第105話 私の知らないあなた

「じゃあ、改めて自己紹介をするわね!」


 一旦皆で、家の奥に集まって。まずそう切り出したのは、エリスと紹介された女の人だった。


「私はエリス。冒険者よ。そしてこっちは弟の……」

「……ヒューイだ。姉さんと組んで冒険者をやってる」

「……悪い、ちょっといいか」


 二人が名前を名乗ったところで、サークが話に割って入る。その指は、痛みを誤魔化すように眉間を押さえていた。


「どうしたの、サーク?」

「まずお前達、いつ冒険者になんてなったんだ。ずっと森で生活してただろ」


 サークの質問に、二人は顔を見合わせる。そして、少し言いにくそうに言った。


「……私達、あなたが追放されてすぐに森を出たのよ」

「追放……?」


 その言葉に私は、思わずサークを見てしまう。サークが、故郷から追放?

 確かにサークが冒険者になる前の話や、故郷の話をしてくれた事は一度もない。それは、故郷を追放されてるからなの……?


「サーク……追放って……?」

「え? あなた、サークから聞いていないの? サークは……」

「俺の話は今はいい。それよりお前達がここにいる理由だ、エリス。……何があった?」


 私に追放について話してくれようとしたエリスさんを、サークが強引に遮る。私とサークを見比べ、迷うような顔をするエリスさんの代わりに、ヒューイさんがサークの問いに答えた。


「……愛想が尽きたんだ。森を守った恩人を、感謝もせずにことごとく追い出しにかかる同族に」

「出来れば、あの子も連れて森を出たかったけど……ご両親が頑なに手放そうとしなくて。仕方なく、私達だけで」

「……そうか」


 二人の話に、サークは無表情に俯く。端で聞いてる私には、三人が何の事を話しているのか当然解らない。

 この二人は、私の知らないサークを知っている。きっとサークが語りたがらない、昔のサークを。

 その事が、少しだけ悔しい。私が知ってるのは所詮、サークの人生のほんの一部にすぎないんだって思い知らされる。

 ……たった十六年しか生きてない私が、サークに一番近い存在になりたい、なんて、やっぱり無理な望みなのかな……?


「ねえ、まだあなたのお名前を聞いていなかったわ。良ければ私に教えて?」


 俯く私に、エリスさんが優しい声をかけてくれる。私とそんなに歳が離れてるようには見えないのに、実際生きた年月がそう思わせるんだろうか、少しだけひいおばあちゃまと話をしているような錯覚に陥った。


「あ、えっと……クーナ、です」

「クーナちゃん! 可愛い名前ね、あなたにピッタリだわ!」


 私が名乗ると、エリスさんは朗らかに笑う。その笑顔からは、エリスさんが本当に人なつっこい、いい人なんだというのが伝わってくる。


「お会い出来て嬉しいわ! 私の事はどうか、お義姉ちゃんと思って接して頂戴ね、クーナちゃん! うふふ、嬉しいわ、こんなに可愛い義妹いもうとが出来て!」

「姉さん……気が早い」

「は、はい……?」

「……お前ら……」


 でも、何でエリスさんが私を見てこんなに盛り上がってるのかはよく解らなかった。

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