第106話 打開策

「……世間話はこれくらいにして、そろそろ状況を整理するか」


 サークのその言葉に、私達は小さく頷いた。……エリスさんだけは、まだ話し足りないって顔をしてたけど。


「まず、サーク達が、ギルドから派遣された救援って事でいいんだな?」

「ああ、間違いない」


 まずヒューイさんが、改めてそう確認を取る。私とサークは、それに頷き返す。


「なら改めて、こちらの現状を伝えよう。……外をうろつく奴らの異様さは、二人も目にしたな?」


 ここに駆け込む前の光景を思い出して身震いしながら、私は頷く。あんな不気味な敵、生まれて始めて見た……。


「何なんだ、アレは。多分ゴーレムの類だってのは解るが」

「俺達にもよく解ってないんだ。俺達が依頼を受けてこの村に辿り着いた時には、村は既に奴らに占拠されてた」

「村の探索は?」

「上手くいってない。救援要請の手紙だって、殆ど命懸けで出したくらいだ」


 ヒューイさんが額を押さえ、深く溜息を吐く。消えない眉間の皺が、彼がここで遭遇した苦労を物語っている。


「村の探索が出来てないのには、もう一つ理由があるの」


 そこにエリスさんが、言葉を続けた。


「この辺りの精霊達、皆何かに怯えたようにこっちの呼びかけに応じないのよ。私は武器を振るうのが苦手だから、ヒューイに頼りきりになってしまって……」

「姉さんは悪くない。俺が姉さんの代わりになれるならそうするさ」

「でも、私達はチームなのに、あなたばかりに負担を背負わせるのは……」

「大体の事情は解った。精霊に頼れないなら、確かに足で地道に探索するしかなさそうだな」


 二人の会話を遮り、サークが意見を述べる。確かに私も、それしかないような気がした。


「幸い奴らは、屋内にまでは侵入してこない。だからこそ俺達も、こうして籠城出来ているんだが……」

「て事は、何とか家の中に潜り込めれば……」

「ああ。中の探索は、問題なく行えると思う」


 ひとまずサークとヒューイさんの意見が一致したところで、私も色々考えてみる。あいつらの追跡を振り切って、効率的に他の家に移動するには……。


「……手っ取り早いのは、奴らを引きつけるグループと家屋の探索を行うグループに別れる事か」


 私が悩んでいると。不意に、サークがそう言った。


「引きつける……囮になるって事?」

「ああ。そして、出来るならその役は俺が引き受けようと思う」

「駄目よ、そんなの!」


 サークの意見に、真っ先に反論したのはエリスさんだった。エリスさんはまるで小さい子を叱るように、軽くサークを睨み付ける。


「囮なら私がやるわ。だって私、何にも役に立ってないもの!」

「それこそ駄目だ。運動神経の悪いお前が、奴らに追い詰められたらどうやって逃げる気だ?」

「……それは」

「集団戦は、俺が一番慣れてる。そういう意味でも、俺が最も適任だ」


 けれど隙のないサークの論調に、エリスさんの顔はだんだん俯いていく。……サークの案が一番現実的だって頭では解るし、いつもの私ならきっと言う通りにしてるけど、エリスさんのあんな姿見てたら何だか放って置けないよ……。


「じ、じゃあ、私もサークと一緒に囮をやるよ! それなら危なくないよ!」

「いや、クーナ、お前は探索を担当してくれ。この中じゃ俺を除けば、お前が一番フットワークが軽い」

「で、でも……」

「……なら俺がサークにつこう。俺なら弓が使えるから、後方支援には持ってこいだ」

「ヒューイ、お前まで……だが確かにお前の弓の腕は信用出来る。頼む」


 ヒューイさんと揃って、エリスさんの方を見る。エリスさんはまだ不安げな顔をしてたけど、納得したように頷いてくれた。


「今日はそろそろ日が暮れる。一旦休んで、夜が明けたら探索に取りかかろう」


 最後にそう宣言したサークに、反対する者は誰もいなかった。

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