第101話 月夜の出発
バルザックを倒した翌日の夜、私とサークだけが、秘密裏に王様の病室に呼び出された。
王様という人を生まれて初めて目にしたけど、若くて理知的で、イメージしていた王様と全然違った。救出前に聞いた話では、身を呈して兵士の被害を最小限にしたと言うから、きっと立派な人なんだろう。
集まった私とサークに、まだ体調が万全でない様子の王様は言った。このまま急いで国を出た方が、私達の為になると。
王様は総て見抜いていた。サークが英雄として扱われる事を良しとしていない事も。それでもこのままでは、サークが英雄としてこのムンゾに拘束されるのは避けられないという事も。
だからサークと、その仲間である私を呼び出し言ったのだ。早くこの国を出た方がいいと。
それが王様の本心かどうかは解らない。サークの話じゃ、以前自分よりサークの方が人心を集める事を恐れて、サークを国外追放した王様もいたらしい。
でも今この国に拘束されれば、厄介な事になるのも確かだ。それなら王様の言う通り、今のうちにコッソリ国を出るべきだろう。
「『竜斬り』殿。あなたは私が、最も憧れる英雄です。そのあなたを追い出すような真似、誠に心苦しいのですが、これが自由を何よりも愛するあなたに出来る、私からの最大限の礼です」
「頭を上げて下さい、王様」
申し訳無さそうに、深々と頭を下げた王様に、サークはゆっくりと首を横に振った。
「一国の王にそこまで気にかけて頂いて、寧ろこちらが申し訳無いくらいです。丁度こちらも、すぐに国を出ようと思ってたところです。ご忠告、謹んで受け取らせて頂きます」
「そうですか……そう言って頂けると、私も救われます。馬車は既に手配してありますので、早急に国境まで移動出来るでしょう」
「何から何までご親切痛み入ります。この国が、一日も早く復興される事を祈っています」
こうして私達は、月夜の下、馬車に乗ってムンゾを離れる事になった。ベルにはあらかじめ私達の向かう先は伝えてあるから、後から追いかけるのに支障はない筈だ。
恐らくは異神側の最強の一角であるグレンの存在。そして魔物を自在に操る人間……。
問題はどんどん増えるばかりで。時々、挫けたくもなる。
それでも、自分が当事者であるなら尚更。逃げる訳にはいかないって、そう思うんだ。
見てなさい。私は絶対、『
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