第48話 非正規の依頼
ここで話は一度、テオドラとプリシラの冒険者登録の時まで遡る。
解らないところがあればフォローしようと二人の登録についてきた私達だったけど、二人の飲み込みが早い上に受付の職員さんも親切な人で。あらかじめ決めておいた偽の出身地の記入を確認した後はやる事もなく、暇潰しに依頼の掲示板でも眺めようという事になった。
「誰か……誰か話を聞いて下さい……」
「ん?」
そこで私達は、困った顔をしながら周囲の冒険者を呼び止めようとしている男の人に気付いた。旅装らしき服装だけど武器も携えてなく、冒険者と言った感じではない。
男の人は声を上げ続けてるけど、周りは誰もそれに応えようとはしない。こっちから声をかけようかと考えていると、私達に気付いた冒険者グループがこっちに近付いてきた。
「やぁ。この辺りでは見ない顔だな」
「ああ。このイドには、今日到着したばかりだ」
サークが頷くと、冒険者グループが更に私達に近付く。そして、声を潜めて言った。
「――悪い事は言わない。あの男には関わらない方がいい」
「何故だ?」
「何でもあの男、ギルドに依頼を断られてああして自分で冒険者を探してるらしい。ギルドが受諾しない依頼なんてそんなもの、相場の依頼金にも満たないしけた依頼かでなきゃろくでもない依頼に決まってる。だから皆、あの男には関わろうとしないのさ」
「……成る程」
冒険者ギルドは寄せられた依頼を審査して、それに通ったものだけが依頼掲示板に張り出される。依頼をするにはギルドに前払いで報酬を預けないといけないし、例えお金があっても犯罪に関わるような依頼は審査の段階で落とされる。
中にはそういう非正規の依頼を影で請け負ってるような冒険者もいるけど……。犯罪行為に関わった冒険者には厳しい処罰が下されるから、大半の冒険者はリスクを恐れて、そういった依頼は無視するものなのだ。
(……でも……)
もう一度、チラリと男の人の方を見る。見た目で判断するのは危険とは言え、私には男の人が心底困っているようにしか見えなかった。
「じゃあな。今この国は魔物が増えてるから稼ぎ時だぜ」
最後にそう言って、冒険者グループは去っていった。私はどうしようかと迷いながら、サークの顔に目を向ける。
「……話だけでも聞いてやりたいって顔だな」
私の方を振り向いたサークが、溜息混じりに呟いた。私は素直に、それに頷き返す。
「うん。本当に困ってるなら少しくらい報酬が安くたって助けてあげたいし、もしそうじゃなくて冒険者を悪事に利用しようとしてるなら、誰かが騙される前に止めないといけないもん」
そう答えると、サークは少し感心したようにふん、と鼻を鳴らした。そして、私の頭を帽子越しにポンポンと軽く叩く。
「ただの同情じゃなく、そこまでちゃんと考えてんならいい。行くぞ、クーナ」
「うん!」
歩き出したサークに笑顔を返して、私は男の人の元へと向かった。
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