にじいろだいありー

ましろゆーき

一話 大野浦茉姫との出会い←あれっ先生とも出逢ってるわよ?

いきなりだが、質問がある。

あっ、質問させてください。

自分の名誉や人気、友人関係を保つために、本当に好きなものを隠しながら生活していくか。

または、周りからの目など気にせず自分に正直に生きて行くか。

どちらが充実した生活を送っていけるだろうか?

これについて、賛否両論色々あるだろう。

俺の場合は、前者の生き方をしている。

ここで、軽く自己紹介をさせてほしい。

名前は糸崎優希いとざき ゆうき。高校一年で、趣味は旅に出かけること。

あとは、テレビを観たり、音楽を聴いたりすること…

これは表向きの趣味。つまり友人やクラスメイトに対して伝えているものである。

確かにこれらも好きだし、趣味の一つであることに間違っていない。

だが、自分自身が本当に好きなものは、アニメと鉄道である。

俺の勝手な思い込みだが、この二つを公にしたら今まで通り上手くやっていけないのではないか、仲の良い女子から距離を置かれてしまうのではないか…

世の中の色んな情報や考えにに惑わされながら今日まで生きていた。

今いるポジションを保つためにも、学校でこれらの趣味について口にすることはないだろう。

先ほどの二つの趣味を隠しながらの学生生活は普通に充実している。

中学時代は部活で知り合った何人かと、馬鹿騒ぎして怒られたり、時にはぶつかり合ったり、協力して何かを成し遂げたり意外と青春していたので満足しているはず。

だが、心のどこかに本当の趣味で盛り上がりたい。そう思ってる自分がいた。

進路が決まってからはこのことについてばかり考えてしまっていた。

こんなことについて考えていたせいか、不思議な夢を見た。

茜色あかねいろの夕日が射し込んでいる廊下ような場所を歩いていると同い年ぐらいの女性が二人立っている。

左側は、小学校の時出会った初恋の人。

右側は知っている気がするが、誰だか全くわからない。

「あなたはこのまま、二つの趣味を隠しながら生きていくべき。そしたら、もっと充実した学生生活を送れるわ」

左側の女性が俺に向かって手を差し出した。

「いえ、あなたは自分が本当に好きなものに全力を注ぐべきだわ。周りから距離を置かれたっていいじゃない。必ず、君が気を使わないで本当の自分で楽しめる場所、仲間ができる…」

そう言うと同じく手を出してきた。

うわー、優柔不断の俺からしたらキツイわ。

けど、いい機会だし白黒つけよう。

少し考えてから意を決して結論を出した。

「俺の…答えはこれだ…」

手を差し出した瞬間、空間が歪み真っ暗になった。


「ゆ、夢か…」

高校の入学式も終わって、徐々にクラスに馴染んできた四月の半ば。

時刻は五時半で辺りは薄暗い。夢のせいか眠気は一切ない。二度寝すると確実に寝坊するか、妹に叩き起こされるので、気分転換にジョギングに行くことにした。

俺の中では妹に起こされるのはプライドが許さん。てか、我が妹は俺のことを本気で叩くから出来れば避けたい。最近急に冷たくなったんだよなぁ…本気で叩いてくるし…いや、殴るの方が表現的に合っているかもしれない。

思い出しただけでも痛みが…

前回は2日前に雨が降ってきたので干してあった妹の下着を取り込んだら打たれた…

人の親切をなんだと思ってるんだよっ。

リビングに降りると冷蔵庫から水を取り出し、一口だけ飲みそのまま玄関に向かった。

昨日深夜までアニメ観てたから、ギリギリまで寝る予定だったのに。

そんな事を考えながら近くの砂浜へ。

日によってジョギングルートを変えている。一番多いのが自宅から砂浜を五キロ程走り、そこから山の方へ向かい帰宅するというルートで、人通りも少ないので半分以上はこのルートで走る。また、このルートにする目的がもう一つある。

それは途中線路と並走する道路があるからだ。

一番の楽しみがその区間で走り去る電車を見ながら走る…これこそ俺の楽しみで、ジョギングを続けられる理由である。

自転車の方が早く着ける高校までわざわざ電車通学をする程、電車が好きだ。この申請を通すのに一苦労したし、周りの目線が辛かった…

俺は鉄道、アニメが趣味のガチなオタクである。しかし、この事を知るのは家族だけ。理由は先程伝えた通り、自分の居場所を保つため。

「おはよう。今日も早起きだね」

「おはようございます。今日は目が覚めてしまって」

毎朝犬の散歩をしている近所のおじさんに挨拶しながらジョギングを続ける。

砂浜から山の方へ向かって走っていると、同じ学校の制服を着た女子生徒とすれ違った。

その女子生徒は清楚という言葉がとても似合う存在で思わず見惚れてしまっていた。

「可愛いなぁ」

気づいたら声が出てたらしく、会社員の人にチラ見られた。まぁいいや。

そんな自分の視線や声にに気づかずひたすら学校の方へ向かっていたのだか、まだ開店前の本屋の前で足が止まった。

そこには今期から始まる。新作アニメ一覧が掲載されていた。

彼女はそこで周りを見渡してから何故かメモを取りながら何か呟いている。この距離では聞き取ることはできない。

すると用事が終わったのかどこか満足げに学校方面へ向かっていった。

彼女は一体誰なのか。あの場所で何をしていたのか。

あの一覧を見ていたってことはアニオタか…

そんなことを考えながら走っていると、いつのまにか家の前まで来ていた。自転車が二台止まっているということは妹と姉は未だ家にいるのか。

「だだいまー」

出迎えてくれる人なんていないけどとりあえず声を変えることにしている。

さ、寂しいやつとか言わないでぇ。

玄関を開けるとリビングから妹の瑞希みずきが走ってきた。

おっ、珍しくお出迎えか。今日は機嫌が良いのかな。

なんてことを考えた自分を殴りたくなる。そんなことは今の瑞希には有り得ない。

「兄さん…目覚ましかけっぱなしで出かけないでくれる」

愛想のあの字もない単調な口調で話す。

「あぁ…悪い。以後気をつけます」

「わかったなら良いんですけどね。朝ご飯出来てるから早く食べてもらえる?」

そう俺に伝えるとリビングに戻ってしまった。

昔は一緒に遊んだり、必死に俺の後ろを付いてきたり、可愛い妹とだったのに…あの頃の瑞希はどこに言ってしまったのか。

あの頃の瑞希を返せー。

なんて思っていると再びリビングのドアが開いた。

「あっ、意味違うけど帰ってきた」

「えっ? まぁとりあえず、姉さん起こしてきて。今すぐに」

また愛想がない口調で言ってきた。

「マジですか…それはミズの仕事ですよねぇ?」

「あたしがご飯作っているとき遊んでたでしょ。良いからお願いね」

そう言うと俺の返事を待たずにリビングに戻ってしまった。

ランニングは遊びではありません。

いや、遊びの部類に入るのか?

そんなことを考えながらシャワーを浴びて、仕方なく俺の部屋の向かいにある姉。美咲希みさきの部屋へ向かう。

一応ノックして部屋のドアを開ける。

「姉さん朝だよ。遅刻するぞ」

反応なし(笑)

仕方なくベットの近くまで行くと布団から寝ぼけた姉が顔を出した。

神はボサボサで肩が見えているってことは下着だけで寝ているな。

「まだぁ、時間あるからぁ…大丈夫ぅ、じゃ、おやすみぃ」

本当朝に弱い姉ですこと。

とりあえず起こさないと遅刻するし、妹に怒られる(汗)

「良いから起きて。ミズに怒られるよ」

妹の名前を出すと起き始める姉だか今日は起きそうにない。

「ベットの中あったかいよ。五分だけ入ってみなよ」

五分か…それなら十分間に合う。

いやいや、自分よ誘惑に負けるでない。意志をしっかりもてっ!

「じゃあ…五分だけだからね。」

結論…誘惑に負けました。まぁ、たまには自分を甘やかすことも大切だよっ!

「いらっしゃーい。じゃおやすみ…」

と言うと寝息をたてる姉が…寝落ち早っ。

頭の中でツッコミを入れると自然とまぶたが閉じてゆく。

五分ぐらい寝たのだろうか。自宅にもかかわらず頭上から殺気を感じる。

これも夢なのか。たまには良い夢見させてくれよ。

「……っての」

ん?この声聞いたことある。

「起きろっ」

あきれと怒りの混ざった声で布団が剥がされる。

そして頭の中でさっきまでの出来事を整理する。

ジョギングから帰り、妹にお出迎え?され、その後姉を起こすように言われる。

「あっ…」

飛び起きると瑞希がこちらを睨んでいる。

「兄さん。貴方には失望しました。姉さん早く起きて。遅刻しちゃうよ」

明らかに態度が違うんですけど…ひどい…

「はーい。ユウくんが寝たいって言うから二度寝しちゃった、ごめんね」

「えっ?姉さん違うよ」

うわっ、ヒドイ…みんな敵なんですね。

そんなことを思いながら自分の部屋で制服に着替える。中学に入ってから妹の接し方が明らからに変わった。理由を知りたいような知りなくないような。

準備を終えるとリビングで朝ごはんを食べる。今日のメニューはご飯と味噌汁。そして昨日の余り物である煮物と豚肉を味噌で焼いたもの。

ご飯を食べていると支度を終えた美咲希がリビングに入ってくる。

髪を後ろで束ねて軽く化粧をしており先程の姿とはまるで別人だ。制服を着ると口調や性格も変わる変な人だ。よく言えばオンとオフの切り替えが上手い。

「おはよう。今日も朝ご飯ありがとう」

瑞希の方へ微笑むと椅子に座り箸を取る。

「姉さんの為ならこのくらい平気」

瑞希のやつ照れてるぞ。俺もめてみるか。そして前のような仲のいい兄妹になれるかも。

「いやー、この豚肉の味付け良いぞ。最近食べたものの中でもトップクラスだっ」

どうだっ、照れたか?照れたのかー?

「ありがとう。ちなみにこの味付け姉さんが作ったやつだから、姉さんを褒めた方が良いんじゃない」

あー、やっちまった…

「あら。ユウくんに褒めてもらえるなんてー。今日一日頑張っちゃう」

姉さんに褒められたから良いか…良いのか?

そんないつも通りの会話をしながら朝ごはんを食べ終え、まず瑞希が身支度みじたくを整える。

「"姉さん"行ってきます」

「行ってらっしゃい、気をつけてね」

「俺の存在スルーですか」

「省かれてショックだったでしょ」

「べ、別にミズにスルーされてもショックとか思ってないんだからねっ」

「ふふっ、行ってきます。お兄様」

「い、いってらっしゃいませ、お嬢様?」

あれ?ツンデレキャラ無視ですかい?

俺をからかう妹に少し疲れた。

いつもよりテンションが高いような気がする。いつも俺を弄ってくることなんてないのに。

「ユウくん、そろそろ出発しよっ」

そう言うと美咲希は一度部屋に戻った。

俺は鞄など必要なものは全て持ってきているので玄関で姉のことを待つ。

「おまたせー、レッツゴー」

まるで冒険にでも行くようなテンションで鞄を持った右手を前に出す。

その仕草可愛いっす。動画撮って残したい。

玄関を出るとさっきまでの美咲希はそこには居ない。

「早く行きましょう。遅刻してしまいます」

そう。姉の美咲希は玄関を出るとまるで別人になるのである。

誰に対しても敬語で接しており、知らない人からお嬢さまと勘違いされるほど上品になるのである。

「優希くんは今日も電車で通学するのかしら?」

「そうですね。8時2分に乗る予定です」

お上品モードの姉にはタメ口で話すと怒られるので敬語で話さなくてはならない。

少し面倒だと思っているのはここだけの話。

「あら、残念…たまには私と一緒に通学して欲しいわ…ダメ?」

上目遣うわめづかいで聞いてくる姉が可愛い。たまには姉と通学するのも悪くないかも。

そんなことを考えているとスマホの通知が鳴った。

そこには通学で使用している電車の遅延情報ちえんじょうほうが出ていた。

「なんか電車遅れてるみたいだから一緒に行きますか」

「えっ。うそっ?嬉しいんですけど…」

予想しない答えに動揺どうようする姉さん。

そして自分の口調に気づいた美咲希は軽く咳払いをしてから

「今日は雪が降るわ…」

そう言うと後ろから抱きついてきた。

「あの…流石さすがに恥ずかしいから離れてください」

「こんなこと、しばらくないと思うもの。だからイヤよ」

嬉しいけど超恥ずかしい。誰か助けてくれ…

自宅から俺たちが通う美緑ヶ丘学院みどりがおかがくいんまでは徒歩で二十五分程かかる。ちなみに電車使用すると三十分程かかるのでこの辺りの生徒は徒歩もしくは自転車通学をしている。

自宅から十分ぐらい歩いたところで大きな通りにぶつかりそこの信号待ちをしていた。

「みさちーおっはよー」

後ろからやけに元気な声が聞こえた。

「あら、礼華おはようございます」

彼女の名前は中条礼華。美咲希の幼馴染だ。身長はやや低めで痩せ型体型。髪は肩にかかるぐらいの長さで茶髪だ。

ちなみに礼華と書いて'らいか"と読むらしい。

ずっと"れいか"と呼んでいました。

「今日も堅苦しい。幼馴染おさななじみなんだから敬語はやめよっ」

「いえ、これが私のスタイルなので」

「そんなのみさちーじゃない。敬語をやめないとくすぐっちゃうぞー」

「くすぐったら単語テストの範囲と勉強教えませんよ」

「いやー、それだけは勘弁してー」

朝から元気だ…あの元気分けて欲しい。

なんてことを思っていると後ろから叩かれた。

「あれーユウくんじゃん!珍しいこともあるんだねー。お姉ちゃんと通学したくなっちゃったのかなー」

相変わらず、からかってくる。

「ユウくんは私がお願いして一緒に来てもらってます」

「なんと羨ましい。私も誘ってー」

仲の良い二人の間にいるのが気まずくなったのでここは離脱りだつするしか。

「ごめん、ちょっと寄りたいところあるからここで曲がるわ」

「あら。せっかくユウくんと一緒に行けると思っていたのに残念…」

そういうと交差点を左に曲がる。少し遠回りになるが学院に向かうことが出来る。

そしてこの道は線路と並走してる道なので個人的に好きな道だ。

走り去る電車を横目に学校を目指す。する自分が普段使っている電車がやってきた。

「あれ?いつも乗ってる電車じゃん。しかも、空いてる」

横を通過する電車の車内を見ると車内はガラガラだった。

いつもは座れないぐらい混んでいるのに。

「あー、やっちまった…」

思わず口に出してしまった。

少ししょんぼりしながら歩いていると、いつのまにか学院の正門前に来ていた。

一気にテンションダウンした俺は何も考えずただ黙々もくもくと教室に向かう。

教室に入るといつも通りガヤガヤしていた。入学式の日は誰一人として喋っていなかったのに。式から半月でこれだけクラスに馴染なじんでる、皆さんのコミュ力ハンパねぇっす。

席に着くと前の席に座ってる荒川に声をかける。

「荒川おはよー」

すると待ってましたと言わんばかりにニヤッとして振り返った。

「ザキオッス!待ってたぞ貴様が来ることを」

彼が待ってた理由は聞かなくてもわかる。

「昨日の宿題見せろってことだろ」

「当たり前よ。いつも感謝してるぞ」

「当たり前って…そろそろ何か見返りを期待するぞ」

なんかほぼ毎日見せている気がするんだよなぁ。

「わかった。そしたら今度ハンバーガー奢ってやるよ」

「マジか。ポテトL、ドリンク付きだぞ?」

「任せとけ。バイトの給料出たらな」

絶対奢おごってもらうからな」

まぁ、期待はしてないんですけどね。

荒川に宿題を見せていると担任の先生が入ってきた。

「はい。時間なので席に戻ってください」

すると、あちらこちらから先生への挨拶が飛んできた。

俺のクラスである一年六組の担任は岩国美波いわくに みなみ先生である。

年齢は教えてくれないが誰かが二十代前半と言っていた。確かに見た目がとても若く、なにより美人だ。

なので一年生全体から人気があり、放課後は女子生徒のお悩み相談室が開かれて、男子からデートに誘われているらしい。

この情報噂で聞いただけだから。べ、別に興味無いし…本当だよ?

岩国先生は教壇に立つと、日直に全体の挨拶をさせてから今日の連絡事項を伝える。

その中に部活動についての連絡があった。

「部活動に入ってない人で申請を出したい人は今週末が締め切りです。なるべく部活動には入るようにしましょう。内申点がドンと上がっちゃうらしいです」

岩国先生はこぶしを前に突き出して言う。

一つ一つの仕草しぐさが可愛いんだよなぁ。そりゃ男子から人気出るわ。

周りの男子が、「先生からの内申点も上がりますか」とか「何かご褒美はありますか」なんてことを聞いてる。

よくそんなこと聞けるよな…ある意味羨ましい。

「私からは何もありません」

すると「マジかー」とか「先生が顧問だったら入るのになー」とかザワつき始めた。

お前ら先生に何求めてんだよ。

そんなこんなで朝礼が終わると一時間目が理科なので教室を移動し始める。

俺は周りの友達と朝礼の出来事について話しながら向かっていた。

すると階段の手前にある別校舎への渡り廊下が目に留まった。

あの別校舎には何があるんだろうか。

学校紹介の時もスルーしてたし少し気になる。

そんなことを思いながら理科室へ向かう。

理科室に着くと先生はまだおらず、教室全体がザワザワしていた。

教室入って奥の方に大きな鏡があり、そこで何人かで野球をやっていた。

それを見て加勢する奴もいれば、一応止める奴。スマホで動画を撮っている奴もいる。先生に見つかったらヤバそうだな、関わらないようにしよう。

そう思った矢先、昔から仲の良いクラスのリーダー的存在である岩徳哲也いわとく てつやからお呼びがかかる。

「おーい。糸崎面白いから一緒にやるぞ。鏡の前集合」

「俺はパスだわ。マジ眠い」

なんて思っていたが

「えー糸崎くんの華麗かれいなバッティング見たいなぁ」

クラスの女子からこんなこと言われてしまったら、やるしかないでしょ。

「よし。俺のバッティングをよく目に焼き付けておけー」

なんてことを言いながら鏡の前に立つと、バット(座敷ホウキ)で構える。

第一球…派手に空振り。第二球…デッドボール。

思いっきり顔にスポンジで出来たボールが当たる。

その後ピッチャーの岩徳と乱闘(笑)をして再び打席に戻る。

意外と乱闘盛り上がって少し楽しかった。

第三球…良い当たり。

ボールはホワイトボードの方へまっしぐら。

そこにはいつのまにか教室に来ていた、岩国先生が授業の確認をしていた。

その後ボールは弧を描いて見事に岩国先生の頭に当たる。

「ヒヤッ、何っ?」

岩国先生ガチで驚いている。

足元に落ちたボールを拾いこっちを見る。

「あー。どうもー」

頭を掻きながら近づいていく。

「すごいわねー。これはホームランかしら」

笑顔でボールを渡してくれているにも関わらず嬉しくない。

「わーい。一点入った…」

それしか言葉が出てこなかった。ヤバイ、帰りたい。

「放課後、私のところへ来てね」

あんな美人の先生にそんなこと言われたら嬉しいだろうが今は全く嬉しく無い。

「よし、お前ら放課後先生のところだぞ、わかったな」

周りの奴らも巻き込む。

「代表で糸崎くんに来てもらいますから、他の人たちは来なくて大丈夫よ」

誘われた側なのに俺だけ呼び出しとか、絶対おかしい。世の中理不尽。

俺が席に着くと直ぐに授業が始まる。周りの男子から羨ましいな、変われよとか言われてるんですけど…

今日は食事当番だから早く帰宅しなきゃならないので美人教師に呼び出しされてる場合ではない。しかし、これを無視すると全体を敵に回すことになる。

そんなことをがあった一時間目が終わり、気づくと放課後になっていた。

場所を聞かされていないので夕礼が終わると岩国先生の元へ向かう。

「あの…どちらに向かえば良いですか」

最初なんの事?みたいな顔をしていたが思い出したようで

「これから職員室で緊急の会議があるみたいなの」

おっ、これは直帰出来るんじゃね。だが、そんなことはなかった。

「大体三十分くらいで終わるみたいだから待ってて。帰宅したら、わかってるわね」

何故か笑顔の先生に恐怖感を覚えたので帰宅するのはやめよう。

「わかりました。三十分で後ここでお待ちしております」

「了解っ」

右手で敬礼する岩国先生、マジ可愛いっす。

三十分間暇になってしまったのでどう時間を潰すか考える。

荒川や仲の良い奴らはすでに下校済みか、部活に向かってしまったので教室に残っていない。

教室で寝てるか。そう思って席に戻ると、クラスの女子から委員会活動の会議室になるから開けてくれと、追い出されてしまった。

宛てもなく廊下を歩いていると、ふと朝の渡り廊下について思い出した。

あの渡り廊下から別校舎にでも行ってみるか。

そう思い理科室方面へ向かった。

陽が傾き茜色に染まる空と遠くに見える海を窓から見ながら別校舎に向かう。

そして、渡り廊下を通り目的地に到着した。

「科学・工業棟って言うのか…前に言ってた、カガコウってこの場所だったのか」

前に姉さんが言ってたので聞いたことがあった。

そんな薄暗いカガコウを進むと壁に一枚の貼紙があった。

見てみると、部員募集中と書いてある。

こんなところに貼って見る人いるのか。

しかしこのビラ、肝心なものが抜けていた。

「これ、部活名書いてないし…」

その貼紙には大きく部員募集中の文字と矢印だけ書いてあり、その他記載事項一切なし。

興味はないがどんな部活なのか、とても気になる。まだ約束の時間まで大分あるし覗いてみるか。

そう思った俺は矢印に沿って歩いて行く。

目的地は意外と遠かった。階段を二、三回上り下りしてようやく、目的地到着。

すると、その教室の前に一人の女子生徒が立っており、時たま教室を覗いている。

うわっ、めっちゃ怪しい。

少し様子を見たかったので物陰に隠れて見ていると、何やら独り言を言っているようだった。

「…さま私に扉を開ける勇気を分けてください。あっ、でも恐れ多く力をお借りすることなど出来ませんわ」

何言ってんだ、あいつ。

どんだけ勇気ないんだよ。俺なら躊躇ちゅうちょなく開けれるけどな。

名前がユウキだから勇気だけはあります。なんちゃって。

「何故かしら、寒気がするわ」

こちらの方を見て首を傾げている。

あれ、今の口に出てた?

「まあいいわ。あと三分間待ってやりますわ。扉、そして中に居る者よ、感謝しなさい」

おいおい。いきなりどうした(笑)

見た目によらず面白そうな人だな。

それから暫く時間が経過したが、一向に入る気配がない。

少なくとも5分は過ぎているはず。

ふと、あの顔に見覚えがあることに気がつく。

「可愛くて、清楚せいそだな…あれ、せい…そ?」

今日一日を振り返る。

朝ジョギングをして、可愛い清楚な女の子を見かけて、帰宅した。

あれ、もしかして…

「そうだ、朝本屋の前で見かけた女子生徒だ」

すると前方から悲鳴のような声がした。

「うみゃっ、誰、何、えっ、えっ?」

ヤバイ声出てしまったようだ。仕方ない正体を表すとするか。そ

「あっ、どうもー」

とりあえずこんな風に声をかけておけば大丈夫だろう。

「あなた…誰?」

なんかめっちゃ警戒されてる気がするんですけど。

こちらが名乗る前に相手の口が開いた。

「もしかして…糸崎くんですか?」

「えっ…そうですが…」

何故か俺の名前を知っていた。理由を聞こうとする前にまた相手の口が開いた。

「貴方があの美咲希副会長の弟ね。意外だわ」

意外ってどういう意味なのか。気になるけど聞きたくないな。

もしもガッカリです。なんて言われたら姉さんに顔向け出来ないし、精神的ダメージがでかい。

「あの、お名前を伺っても良いですか」

恐る恐る聞いてみた。片方だけが知っているってことが嫌だし、気になる。

「あっ、名乗るのを遅れてしまって申し訳ありません。私は大野浦茉希おおのうら まき。この学院の一年よ」

一年ってことは同い年か。てっきり一つ上の学年だと思っていた。

姉さんが『女性に実年齢より上だと思ったって言ってはダメよ』と言っていたので口にしないようにする。

「大野浦さん。よろしくお願いします」

「ええ、よろしくね。糸崎くん」

こうして、大野浦茉姫と俺は出会ったのである。

すると、不意に教室のドアが開き、中から1人の生徒が出てきた。

「2人とも楽しそうだねー。わたしも混ぜておくれよ」

そう言うと女子生徒な俺たちを教室内へ招いたのであった。



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