第35話 小さな疑惑

 テオドラと出会った林まで戻り、精霊の案内でその更に奧へと進む。だんだん辺りが暗くなり始めていたので、サークが途中でポータブルカンテラを点けた。


「結構ボク達の故郷に近い文明なんだ……」


 ポータブルカンテラを見てテオドラが何か呟いたけど、その意味はよく解らなかった。……テオドラは悪い子じゃなさそうだけど、何かを私達に隠してる。そんな気がする。

 歩いているうちに林が途切れ、開けた場所に出る。そこに現れたものに、私は思わず目を見張った。


「凄い……何これ」


 それは、オーク達の小さな集落だった。周囲には集落を守るように高い柵が作られ、唯一開いた入口には石槍を持ったオークが二匹陣取っている。


「奴ら、随分前からここに居着いてたようだな。人里離れた場所だからか、数はそんなに増えてないようだが……」

「えっ、オークってそんな簡単に増えるんですか?」

「何言ってんだお前。魔物ってのは食い物さえあれば勝手に増えるもんだろ」


 サークの呟きに驚きの声をあげるテオドラを思わずサークと二人、不審な目で見てしまう。例え冒険者じゃなくたって、旅をしてるなら魔物の簡単な生態については知っててもいい筈なのに……。

 そう、魔物は他の生物のように、生殖行為では増えない。食事によって混沌のエネルギーを増やし、同族を生み出すのだ。

 もっと簡単に言えば、魔物は食事をすると分裂する。ただ突然変異を起こした種だけは、分裂する事はないらしい。

 そもそも魔物は、ある程度の混沌が場に満ちれば勝手に生まれてくる。魔物を根絶出来ないのは、それが原因だ。

 それは旅する者なら、誰もが持っている常識。そう――この世界では・・・・・・


 ――じゃあ、この世界じゃなかったら?


 ……待って。不意に浮かんだ考えに、心臓が早鐘を打つ。

 まさか。まさかテオドラも、ビビアンと同じ――。


「……っそれなら! これ以上オークが増える前に、シラを助ける!」


 その声に思考の海から抜け出した時には、テオドラが戦斧を振りかざし二匹のオークに向けて突進していった後だった。サークも止められなかったのかそれとも止める気がなかったのか、駆けていくテオドラの背中を見つめている。


「どどど、どうしようサーク!?」

「……」


 サークはテオドラを見つめたまま、何も言わない。私よりも頭のいいサークの事だ、きっと私と同じ考えに辿り着いてる。だからこうして動かないんだ。

 テオドラが敵なのか、味方なのか。どっちにしても確証がないけど、でも……。


「……サーク、私決めたよ。テオドラが妹さんを助けたい気持ちだけは、信じる!」

「おい、クーナ!」


 慌てて私を制止しようとするサークの手を振り払い。私は、テオドラの後を追って林を飛び出していった。

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