第13話 魔法契約

 

 ダリおじさんの話はこうだった。



 去年から時々渡りの凄腕職人がやってきて、それは見事な武器や防具を売ってくれるようになった。

 男の名前はハミル。

 彼の持ってくる品物の質の高さ、それから付与魔法の強さは本物だった。

 おじさんも鑑定ができて盗品かはすぐわかるし、作者がハミルなのは魔法の質からも明らかだった。



 今年の1月10日(あのジョブ判定式の日だ)そのハミルがやってきて、

「残念ですが今日でここに来るのは最後になります」

「そうなのかい?」

「ええ、郷里へ帰るんです」

 相手がどこなのか言わないときは聞かないのが冒険者の掟なのでダリおじさんも深く聞かなかった。



「ダリさん、ちょっとお願いがあるんですが」

「なんだい、改まって」

「実は私は鍛冶神アウズから天啓を受けて作った品物があるんです」



 そして白く塗った道具箱を置いた。



「この道具箱を必要とする人がこの店に必ず来ます。その人に1万ヤンで売ってほしいのです」

「そりゃあ構わないが、俺だって儲けがいるんだけどな」

「もちろんこの箱と今日持ってきた武器全部で1万ヤンにしますよ」

「おいおい、それはさすがにもらいすぎだよ」

「そのかわり、私と魔法契約を結んでいただきたいのです」

「どういうことだ。俺が約束をたがえると言うのか?」

「そんなことはありません。

ただ今から見えないように魔法をかけるのですが、ごくまれにこの魔法を突破して見える魔眼持ちがいます。

あなたにも見えなくなるので、そいつは盗んでいこうとするでしょう。

そのため正当な持ち主の手に渡るように魔法で守ります。

そしてあなたに1万ヤン売りあなたは1万ヤンその人からもらい、そのことを忘れてしまいます」



 ダリおじさんが了承する前に、ハミルは魔法で契約書を持ち出した。






 私ハミル(甲)と、ニール武器店店主ダリ(乙)は次の通り売買契約書を締結する。


 第一条  甲は白の道具箱及び剣20本、槍20本、鉄の盾20帖、金属鎧20領、短剣10本、ナイフ10本を乙に1万ヤンで売却する。


 第二条  乙はその利益の代わりに、白の道具箱をこの箱が見たいと言ったものに対して1万ヤンで売却しなければならない。


 第三条  白の道具箱をニール武器店から持ち出せるのは、白の道具箱に選ばれた者ただ一人である。


 第四条  甲と乙共にこの売買契約後は一切の異論は受け付けず、破ったものには鍛冶神アウズの天罰を受けるものとする。


 第五条  白の道具箱を販売した後は売り先を他言出来ないように乙は記憶を失う







「いかがですか?先ほどの話と同じですよ。私は鍛冶神アウズの加護を持っています。神の加護を失うことは私にとって最も辛い試練となるでしょう」



 ダリおじさんはハミルさんのあまりの魔法の鮮やかさとその勢いに押され、魔法契約を結んでしまったそうだ。



 その後泥棒も万引きも起こらず、箱も見えないことから忘れかけていたが、契約通りこの箱を見たいと言った私に売りたいということだった。



「おじさん、そのハミルさんの打った短剣とナイフも見せてもらえますか?」

「あいよ、実は他は全部売れたんだが短剣1本とナイフ5本だけ残っている。エリーちゃんが持っていくといい」



 そして道具箱1万ヤン、短剣とナイフ1万ヤン、ローブ5千ヤンの合計2万5千ヤンで買い物ができた。

「ダリ、この短剣が1万ヤンな訳ないわ」

その見事な出来栄えに母さんはため息交じりにもらした。

「いいんだマリア。俺は鍛冶神アウズの天罰の方が恐ろしいからな。道具箱を引き取ってくれた礼みたいなもんだ。ほかの武具で十分すぎる儲けも出てるしな」



 私が道具箱に選ばれたかどうかは外に出られるかでわかるので箱を持ちだしてみたら、ちゃんと出ることができた。



「なんだか不思議な話だったね」

「そうね。母さん怖いわ。その人多分第一級魔法士でしょうね。ここに魔法鍛冶士も入るから」

「あっ!杖買うの忘れた」

「もういいわ。エリーは使い慣れてないもの。ダンジョンは明日なんだから今日は早く寝なさいね」



 でも母さん、道具箱がすごく気になるんですけど。

 ヴェルシア様、ちょっと見てから寝てもいいですか?



 そう思っていたのに見る前に眠ってしまった。






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