第57話 豊穣神の祭り
「元気ねえな、クーナ」
「え?」
病院のある町でカゲロウさんとクオンと別れ、イドまで戻ってきたその翌日。突然サークが、そんな事を言った。
「ど、どうしたの、急に?」
「表情に覇気がない。何年お前と一緒にいると思ってんだ、それくらい解る」
「……うぅ」
すっかり気分を見透かされてしまい、私は呻くしかなくなる。私の気持ちには全然気付いてくれない癖に、それ以外の事に関してはサークはとても鋭い。
……カゲロウさんが、私に残した予言。それがずっと、私の心に棘となって刺さっている。
サークの事は、勿論信じてる。サークが自分の意思で私に剣を向けるなんて考えられない。
なら、誰かに強要されて? ……それは有り得るかもしれない。誰かを人質に取られてとか、サークならやむ無く従ってもおかしくない。
でも、それならカゲロウさんがあんなに強く警告するだろうか? 見るからにやむを得ない感じだったら、カゲロウさんならサークにも警告するんじゃないかな?
うぅ……何度考えても、堂々巡りにしかならないよぉ……。カゲロウさんに、もっと詳しく話を聞いとけば良かった……。
「……心配か。カゲロウ達の事が」
そんな私の葛藤を、カゲロウさん達への心配と受け取ったらしい。少し真剣な顔で、サークが言った。
「……うん。そうだね」
言う通りの気持ちも少しあったので、ここは頷いておく。予言の事を知らないサークが、そう思うのは当然だと思った。
「大丈夫さ。別れる時、二人ともスッキリした顔してたろ。入院費も少しだけど俺達で出したし」
「うん……」
別れ際の、カゲロウさんとクオンの様子を思い出す。二人の顔にあったのは未来への不安ではなく希望だったように、確かに私にも思えた。
あんな風に晴れやかな顔を、私もしたい。でも……。
「……今日は少し、街に出るか」
「え?」
再び堂々巡りの思考に入りそうになった時。突然、サークが話題を変えた。
「今丁度、サイキョウの豊穣神クニヌシの祭りの準備してるからよ。気分転換になるかもしれねえ」
「……いいの?」
「いつまでも落ち込まれて、ズルズル引きずられる方が困る」
目を瞬かせる私に、少し照れ臭そうにサークが言う。これ、って……もしかして、デートのお誘い……?
ど、どうしよう!? まさかサークから誘ってくれるなんて!?
予言への不安はまだある。あるけど、でも……今だけは少しくらい楽しんでも、きっといいよね?
「んで? 行くの、行かねえの?」
「い、行く!」
再度問いかけてくるサークに、私は反射的に大きく頷いていた。
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