第9話 思わぬ付与
索敵ができたので、今日は罠を使ってもう少し大物を狩ろうと言うことになった。簡単な罠としてルノアさんは落とし穴を勧めた。
「落とし穴は簡単。(穴を掘ってそこに)獲物を連れてくるだけ。ただ(穴を掘り埋めて戻すのは)面倒」
「それじゃあ土属性の人は有利ですね」
「ある?」
「ないです」
「じゃあ掘って」
というわけで只今絶賛穴掘り中。穴を掘るってものすごく大変なの。
ルノアさんのマジックバッグからシャベルが出てきてよかった。
穴が浅いと獲物が自力で逃げだせるのでそれができないくらいの深さが必要で結構掘らなければならなかった。
その上に細かい網を敷き、枯れ葉や土を沈まない程度にかぶせて出来上がり。穴の周りに石や大きめの折れた枝を置くことでそこに足を運びやすくするのがポイントだ。
連れてくる方法はまず索敵して魔獣を見つけ、石を投げるなどして気を引き、自分の後を追わせて誘いこむ。相手に追いつけそうだと思わせるくらいで走るのがベストだそうだが大きな問題点があった。
「ルノアさん、私そんなに早く走れないと思います」
「私やる。エリー槍でトドメ」
索敵したら少し離れたところに魔獣がいたのでルノアさんが近づいていった。私は穴の側の木の陰に隠れて様子を伺う。
ヒュンと石を投げる音がしてザザッと走る音がする。
近い!
ルノアさんの方を見ると、ものすごく大きいジャイアントディアーに追いかけられていた。
ジャイアントディアーは鹿を巨大化したような魔獣だ。角がねじ曲がりあらゆる方向に延びていて突き刺さると簡単に抜けない恐ろしい武器となる。
あちこち回りながらうまく避けるルノアさんのように自分が動けるとはとても思えなかった。
しばらくしたらルノアさんは罠の
中を見るとジャイアントディアーは足を折ってしまったのか立てずにいたが、その分狂ったように歯をむき出しにして威嚇してきた。
「エリー早く」
恐ろしくいきり立っているディアーが怖くて堪らなかったが、とにかく槍を突き刺そうとした。しかしディアーも首を左右に振って槍を落とさせようと懸命だ。
私は祈りながらディアーを刺した。
(ああ私に力さえあれば。ごめんなさい、お願いだから死んでください。あなたを苦しませたくないの。お願い。)
なんとか3度ほど刺さり、ジャイアントディアーは死んだ。
初めてラビットを殺したときと同じようにブルブルと震え体と心が痛んだ。
「よくやった。引き上げる」
ルノアさんの声でやっと正気にかえった。
「(ここは)安全でない。(気を)緩めない」
「はい」
それから二人で網の口を縛った。私が一人で引っ張ってもびくともしなかったがルノアさんは軽々と持ち上げた。
これが身体強化のおかげなのかもしれない。
木の枝につるした後、血抜きだけ済ませて、ルノアさんの腰の袋にしまう。
「エリー、(穴は)必ずふさぐ。人落ちる(といけない)」
それで槍を返してシャベルを受け取ろうとしたら、
「エリー、何した」
「えっ?」
「槍、付与した?」
「いえ、何も」
「(何か)考えた?」
「刺すときですか?苦しませたくないから力さえあればと願っていました」
「力、付与された。多分素早さ」
「すみません。私しようと思ってしたわけじゃないんです」
「いや、槍安物。付与もったいない」
「すみません。弁償でしょうか?」
「必要ない。私得した」
よくわからなかったがどうやら喜んでもらえたらしい、
狩りが終わって解体してギルドに納品したとき、ルノアさんにジャイアントディアーの魔石を手渡された。
「これ納品しなくていいんですか?」
「いい。魔石、槍の付与分」
「でも……」
「エリー天才。魔石エリーのもの」
「あの、ありがとうございます」
こんな風に森や草原といろいろ狩りをして、残るはあと1週間になった。
「エリー、来週5日間、ダンジョン」
冒険者3週間をやっと終えたところでとうとうダンジョンへ。
私ホントにそんなに力付いたの?
ヴェルシア様、最善を尽くしますのでどうかお守りください。
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