


 2 パーティーが見つけたり、討伐したり、採取したり、拾ったりしたものに関して私が手伝った場合、第一の権利をパーティーのものであり、パーティーが必要ないとみなしたものは、優先的に私に譲ることにする。


 3 パーティーの攻略に邪魔にならない限り私は攻略について行ってもよいが、邪魔になると判断され、私が了承したら安全地帯である休憩所で待機すること。


 4 私の行動はパーティーリーダーの指示に従って行動すること。





 待ち合わせの馬車乗り場に行くと人はまばらだった。

ダンジョン攻略する人はもっと朝早く行くのだが、私たちは1階層のスライムを減らすのが最優先なのですこし遅れていくことになったのだ。

 茶色の馬の幌のない馬車の側に、ルノアさんとリノアさん、それから知らない男女(って言っても14,5歳)がいた。



「エリーちゃんこっちよ、よく来てくれたわね」

「おはようございます、ルノアさん、リノアさん」

「おはよう」

「……」

 リノアさんは返事を返してくれたが、ルノアさんは無言のまま、こちらを見ようともしなかった。話し合いの後、父さんも母さんもかなり怒っていたので、結構きつく言ったのかもしれないな。



「あの……リノア、もしかしてだけど言ってた子ってこの子?」

「ああ、ごめんね。紹介するわ。こっちの男の子がハルマ、剣士でパーティーではアタッカーよ。隣の女の子はシンディー。魔法使いで回復魔法が得意なの」

「よろしくお願いします。私はエリーです。風魔法と水魔法が使えます。

あと料理もできます」

「よ、よろしく」シンディーさんが手を出してくれたので握手をした。



 ハルマさんとも握手したけど、マジマジと見られて、

「その、子供だとは聞いていたけど、この子、すごく小さい子に見えるんだけど」

「はい、今9歳であと4日後に10歳になります」

「ええっ?じゃあ10歳の誕生日をダンジョンで過ごすっていうの?」

「そうなります。だから余計両親が怒ってしまって。

たぶんきつく言ってましたよね。ごめんなさい」

 そりゃそうだろとハルマさんは独り言のようにつぶやいた。



 このバルティス王国では、10歳と15歳の誕生日はとても大事にされる。

 特に10歳はジョブ判定式が受けられる年で子供の将来が決まるため、その門出を祝って盛大にお祝いするのだ。両親がそろっていて、生活が苦しいわけでもない子供がそんな日に働くと言うのは余程のことなのだ。

 ちなみに15歳は成人したとされ、結婚したり、飲酒したりが出来るので、こちらも別の意味でお祝いが多い。



「ごめんなさい。そんなこと私知らなくて」と慌ててリノアさんが近寄ってきた。

「そうなんですか?ルノアさんには言ってあったんですけど」

「ルノア!あんた何でこんな大事なこと言わないのよ」

 リノアさんがルノアさんに詰め寄っていたが、ルノアさんはプイっと横を向いて知らんぷりをしていた。



「ごめんね。ルノア慣れればいい人なんだけど」

「知ってます。私も3週間一緒にいましたので。でもご機嫌斜めみたいですね」

 シンディーさんと二人でこそこそっと話しあった。

「とりあえず馬車に乗って!話は馬車の上でも出来るから」




 御者台にはルノアさんが座り、後ろを向いていて話しかける隙はなかった。それで側にいる人たちと話すことにした。



「それじゃあお二人はまだ14歳と15歳なのにもうCランクなんですか?

すごいですね」

 ハルマさんとシンディーさんは幼馴染で年下のハルマさんをちょっぴりお姉さんのシンディーさんが引っ張ってる感じなのだそうだ。

「うん、俺たちは運がよかったっていうかサイクロプスに出会ってね。

それを二人で倒したんだよ」

 サイクロプスはAランク相当の魔獣で一つ目の巨人だ。Dランクでそんな格上を退治できるなんてすごい!実力あるんだなぁ。



「あたしはハルマの後援してただけで分不相応だと思うんだけど」

「何言ってんだよ、シンディーの回復魔法がなかったら俺は今ここにいないし」

 サイクロプスと戦ってハルマさんは瀕死の重傷を負ったそうだが、その傷を回復したのがシンディーさんでその功績が認められたのだ。



 そうか、格上の魔獣を退治するのも昇格する方法なんだ。

 ルノアさんがものすごくいろんな武器をもっていたのもその方法で昇格目指していたのかもしれない。



 落とし穴でジャイアントディアーを倒したとき、強く願ったせいで使っていた槍にジャイアントディアーの能力を付与してしまった。

 そしたらそれからルノアさんが貸してくれる武器のレベルが格段に上がり、毎回強い魔獣を倒すように言われた。

 ジャイアントボア、フォレストウルフの群れ、ナイトメアバタフライ、グラトニーグラスホッパー等々。

 それでついた付与が順に、突進(一突きの威力がすごい)、集団(一緒に戦う人がいると能力が上がる)、悪夢(敵に幻覚を見せることができる)、大食(切った相手の魔力を食らう。その代わりすぐ消費されるので利用は出来ない)って感じだ。



 いちばん嫌だったのがワーム、ミミズの魔獣だ。

 見た目が半透明でかなり気持ち悪かったし、無駄に大きい。土の下で気配を殺して忍び寄り真下に来てからドバっと浮き上がって私を一飲みに食おうとしたのだ。

 索敵で近くにいるとは警戒していたが、土の下だとはすぐにわからずもうちょっとで逃げ遅れるところだった。

 逃げようが隠れようがものすごくしつこかった。

 私くらいの大きさの石にも反応して食べられないとわかるとひどく暴れた。

普段からこの大きさの魔獣食べてるんだろうな。

グラトニーグラスホッパーなんか好きそう。あれ私と大きさ変わんないし。

 ちなみにこちらは潜伏という付与が付いた。短剣に潜伏させてどうするんだろうか?



 そんなこんなでこの3週間で能力はものすごく上がったと思う。

 戦闘もそうだけど付与もうまくなった。気に入らない能力がついたらすぐに外すこともできるんだ。



 買ったばかりのハミルさんの短剣とナイフにも付与を付けたよ。



 ナイフにはリターンと状態異常を付けてみた。リターンはそのままの意味で、投げても帰ってくるようにしただけ。

 状態異常は初めからやろうと思ったのではなかったんだけど、毒かしびれ薬か幻覚を起こすナイトメアバタフライの鱗粉かどれにしようかと見ていたら、全部かけたくなってしまったのだ。

鑑定で見るとランダムでどれかの症状が出るのがわかった。絶対に食べ物と薬の材料に使っちゃいけない武器だ。



 短剣は昨日の母さんとの短剣の練習で使ったとき、ファイアーモスキートが飛んでいたので切ったら火魔法がついた。と言っても剣先に小さな火が付くぐらいだ。

 ルノアさんとの実験では魔法持ちの魔獣を殺しても魔法の付与は全然できなかった。でももしかしたら基になる武器の能力なのかもしれなかった。

 ハミルさんの武器は触っただけの感触だけどまだ付与が出来そうな気がするのだ。



 ファイヤーモスキートは私の手のひらぐらいの蚊の魔獣で1匹ではちょっと触っただけで火が消える弱い魔獣だが、乾いた草原などで数が増えると野火事の原因になるのでとても危険だ。

 だから見つけ次第必ず倒さなければいけないし、1匹ということは絶対にない。

今日はギルド員及び町の人総出で巣を見つけるのに駆り出されてたから、父さんと母さんの見送りはなかった。



「ねぇ、ねぇエリーちゃん」

「は、はい」

「どうしたの?聞いてなかった?」

「すみません。考え事してて」

「そうなの?大事な話の時もあるから注意してね」

「すみません。もう一度お願いしてもいいですか?」

「今はちょっと聞いただけよ。トールさんがラインモルトさまとエリーちゃんは親しいと言ってたから」

「親しいというとちょっと違うと思いますが、お手伝いはよくしてました」

「例えば?」

「そうですね、遺跡にある壁画の絵を模写するとか、適当に書き散らしたメモを整理するとか、お部屋にある本の片付けやどの本がどこにあるかわからなくなってらっしゃるのでそれを探してお渡ししたりとか、です」


「それ秘書じゃん」

「ひしょ?」

「何?またハルマ用語?」

シンディーさんがニヤッとしながら言う。


「ハルマ用語?」

「ハルマはね、ときどき変な言葉を使うのよ。今のひしょみたいにね」

「いいじゃん別に。秘書っていうのは偉い人の仕事がスムーズになるようにお手伝いする人の事なんだ。エリーちゃんって9歳だよね。すごすぎない?そんなの普通出来ないよ」

「よくわからないです。なんかやったら出来ちゃうみたいなので」


「じゃあ、仕事の手伝いしてるのね」とリノアさんが話を続けるので、

「そうですね。あとはよくお茶もご一緒します。

私がお菓子を焼いて教会の孤児院に持っていくんですが、そのときラインモルト様がお茶を入れてくださるんです。

それとハンカチに刺繍をして差し上げたこともあります。遺跡の壁画に獅子の絵があって、その絵を刺繍したらすごく喜んでくださって」

「そう、相当親しいのね」


「今回の進学のことでもお世話になりっぱなしだし、ルノアさんに指導してもらえるのも全部ラインモルト様のおかげです」

「エリーちゃん、まるで大人みたいだね。もしかして見た目は子供、頭脳は大人。真実はいつも1つ、なんてね」

「?意味が分からないです。頭脳が大人?それもハルマ用語ですか?」

「ううん、わからなかったらいいんだ」



 それからもしばらくおしゃべりして馬車が止まった。

 ダンジョンに着いたのだ。



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10/24 サイプロクスをサイクロプスに修正しました。

 



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