火星刑務所

むらさき毒きのこ

第1話 火星は男のロマンなのか?!

 実業家の穂積氏が、1000回目にして初めての、ロケットの打ち上げに成功した。

 

「火星に、刑務所を作ります。受刑者は随時受け付けておりまして、現在、100万名の、移送の契約を結びました」


 既に多くの、地球からの移住者が生活している火星において、穂積氏のこの発言は「重大な裏切りである」との決定が、各コロニーの代表から発表された。


 一方地球では各メディアが、火星における穂積氏関連の出来事を「爆弾」として報じた。


「元受刑者だからって、刑務所の経営にまで手を出すなんて」

「ていうか、刑務所って、いつ民営化したの」

「高級住宅地に、何で刑務所なんか」

「何考えてんの」

「He went crazy」

「Saya menyukainya」

「바보카!」


 庶民の呟きは、穂積氏にはどう響いたのか……彼は発表当日の夜、レギュラー出演番組のスタジオがある錦糸町の某所で取材陣に囲まれていた。

 

「あの、今から日サロの方見に行くんで、手短に申し上げますね。火星の刑務所ね、僕がやらなくても、誰かがやってましたよ。そもそも、火星の状態を、皆さん知らないでしょう。あのねえ、刑務所が無いんですよ、あそこ。法律も、秩序も無いですから。金持ちが火星で何やってるか、知らないでしょ、あんたたち貧乏人は。ああ、こんなこと言ったら、また炎上しちゃうなあ。あの、明日ですか? 明日はね、ヒアルロン酸注射しに行くんで忙しいです。あと、ジムとか。え、今後の予定? 現地に向かいますよ、セレモニーとか、色々。もういいですか、最近行けて無いんですよね、歯の美白」


 そんな不敵な態度の穂積氏は、再度、時の人となった。




「あーあー、この人。またやっちまったよ。言い方ってもんを、選ばないから。また、ビッグブラザーかなんかに、潰されるよ、ほずみっちー」


 母が、テレビの前でボヤくのを、サイダーを飲みながら聞き流す私。


「ほずみっち―なんてどうでもいいし」


 そう言って私は、ゴロンと横になった。

 そう、火星だとか何だとか、私には関係が無いのだから。

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